きんだーがーでん

紫水晶羅

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偽装恋人

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 楓の話を聞き終えた頃には、グラスの汗はすっかり落ち、底に小さな水溜りができていた。
「なるほどね……。だから楓、最近ちょっとよそよそしかったんだ……」
 同時に、政宗が不倫の事実を知っていたことも合点がいく。
「なんか、このまま知らん顔して美乃里と友だち関係続けるの、しんどくなって……」
 楓が深くこうべを垂れる。
「そっか……。正直に話してくれてありがとう」
 ぬるくなったスポーツドリンクを一口飲み下し、美乃里はふうっと息をついた。

「ほんとごめん。あたし馬鹿だよね。そんなことしても、政宗はあたしのことなんか、好きになってくれるわけないのに」
「そんなこと……」
「いいの。同情なんてやめて。余計惨めになるだけだから」
 痛みを堪えるような顔でコンビニ袋からスナック菓子を取り出すと、楓はバリッと音を立て、勢いよく袋を破いた。

「ところでさ……」
 スナック菓子を摘んで口に入れながら、楓は遠慮がちに言葉を繋いだ。
「どうすんの? 篠崎とのこと。このままズルズル付き合ってたら、いつか痛い目に……」
「遭ったよ。痛い目」
「え?」
「私、妊娠したの」

「え……。ええええええっ!?」

 両手を口に当て、楓が大きく仰け反った。
「最近具合い悪かったの、そのせい」
「そう……なんだ……」
「うん……。だけどね、もう……いないんだ」
「い、いない……って?」
 ふっと力なく笑うと、美乃里は瞳に涙を浮かべた。
「堕ろしたの。金曜日に。いなくなっちゃった。私の……赤ちゃん」
 美乃里は、顔を覆って泣き崩れた。
「美乃里……」
 そろりと美乃里の元へと近付くと、楓は、激しく震えるその肩を抱いた。

「辛かったね……」
 自然と美乃里の身体が傾く。そのまま引力に吸い寄せられるように楓の胸に顔を埋めると、美乃里は声を上げて泣きじゃくった。

 楓は、掛ける言葉も見つからず、ただただ、震えるその背中を、力を込めて撫で続けていた。

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