52 / 100
偽装恋人
3
しおりを挟む楓の話を聞き終えた頃には、グラスの汗はすっかり落ち、底に小さな水溜りができていた。
「なるほどね……。だから楓、最近ちょっとよそよそしかったんだ……」
同時に、政宗が不倫の事実を知っていたことも合点がいく。
「なんか、このまま知らん顔して美乃里と友だち関係続けるの、しんどくなって……」
楓が深く首を垂れる。
「そっか……。正直に話してくれてありがとう」
ぬるくなったスポーツドリンクを一口飲み下し、美乃里はふうっと息をついた。
「ほんとごめん。あたし馬鹿だよね。そんなことしても、政宗はあたしのことなんか、好きになってくれるわけないのに」
「そんなこと……」
「いいの。同情なんてやめて。余計惨めになるだけだから」
痛みを堪えるような顔でコンビニ袋からスナック菓子を取り出すと、楓はバリッと音を立て、勢いよく袋を破いた。
「ところでさ……」
スナック菓子を摘んで口に入れながら、楓は遠慮がちに言葉を繋いだ。
「どうすんの? 篠崎とのこと。このままズルズル付き合ってたら、いつか痛い目に……」
「遭ったよ。痛い目」
「え?」
「私、妊娠したの」
「え……。ええええええっ!?」
両手を口に当て、楓が大きく仰け反った。
「最近具合い悪かったの、そのせい」
「そう……なんだ……」
「うん……。だけどね、もう……いないんだ」
「い、いない……って?」
ふっと力なく笑うと、美乃里は瞳に涙を浮かべた。
「堕ろしたの。金曜日に。いなくなっちゃった。私の……赤ちゃん」
美乃里は、顔を覆って泣き崩れた。
「美乃里……」
そろりと美乃里の元へと近付くと、楓は、激しく震えるその肩を抱いた。
「辛かったね……」
自然と美乃里の身体が傾く。そのまま引力に吸い寄せられるように楓の胸に顔を埋めると、美乃里は声を上げて泣きじゃくった。
楓は、掛ける言葉も見つからず、ただただ、震えるその背中を、力を込めて撫で続けていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

私と継母の極めて平凡な日常
当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。
残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。
「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」
そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。
そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。
※他のサイトにも重複投稿しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる