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偽装恋人
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しおりを挟む「大丈夫? 今年は残暑が厳しいからね」
夏バテだと聞いていた楓は、コンビニ袋からスポーツドリンクと塩分タブレットを取り出しながら、うんざりした顔で笑った。
美乃里の自宅がよくわからなかった楓は、スマホに住所を送ってもらい、地図アプリを駆使してここまで辿り着いたのだった。
「迷わなかった?」
心配そうに訊く美乃里に「全然」と笑顔で答えると、楓は用意してもらったグラスにスポーツドリンクを注いだ。
「じゃ、とりあえず乾杯しよっか」
楓がグラスを持ち上げる。
「何に?」
ぼそりと小さく美乃里が訊ねた。
「ええっとぉ……。美乃里の快気祝い?」
「快気してないけど?」
不満げに眉間にしわを寄せる美乃里に、「じゃ、快気祈願って事で」と笑うと、ほら持って、と楓がグラスを促した。
「もう……」
呆れたように笑うと、乾杯、と美乃里はグラスを打ちつけた。
***
「あのね……」
チョコミント味のチョコレート菓子を口に一つ放り込んだあと、楓は姿勢を正して座り直した。
「あたし、美乃里に謝らなきゃいけない事があるんだ」
「ん?」
同じくチョコレート菓子を口の中に入れると、美乃里はキョトンとした顔で首を傾げた。
両手を膝に乗せたまま、楓は俯き加減で、瞳を左右に忙しなく動かす。暫くしたあと、意を決したように顔を上げると、楓は美乃里をじっと見つめた。
「あたしね、喋っちゃったの。政宗に……」
「え……? なに……を?」
美乃里がゴクリと喉を鳴らす。テーブルの上に置かれた両手が、小刻みに震え出した。
「美乃里が、篠崎と不倫してること」
「……!」
美乃里の瞳が、大きく開いた。
「なんで……それ……?」
その瞳が戸惑いに揺れる。
「ほんと、ごめん!」
テーブルにぶつかりそうなほど深く、楓が頭を下げた。
「あ、あの……。楓?」
恐る恐る、美乃里が声をかける。
「なんで……知ってるの? 私と……篠崎先生とのこと……」
「それは……」
気まずそうに上目遣いで美乃里の顔を伺ったあと、楓は観念したように、大きく息を吐き出した。
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「うそっ?」
短く叫び、美乃里は両手で口を覆った。
「それで、そのこと政宗に……」
「なんで、政宗に?」
「だって……」
突然口を噤むと、楓は言いにくそうに身体をモジモジと動かした。
「楓?」
「好きなの」
「え?」
「あたし、好きなの。政宗のこと……」
「……!」
美乃里が大きく息を呑んだ。
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