きんだーがーでん

紫水晶羅

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政宗の覚悟

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「先生は、そんな私も全て受け止めてくれたの。ありのままの私を見せて欲しいって……」
「ありのまま……ね」
 あの変態野郎、と政宗が舌を鳴らす。そんなこと言わないで、と美乃里は眉をひそめた。
「わかってた。先生が家庭を捨てられないってこと。だけど、そんなのどうでも良かった。先生との時間だけが、私の唯一の居場所だったの」
 美乃里の瞳が、大きく揺らいだ。

「美乃里……」
 政宗はフォークを置くと、姿勢を正して座り直した。
「その役目、俺じゃダメか?」
「え?」
「これからは、俺がずっと側にいる。美乃里の弱さも、寂しさも、悲しみも、俺が全部受け止めてやる。だから……」
 一旦言葉を切り、政宗は美乃里の瞳を覗き込む。
 美乃里の双眸が、ちゃんと自分を捉えていることを確認すると、政宗は、噛み締めるように言葉を繋いだ。

「結婚……しよう」

「……!」
 美乃里の瞳が大きく見開く。
「もし美乃里が産みたいって言うんなら、俺がその子の父親になる」
 信じられないものを見るような眼差しで政宗をじっと見たあと、美乃里は小さく首を振った。

「何……言ってるの?」
「俺は本気だ。真面目に美乃里のこと……」
「やめて!」
 テーブルの上にフォークを投げ出すと、美乃里は自身の身体をかき抱いた。
「できるわけない。そんなこと」
「なんで?」
「当たり前でしょ? 先生の子だよ? あんなに憎んでる人の子ども、政宗は愛せるの?」
「美乃里の子だ」
「綺麗ごと言わないで!」
 美乃里の目に涙が滲む。
「この子は、先生の子よ。父親は、先生しか……いない」
「まだ……愛してるのか?」
 美乃里がコクリと頷いた。

「なんでだよ……。あんな酷い仕打ち受けたのに、なんでまだ……」
「政宗……ごめん」
「謝んな」
 スッと立ち上がると、政宗は勉強机の脇にあるチェストから小さな箱を取り出した。
 ピンクのリボンがかけられたその白い箱をギュッと手に握りしめ、政宗は美乃里の隣に座った。

「俺はまだ諦めない。だからまだ、謝んな」
 美乃里の手を取ると、いかにも不器用そうな仏頂面のまま、政宗は「ん」とその手に箱を乗せた。
「これ、ずっと渡そうとして、渡しそびれてたやつ」
「え? 何?」
 怪訝そうに、美乃里が見つめる。
「誕生日プレゼント」
 恥ずかしそうに下を向き、政宗が頭を掻いた。
「誕生日って……。私、六月だよ?」
「だから、渡しそびれたって言ってんだろ?」
「何ヶ月そびれてんの?」
 ぷっと思わず、美乃里が笑った。
 その笑顔に少しホッとし、政宗は「開けてみ?」と美乃里に促した。

「箱、ちょっとひしゃげてない?」
「ああ……。細かいことは気にすんな」
 軽口を叩きながらも政宗は、美乃里の手元をじっと見守る。
「これ……」
 開けた瞬間のその表情に、政宗は安堵の息を漏らした。

「誕生石。美乃里に似合うと思って」
 箱の中には、ネックレスが入っていた。
 トップに輝くパールの上には、さり気なくゴールドのリボンがあしらわれている。
「可愛い……」
「本当は、それ渡して告白するつもりだったんだ」
「六月に?」
「そう。六月に」
 お互い、顔を見合わせ笑った。

「なんか、いろいろ順番狂ったけど」

 改めて姿勢を正して座り直すと、政宗は両膝に握り拳を置き、美乃里の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「俺の気持ちは変わらない」
「政宗……」
「美乃里が産みたいっていうなら、俺が支える。諦めるっていうなら、俺も一緒に、その悲しみを引き受ける。俺はずっと、美乃里の側にいたい。これから先もずっと。だから……」

 軽く目を閉じ深く息を吸うと、政宗は顔を上げ天を仰いだ。そのまま何度か深呼吸したあと、再び視線を美乃里に戻した。

「ほんの少しでいいから、考えてみてくれないか? その……、俺とのこと……」

 困ったような顔で、美乃里が政宗をじっと見返す。その双眸が、戸惑いながら激しく揺らめく。
 暫く政宗の瞳の奥を覗き込んだあと、やがて美乃里は、静かに息を吐き出した。

「……わかった」
 諦めたように、美乃里は肩を落として呟いた。
「ありがとう」
 張り詰めた糸をほどくように深い溜息を漏らしながら、政宗が両手で顔を覆った。


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