49 / 100
政宗の覚悟
5
しおりを挟む
「先生は、そんな私も全て受け止めてくれたの。ありのままの私を見せて欲しいって……」
「ありのまま……ね」
あの変態野郎、と政宗が舌を鳴らす。そんなこと言わないで、と美乃里は眉をひそめた。
「わかってた。先生が家庭を捨てられないってこと。だけど、そんなのどうでも良かった。先生との時間だけが、私の唯一の居場所だったの」
美乃里の瞳が、大きく揺らいだ。
「美乃里……」
政宗はフォークを置くと、姿勢を正して座り直した。
「その役目、俺じゃダメか?」
「え?」
「これからは、俺がずっと側にいる。美乃里の弱さも、寂しさも、悲しみも、俺が全部受け止めてやる。だから……」
一旦言葉を切り、政宗は美乃里の瞳を覗き込む。
美乃里の双眸が、ちゃんと自分を捉えていることを確認すると、政宗は、噛み締めるように言葉を繋いだ。
「結婚……しよう」
「……!」
美乃里の瞳が大きく見開く。
「もし美乃里が産みたいって言うんなら、俺がその子の父親になる」
信じられないものを見るような眼差しで政宗をじっと見たあと、美乃里は小さく首を振った。
「何……言ってるの?」
「俺は本気だ。真面目に美乃里のこと……」
「やめて!」
テーブルの上にフォークを投げ出すと、美乃里は自身の身体をかき抱いた。
「できるわけない。そんなこと」
「なんで?」
「当たり前でしょ? 先生の子だよ? あんなに憎んでる人の子ども、政宗は愛せるの?」
「美乃里の子だ」
「綺麗ごと言わないで!」
美乃里の目に涙が滲む。
「この子は、先生の子よ。父親は、先生しか……いない」
「まだ……愛してるのか?」
美乃里がコクリと頷いた。
「なんでだよ……。あんな酷い仕打ち受けたのに、なんでまだ……」
「政宗……ごめん」
「謝んな」
スッと立ち上がると、政宗は勉強机の脇にあるチェストから小さな箱を取り出した。
ピンクのリボンがかけられたその白い箱をギュッと手に握りしめ、政宗は美乃里の隣に座った。
「俺はまだ諦めない。だからまだ、謝んな」
美乃里の手を取ると、いかにも不器用そうな仏頂面のまま、政宗は「ん」とその手に箱を乗せた。
「これ、ずっと渡そうとして、渡しそびれてたやつ」
「え? 何?」
怪訝そうに、美乃里が見つめる。
「誕生日プレゼント」
恥ずかしそうに下を向き、政宗が頭を掻いた。
「誕生日って……。私、六月だよ?」
「だから、渡しそびれたって言ってんだろ?」
「何ヶ月そびれてんの?」
ぷっと思わず、美乃里が笑った。
その笑顔に少しホッとし、政宗は「開けてみ?」と美乃里に促した。
「箱、ちょっとひしゃげてない?」
「ああ……。細かいことは気にすんな」
軽口を叩きながらも政宗は、美乃里の手元をじっと見守る。
「これ……」
開けた瞬間のその表情に、政宗は安堵の息を漏らした。
「誕生石。美乃里に似合うと思って」
箱の中には、ネックレスが入っていた。
トップに輝くパールの上には、さり気なくゴールドのリボンがあしらわれている。
「可愛い……」
「本当は、それ渡して告白するつもりだったんだ」
「六月に?」
「そう。六月に」
お互い、顔を見合わせ笑った。
「なんか、いろいろ順番狂ったけど」
改めて姿勢を正して座り直すと、政宗は両膝に握り拳を置き、美乃里の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「俺の気持ちは変わらない」
「政宗……」
「美乃里が産みたいっていうなら、俺が支える。諦めるっていうなら、俺も一緒に、その悲しみを引き受ける。俺はずっと、美乃里の側にいたい。これから先もずっと。だから……」
軽く目を閉じ深く息を吸うと、政宗は顔を上げ天を仰いだ。そのまま何度か深呼吸したあと、再び視線を美乃里に戻した。
「ほんの少しでいいから、考えてみてくれないか? その……、俺とのこと……」
困ったような顔で、美乃里が政宗をじっと見返す。その双眸が、戸惑いながら激しく揺らめく。
暫く政宗の瞳の奥を覗き込んだあと、やがて美乃里は、静かに息を吐き出した。
「……わかった」
諦めたように、美乃里は肩を落として呟いた。
「ありがとう」
張り詰めた糸を解くように深い溜息を漏らしながら、政宗が両手で顔を覆った。
「ありのまま……ね」
あの変態野郎、と政宗が舌を鳴らす。そんなこと言わないで、と美乃里は眉をひそめた。
「わかってた。先生が家庭を捨てられないってこと。だけど、そんなのどうでも良かった。先生との時間だけが、私の唯一の居場所だったの」
美乃里の瞳が、大きく揺らいだ。
「美乃里……」
政宗はフォークを置くと、姿勢を正して座り直した。
「その役目、俺じゃダメか?」
「え?」
「これからは、俺がずっと側にいる。美乃里の弱さも、寂しさも、悲しみも、俺が全部受け止めてやる。だから……」
一旦言葉を切り、政宗は美乃里の瞳を覗き込む。
美乃里の双眸が、ちゃんと自分を捉えていることを確認すると、政宗は、噛み締めるように言葉を繋いだ。
「結婚……しよう」
「……!」
美乃里の瞳が大きく見開く。
「もし美乃里が産みたいって言うんなら、俺がその子の父親になる」
信じられないものを見るような眼差しで政宗をじっと見たあと、美乃里は小さく首を振った。
「何……言ってるの?」
「俺は本気だ。真面目に美乃里のこと……」
「やめて!」
テーブルの上にフォークを投げ出すと、美乃里は自身の身体をかき抱いた。
「できるわけない。そんなこと」
「なんで?」
「当たり前でしょ? 先生の子だよ? あんなに憎んでる人の子ども、政宗は愛せるの?」
「美乃里の子だ」
「綺麗ごと言わないで!」
美乃里の目に涙が滲む。
「この子は、先生の子よ。父親は、先生しか……いない」
「まだ……愛してるのか?」
美乃里がコクリと頷いた。
「なんでだよ……。あんな酷い仕打ち受けたのに、なんでまだ……」
「政宗……ごめん」
「謝んな」
スッと立ち上がると、政宗は勉強机の脇にあるチェストから小さな箱を取り出した。
ピンクのリボンがかけられたその白い箱をギュッと手に握りしめ、政宗は美乃里の隣に座った。
「俺はまだ諦めない。だからまだ、謝んな」
美乃里の手を取ると、いかにも不器用そうな仏頂面のまま、政宗は「ん」とその手に箱を乗せた。
「これ、ずっと渡そうとして、渡しそびれてたやつ」
「え? 何?」
怪訝そうに、美乃里が見つめる。
「誕生日プレゼント」
恥ずかしそうに下を向き、政宗が頭を掻いた。
「誕生日って……。私、六月だよ?」
「だから、渡しそびれたって言ってんだろ?」
「何ヶ月そびれてんの?」
ぷっと思わず、美乃里が笑った。
その笑顔に少しホッとし、政宗は「開けてみ?」と美乃里に促した。
「箱、ちょっとひしゃげてない?」
「ああ……。細かいことは気にすんな」
軽口を叩きながらも政宗は、美乃里の手元をじっと見守る。
「これ……」
開けた瞬間のその表情に、政宗は安堵の息を漏らした。
「誕生石。美乃里に似合うと思って」
箱の中には、ネックレスが入っていた。
トップに輝くパールの上には、さり気なくゴールドのリボンがあしらわれている。
「可愛い……」
「本当は、それ渡して告白するつもりだったんだ」
「六月に?」
「そう。六月に」
お互い、顔を見合わせ笑った。
「なんか、いろいろ順番狂ったけど」
改めて姿勢を正して座り直すと、政宗は両膝に握り拳を置き、美乃里の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「俺の気持ちは変わらない」
「政宗……」
「美乃里が産みたいっていうなら、俺が支える。諦めるっていうなら、俺も一緒に、その悲しみを引き受ける。俺はずっと、美乃里の側にいたい。これから先もずっと。だから……」
軽く目を閉じ深く息を吸うと、政宗は顔を上げ天を仰いだ。そのまま何度か深呼吸したあと、再び視線を美乃里に戻した。
「ほんの少しでいいから、考えてみてくれないか? その……、俺とのこと……」
困ったような顔で、美乃里が政宗をじっと見返す。その双眸が、戸惑いながら激しく揺らめく。
暫く政宗の瞳の奥を覗き込んだあと、やがて美乃里は、静かに息を吐き出した。
「……わかった」
諦めたように、美乃里は肩を落として呟いた。
「ありがとう」
張り詰めた糸を解くように深い溜息を漏らしながら、政宗が両手で顔を覆った。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
アラサー独身の俺が義妹を預かることになった件~俺と義妹が本当の家族になるまで~
おとら@ 書籍発売中
ライト文芸
ある日、小さいながらも飲食店を経営する俺に連絡が入る。
従兄弟であり、俺の育ての親でもある兄貴から、転勤するから二人の娘を預かってくれと。
これは一度家族になることから逃げ出した男が、義妹と過ごしていくうちに、再び家族になるまでの軌跡である。
『Happiness 幸福というもの』
設樂理沙
ライト文芸
息子の恋人との顔会わせをする段になった時「あんな~~~な女なんて
絶対家になんて上げないわよ!どこか他所の場所で充分でしょ!!」と言い放つ鬼畜母。
そんな親を持ってしまった息子に幸せは訪れるでしょうか?
最後のほうでほんのちょこっとですが、わたしの好きな仔猫や小さな子が出て来ます。
2つの小さな幸せを描いています。❀.(*´◡`*)❀.
追記:
一生懸命生きてる二人の女性が寂しさや悲しみを
抱えながらも、運命の男性との出会いで幸せに
なってゆく・・物語です。
人の振れ合いや暖かさみたいなものを
感じていただければ幸いです。
注意 年の差婚、再婚されてる方、不快に思われる台詞が
ありますのでご注意ください。(ごめんなさい)
ちな、私も、こんな非道な発言をするような姑は
嫌いどす。
・(旧) Puzzleの加筆修正版になります。(2016年4月上旬~掲載)
『Happiness 幸福というもの』
❦ イラストはAI生成有償画像 OBAKERON様
◇再掲載は2021.10.14~2021.12.22
わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に
川喜多アンヌ
ミステリー
あのイケメンが捜査官? 話せば長~いわけありで。
もしあなたの同僚が、潜入捜査官だったら? こんな人がいるんです。
ホークは十四歳で家出した。名門の家も学校も捨てた。以来ずっと偽名で生きている。だから他人に化ける演技は超一流。証券会社に潜入するのは問題ない……のはずだったんだけど――。
なりきり過ぎる捜査官の、どっちが本業かわからない潜入捜査。怒涛のような業務と客に振り回されて、任務を遂行できるのか? そんな中、家族を巻き込む事件に遭遇し……。
リアルなオフィスのあるあるに笑ってください。
主人公は4話目から登場します。表紙は自作です。
主な登場人物
ホーク……米国歳入庁(IRS)特別捜査官である主人公の暗号名。今回潜入中の名前はアラン・キャンベル。恋人の前ではデイヴィッド・コリンズ。
トニー・リナルディ……米国歳入庁の主任特別捜査官。ホークの上司。
メイリード・コリンズ……ワシントンでホークが同棲する恋人。
カルロ・バルディーニ……米国歳入庁捜査局ロンドン支部のリーダー。ホークのロンドンでの上司。
アダム・グリーンバーグ……LB証券でのホークの同僚。欧州株式営業部。
イーサン、ライアン、ルパート、ジョルジオ……同。
パメラ……同。営業アシスタント。
レイチェル・ハリー……同。審査部次長。
エディ・ミケルソン……同。株式部COO。
ハル・タキガワ……同。人事部スタッフ。東京支店のリストラでロンドンに転勤中。
ジェイミー・トールマン……LB証券でのホークの上司。株式営業本部長。
トマシュ・レコフ……ロマネスク海運の社長。ホークの客。
アンドレ・ブルラク……ロマネスク海運の財務担当者。
マリー・ラクロワ……トマシュ・レコフの愛人。ホークの客。
マーク・スチュアート……資産運用会社『セブンオークス』の社長。ホークの叔父。
グレン・スチュアート……マークの息子。
シチューにカツいれるほう?
とき
ライト文芸
一見、みんなに頼られる優等生。
でも、人には決して言えない秘密があった。
仄暗い家の事情……。
学校ではそれを感じさせまいと、気丈に振る舞っていた。
見せかけの優等生を演じるのに疲れ、心が沈んでしまうとき、彼の存在があった。
毒吐く毒親、ネグレクトする毒親。
家庭に悩まされているのは彼も同じだった。
その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?
行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。
貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。
元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。
これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。
※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑)
※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。
※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。
人魚はファンタジーなんかじゃない
雪まるげ
ライト文芸
大学2年生の三船律は同じ大学で美形と有名な「潮海人」と出会う。
彼は「好きな人を探しているんだ、協力してほしい」と律へ頼み込む。
困っている彼を見て協力することにした律だが、この男には不思議な秘密があって……。
現実とファンタジーが交錯する、青春ラブコメストーリー。
【完結】お茶を飲みながら -季節の風にのって-
志戸呂 玲萌音
ライト文芸
les quatre saisons
フランス語で 『四季』 と言う意味の紅茶専門のカフェを舞台としたお話です。
【プロローグ】
茉莉香がles quatre saisonsで働くきっかけと、
そこに集まる人々を描きます。
このお話は短いですが、彼女の人生に大きな影響を与えます。
【第一章】
茉莉香は、ある青年と出会います。
彼にはいろいろと秘密があるようですが、
様々な出来事が、二人を次第に結び付けていきます。
【第二章】
茉莉香は、将来について真剣に考えるようになります。
彼女は、悩みながらも、自分の道を模索し続けます。
果たして、どんな人生を選択するのか?
お話は、第三章、四章と続きながら、茉莉香の成長を描きます。
主人公は、決してあきらめません。
悩みながらも自分の道を歩んで行き、日々を楽しむことを忘れません。
全編を通して、美味しい紅茶と甘いお菓子が登場し、
読者の方も、ほっと一息ついていただけると思います。
ぜひ、お立ち寄りください。
※小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にても連載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる