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政宗の覚悟
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しおりを挟む日は既に西へと傾き、造形室の半分が薄い闇に包まれた。
美乃里の悲しい息づかいが、政宗の腕の中から絶え間なく漏れてくる。
大丈夫か? と心配そうに見つめる政宗に、美乃里は力なく頷いた。
「……わかりました。もう、産むなんて言いません……。だから先生……。お願いだから、そんな目で……、私を見ないで」
美乃里の瞳から、次々と涙がこぼれ落ちた。
「美乃里……。すまない……」
篠崎が、頭を床に擦り付ける。
丸まった篠崎の背中が、情け無いほどに震えていた。
「いいのか? 美乃里」
政宗が訊く。その胸に身体を預けたまま、美乃里はコクリと頷いた。
ふうっと長く息を吐き出すと、政宗は篠崎を見下ろした。
「美乃里は一生、俺が守る。お前にはもう、指一本触れさせねぇ」
えっ? と勢いよく、篠崎が顔を上げる。
「君は、もしかして……」
じっと政宗の瞳を覗き込み、やがて大きく息をつくと、「いや……」と小さく首を振り、篠崎はどかりと腰を下ろした。
「この事、学長には……?」
両膝に顔を埋め、恐る恐る篠崎が訊いた。
「お前、ほんと最低だな。この期に及んで保身かよ」
「仕方ないだろ? 僕には、養わなければならない家族がいる」
「だったらなんでっ……!」
再び掴みかかろうとする政宗を、美乃里が必死に抑える。
「もういいよ、政宗。もう、充分だから……」
「美乃里……」
涙の滲む瞳で懇願する美乃里を辛そうに見つめたあと、政宗はふっと力を抜き、篠崎に軽蔑の眼差しを向けた。
「俺は言うつもりねぇよ。誰にも」
一瞬、篠崎の顔に安堵の色が差す。その表情に、政宗が嫌悪感を露わにする。
「これ以上、美乃里を傷付ける訳にはいかねぇからな」
庇うように身体ごと美乃里を包み込むと、「行こう」と政宗はゆっくり踵を返した。
政宗の胸にもたれ、美乃里は引きずるように足を運ぶ。
廊下に一歩踏み出したところで、美乃里は堪らず振り返った。
瞬間、二人の視線が絡み合う。
無言の決別を交わしたあと、二人の想いを、冷たいドアが断ち切った。
「美乃里……」
すすり泣く篠崎の姿を、夕暮れの薄暗闇が、音もなく静かに覆い隠していった……。
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