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政宗の覚悟
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「お前、自分が何やったのかわかってんのかっ?」
「ぐっ……」
「責任とれよっ!」
「政宗やめて!」
政宗の腕を美乃里が掴む。その隙を突き、篠崎が政宗の手を払い除けた。
ゴホゴホとむせながら、篠崎は荒い息を繰り返した。
「庇うのかよ? こんな奴のこと」
「先生は悪くない。私が悪いの」
「なんで……?」
「だって、私が……」
美乃里は言葉を切ると、篠崎を見つめた。その瞳に涙の粒が膨らむ。
「私が勝手に……好きになったから……」
美乃里の頬を、涙が伝った。
「み……」
驚いたように瞳を見開いたあと、篠崎は静かに首を振った。
「すまない……」
「先生……」
「子どもが……産まれるんだ」
「こ……ども?」
スッと美乃里から視線を逸らすと、篠崎は、気まずそうに床を見つめた。
「もうすぐ、二番目が……、産まれるんだ」
「おま……っ! 何言って……!」
ビクっと肩を震わせ、篠崎は慌てて顔を上げた。
「金は出す。だから……」
「堕ろせってこと……ですか?」
「悪かったと思ってる。だけど君だって、本気だった訳じゃないんだろ?」
「ひどい……」
「君はまだ若い。こんな妻子持ちのオジサンなんか、綺麗さっぱり忘れた方が……」
「そんな……」
「てめっ……っ!」
ゴッという鈍い音の後、篠崎が作業台の上に倒れ込んだ。
弾みでなぎ倒された丸椅子が数脚、足元に転がり弧を描いた。
「っつう……」
作業台にもたれながら、篠崎が左手で頬を押さえる。口元から、赤い筋が伝って落ちた。
「先生っ!」
短く叫び、美乃里が両手で口を覆った。
「黙って聞いてりゃ、勝手なことを……」
握った拳をわななかせ、政宗は、怒りに全身を震わせた。
「美乃里はなぁ、真剣だったんだよ。本気であんたのこと……愛してたんだ」
「政宗……。もういいから……」
「良くねぇだろっ!」
痛みを堪えるような表情で、政宗が悲痛な叫び声を上げる。
「愛してたから、言えなかったんだ。あんたに迷惑、かけたくなくて……」
「そう……なのか?」
ゆらりと身を起こし、手の甲で口元を拭うと、篠崎は戸惑いながら美乃里を見つめた。そっと目を伏せ、美乃里は静かに頷いた。
「そんな……」
「先生……」
俯いたまま、美乃里が小さく囁いた。
「もしも私が……、産みたいって、言ったら……?」
えっ? と篠崎が、僅かに身体を仰反らせた。
「馬鹿なこと、言わないでくれ」
「馬鹿なこと……ですか?」
「当たり前だろう? 勘弁してくれ」
何度も首を振りながら、篠崎はじりじりと後ずさった。
「このっ……!」
その胸ぐらを政宗が素早く掴む。「ひっ!」と上擦った声を上げ、篠崎が両腕で顔を覆った。
「お前、ほんとクズだな」
突き放すように政宗が手を離すと、篠崎の身体は側にあった丸椅子ごとひっくり返った。
「いい歳こいて、責任とれねぇことすんなよ!」
ギリギリと音をさせ、政宗は奥歯を噛み締めた。
「お、お願いだ。いくらでも金は払う。だから、産むなんて言わないでくれ」
正座をし、両手を揃えて床に置くと、篠崎は怯えるような目で美乃里を見上げた。
「やめて……ください……」
全身を震わせ、美乃里は必死で言葉を繋ぐ。
「私、先生のそんな姿……、見たくない」
ぐらりと美乃里の身体が傾く。咄嗟に政宗は、その身体を抱きとめた。
「ぐっ……」
「責任とれよっ!」
「政宗やめて!」
政宗の腕を美乃里が掴む。その隙を突き、篠崎が政宗の手を払い除けた。
ゴホゴホとむせながら、篠崎は荒い息を繰り返した。
「庇うのかよ? こんな奴のこと」
「先生は悪くない。私が悪いの」
「なんで……?」
「だって、私が……」
美乃里は言葉を切ると、篠崎を見つめた。その瞳に涙の粒が膨らむ。
「私が勝手に……好きになったから……」
美乃里の頬を、涙が伝った。
「み……」
驚いたように瞳を見開いたあと、篠崎は静かに首を振った。
「すまない……」
「先生……」
「子どもが……産まれるんだ」
「こ……ども?」
スッと美乃里から視線を逸らすと、篠崎は、気まずそうに床を見つめた。
「もうすぐ、二番目が……、産まれるんだ」
「おま……っ! 何言って……!」
ビクっと肩を震わせ、篠崎は慌てて顔を上げた。
「金は出す。だから……」
「堕ろせってこと……ですか?」
「悪かったと思ってる。だけど君だって、本気だった訳じゃないんだろ?」
「ひどい……」
「君はまだ若い。こんな妻子持ちのオジサンなんか、綺麗さっぱり忘れた方が……」
「そんな……」
「てめっ……っ!」
ゴッという鈍い音の後、篠崎が作業台の上に倒れ込んだ。
弾みでなぎ倒された丸椅子が数脚、足元に転がり弧を描いた。
「っつう……」
作業台にもたれながら、篠崎が左手で頬を押さえる。口元から、赤い筋が伝って落ちた。
「先生っ!」
短く叫び、美乃里が両手で口を覆った。
「黙って聞いてりゃ、勝手なことを……」
握った拳をわななかせ、政宗は、怒りに全身を震わせた。
「美乃里はなぁ、真剣だったんだよ。本気であんたのこと……愛してたんだ」
「政宗……。もういいから……」
「良くねぇだろっ!」
痛みを堪えるような表情で、政宗が悲痛な叫び声を上げる。
「愛してたから、言えなかったんだ。あんたに迷惑、かけたくなくて……」
「そう……なのか?」
ゆらりと身を起こし、手の甲で口元を拭うと、篠崎は戸惑いながら美乃里を見つめた。そっと目を伏せ、美乃里は静かに頷いた。
「そんな……」
「先生……」
俯いたまま、美乃里が小さく囁いた。
「もしも私が……、産みたいって、言ったら……?」
えっ? と篠崎が、僅かに身体を仰反らせた。
「馬鹿なこと、言わないでくれ」
「馬鹿なこと……ですか?」
「当たり前だろう? 勘弁してくれ」
何度も首を振りながら、篠崎はじりじりと後ずさった。
「このっ……!」
その胸ぐらを政宗が素早く掴む。「ひっ!」と上擦った声を上げ、篠崎が両腕で顔を覆った。
「お前、ほんとクズだな」
突き放すように政宗が手を離すと、篠崎の身体は側にあった丸椅子ごとひっくり返った。
「いい歳こいて、責任とれねぇことすんなよ!」
ギリギリと音をさせ、政宗は奥歯を噛み締めた。
「お、お願いだ。いくらでも金は払う。だから、産むなんて言わないでくれ」
正座をし、両手を揃えて床に置くと、篠崎は怯えるような目で美乃里を見上げた。
「やめて……ください……」
全身を震わせ、美乃里は必死で言葉を繋ぐ。
「私、先生のそんな姿……、見たくない」
ぐらりと美乃里の身体が傾く。咄嗟に政宗は、その身体を抱きとめた。
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