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嫉妬と友情
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しおりを挟む一段と激しくなった雨の音で、楓はふと我に返った。
「傘……」
掴んでいる聖の手を少しずらし、楓が窓の外を見つめた。
「傘?」
「どうしよう。来るとき降ってなかったから」
「ああ……」
楓の言葉から、持って来なかったのか、と聖は一人理解する。
「家まで送るよ」
車あるし、と聖はにっこり微笑んだ。
「優しいね。聖は」
「俺が今まで冷たくしたことあった?」
「……ない」
答えたあと、楓は再び泣き出した。
「気が済むまで泣けよ。今日はとことん付き合ってやるから」
はい、と聖は、ティッシュボックスを楓の膝の上に乗せた。
「ん……」
ボックスから何枚かティッシュを取り出したあと、楓は素早く聖に背を向けた。
「楓?」
「見ないで。あたし今、酷い顔してる」
鼻をかみながら、楓は答えた。
「別に気にしなくていいのに」
ははっと可笑しそうに聖が笑った。
「女は気にするの。そういうこと」
「ふぅん」
聖の指が、楓の髪をさらりと撫でた。
「綺麗だよ。楓は」
「えっ?」
「どんなに泣いたって、どんなに酷いこと言ったって、楓はずっと綺麗なままだ。何も変わらない」
聖の両腕が、ふわりと楓を包み込む。
「ちょっ……!」
背後に聖の吐息を感じ、楓は慌てて身体を捩った。
「ごめん。楓。俺、こんな慰め方しか知らない……」
「聖……」
「だけど、俺で良かったら、いつでも話聞くし」
一旦言葉を切ると、聖は楓の頭にちょこんと顎を乗せた。
「なんなら身体だって……」
「かっ……っ!」
「もちろん、楓が望むなら、だけどね」
楓の頭上で、聖がからかうようにククッと喉を鳴らして笑った。
「ばっ、ばっかじゃないのっ?」
前に回された聖の腕にしがみつき、楓はその温もりに顔を埋めた。
「……ありがと」
「どういたしまして」
とびきり甘い声で、聖がふわりと答えた。
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