きんだーがーでん

紫水晶羅

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嫉妬と友情

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「多分あたし、心のどこかで美乃里に対してコンプレックス持ってたんだと思う。頭良くて、誰にでも優しくて、先生にも気に入られてて……。そんな美乃里が羨ましくて……、疎ましかった……」
「そっか」
「でもね。篠崎と不倫してるって知って、なんだか美乃里が急にちっぽけな存在に見えてきて……。あんな後ろめたい事してる美乃里なんかより、あたしの方が人間的に優れてるんじゃないかって……」

 大きく息を吸いながら、楓は天を仰ぎ見た。

「誰にも言うつもりなんてなかった。言わずに、心の中でこっそり優越感に浸っていたかった。だけど……」
 少しずつ顔を戻しながら、楓は無表情で言葉を繋いだ。

「遊園地で政宗の気持ち知って」
「ああ。俺があの時、変なこと言っちゃったから?」
 罰が悪そうに、聖が唇の端を歪める。
 ううん、と楓は首を振った。

「どうしてもっと早く気づかなかったんだろうって……。もっと早く気づいていれば……」
 自重気味に、楓が笑った。
「あたし、馬鹿みたいじゃん。何も知らずに、政宗んとこ何度も飲みに行ったりして……。バイトが終わるの待って、一緒に帰ったりなんかして……。帰り道、一人でドキドキしたりして……」
「凄く好きなんだね。政宗のこと。だから許せなかった」
 違う? と聖は、楓の顔を覗き込んだ。
「聖……。あたし……」
 楓の目から涙がこぼれ、膝の上に置いた握り拳にポタリと落ちた。

「そう。許せなかった。平気で不倫してる美乃里も。そんな美乃里のことを想い続けてる政宗も」
「うん」
「薄々気付いてた。どんなに頑張っても、政宗はあたしのことなんて好きにならない。あたしなんて眼中にないって……。でも、それならそれでいいと思ってた。だって仕方ないもん。人の気持ちは変えられないから。だから、友だちとして側にいられるなら、それでいいって……」
 堰を切ったように溢れ出した感情が、言葉に乗って流れ出す。
「だけど……」
 憎々しげに瞳を歪めると、楓は、スカートをきつく握りしめた。

「美乃里にだけは、獲られたくなかった。不倫してる、美乃里にだけは……」
 次々とこぼれる涙が、楓のスカートに染みを作る。
「乳児院で実習してる時も、何食わぬ顔で平然と笑ってて……。人の気も知らないで……。そう思ったら悔しくて……。バチが当たればいいって……」

 頬を伝う楓の涙を、聖が手のひらで優しく拭った。
 すがり付くようにその手を握りしめると、楓は、小さく声を上げて泣いた。

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