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不協和音
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遊園地の中は、夏休みということもあり、平日にも関わらず多くの親子連れや若者たちで賑わっていた。
朝からギラギラと照りつける太陽に、身体中の水分が全て奪われそうになる。
小まめに水分を摂りながら、四人はマップ片手に次なるアトラクションへと向かった。
「ねぇ。次フリーホール乗ろうよ」
楓がはしゃいだ声を上げる。
「待て。俺もう無理……」
先程乗ったジェットコースターのダメージが抜けきらないのか、政宗が青い顔で尻込みをした。
「ええ? だらしないなぁ」
横目で政宗を軽く睨むと、二人は? と楓は、聖と美乃里に視線を流した。
「俺は全然よゆー」
聖が顔の横でVサインする。
「私も大丈夫」
同じくVサインを作りながら、美乃里がにっこり微笑んだ。
「じゃあ三人で行って来いよ。俺、適当に休んでっから」
周りを見渡したあと、政宗は少し先にあるベンチを顎で指した。
「それじゃあ私も休んでよっかな。なんかちょっと疲れちゃったし」
ハンドタオルで額の汗を押さえながら、美乃里がふうっと息をついた。
「ええ? それならみんなで……」
「んじゃ、俺ら二人で行ってこよっか!」
楓の言葉を聖が遮り、その腕を強く掴んだ。
「えっ? ちょっとまっ……!」
「じゃ、行ってきまーす!」
「ちょっ……! 聖っ!」
聖に引きずられ、楓の姿が遠ざかっていく。
「行ってらっしゃーい!」
名残惜しそうにこちらを何度も振り返る楓に、政宗と美乃里は笑いながら手を振った。
「行っちゃったね」
「そうだな」
小さくなる二人の背を目で追いながら、美乃里はふふっと微笑んだ。
「面白いよね。あの二人」
「だよな。案外お似合いかもな。あいつら」
遠くにそびえ立つフリーホールの支柱を見ながら、政宗が目を細めた。
「そうかな?」
「ああ。だって楓の前だけだろ? 聖が自分晒け出せんの」
「あ……。確かに」
「楓と付き合ったらさ、聖の女癖の悪さも少しは落ち着くんじゃねぇの?」
「そんな上手くいくかなぁ?」
人差し指を頤に当て、美乃里は小首を傾げた。
「それより……」
くるりと身を翻し政宗の前に立つと、美乃里は上目遣いにその顔を覗き込んだ。
「政宗はどうなの?」
「え? 俺?」
急に目の前に立たれ、僅かに身を引いた政宗は、驚いたように瞳を大きく見開いた。
「政宗と楓。いい感じだと思うんだけどなぁ」
「俺と楓が?」
「だって、政宗のバイト先にしょっちゅう飲みに行ってるみたいだし。そこから恋愛に発展したりしないの?」
「しねぇよ」
美乃里を横目で睨むと、面倒臭そうに政宗が答えた。
「でもさ。酔った勢いで、いい雰囲気になっちゃったりするかもしれないじゃん?」
両手を頬に当て、美乃里が瞳を輝かせた。
「あるわけねぇだろ。俺、素面だし」
「あ、そっか」
「第一俺は……」
政宗が言葉を詰まらせる。
不思議そうな眼差しを向ける美乃里の瞳を見つめ返し、政宗は再び「俺は……」と繰り返した。
「政宗?」
美乃里が首を傾げた時。
遠くの方から子どもの泣き声が聞こえてきた。
声はどんどん近づいてくる。
間も無く二人の視界に、「おかぁさぁーん!」と泣きじゃくる男の子の姿が映り込んだ。
「え? 迷子?」
二組の若いカップルが、その子の周りでオロオロしている。あまりにも激しくしゃくり上げている為、どうしていいのかわからないようだ。
皆一様に、助けを求めるように辺りをキョロキョロ見回している。
「行こ!」
「あ! 美乃里!」
政宗が声を掛けた時にはもう、美乃里の足は駆け出していた。
朝からギラギラと照りつける太陽に、身体中の水分が全て奪われそうになる。
小まめに水分を摂りながら、四人はマップ片手に次なるアトラクションへと向かった。
「ねぇ。次フリーホール乗ろうよ」
楓がはしゃいだ声を上げる。
「待て。俺もう無理……」
先程乗ったジェットコースターのダメージが抜けきらないのか、政宗が青い顔で尻込みをした。
「ええ? だらしないなぁ」
横目で政宗を軽く睨むと、二人は? と楓は、聖と美乃里に視線を流した。
「俺は全然よゆー」
聖が顔の横でVサインする。
「私も大丈夫」
同じくVサインを作りながら、美乃里がにっこり微笑んだ。
「じゃあ三人で行って来いよ。俺、適当に休んでっから」
周りを見渡したあと、政宗は少し先にあるベンチを顎で指した。
「それじゃあ私も休んでよっかな。なんかちょっと疲れちゃったし」
ハンドタオルで額の汗を押さえながら、美乃里がふうっと息をついた。
「ええ? それならみんなで……」
「んじゃ、俺ら二人で行ってこよっか!」
楓の言葉を聖が遮り、その腕を強く掴んだ。
「えっ? ちょっとまっ……!」
「じゃ、行ってきまーす!」
「ちょっ……! 聖っ!」
聖に引きずられ、楓の姿が遠ざかっていく。
「行ってらっしゃーい!」
名残惜しそうにこちらを何度も振り返る楓に、政宗と美乃里は笑いながら手を振った。
「行っちゃったね」
「そうだな」
小さくなる二人の背を目で追いながら、美乃里はふふっと微笑んだ。
「面白いよね。あの二人」
「だよな。案外お似合いかもな。あいつら」
遠くにそびえ立つフリーホールの支柱を見ながら、政宗が目を細めた。
「そうかな?」
「ああ。だって楓の前だけだろ? 聖が自分晒け出せんの」
「あ……。確かに」
「楓と付き合ったらさ、聖の女癖の悪さも少しは落ち着くんじゃねぇの?」
「そんな上手くいくかなぁ?」
人差し指を頤に当て、美乃里は小首を傾げた。
「それより……」
くるりと身を翻し政宗の前に立つと、美乃里は上目遣いにその顔を覗き込んだ。
「政宗はどうなの?」
「え? 俺?」
急に目の前に立たれ、僅かに身を引いた政宗は、驚いたように瞳を大きく見開いた。
「政宗と楓。いい感じだと思うんだけどなぁ」
「俺と楓が?」
「だって、政宗のバイト先にしょっちゅう飲みに行ってるみたいだし。そこから恋愛に発展したりしないの?」
「しねぇよ」
美乃里を横目で睨むと、面倒臭そうに政宗が答えた。
「でもさ。酔った勢いで、いい雰囲気になっちゃったりするかもしれないじゃん?」
両手を頬に当て、美乃里が瞳を輝かせた。
「あるわけねぇだろ。俺、素面だし」
「あ、そっか」
「第一俺は……」
政宗が言葉を詰まらせる。
不思議そうな眼差しを向ける美乃里の瞳を見つめ返し、政宗は再び「俺は……」と繰り返した。
「政宗?」
美乃里が首を傾げた時。
遠くの方から子どもの泣き声が聞こえてきた。
声はどんどん近づいてくる。
間も無く二人の視界に、「おかぁさぁーん!」と泣きじゃくる男の子の姿が映り込んだ。
「え? 迷子?」
二組の若いカップルが、その子の周りでオロオロしている。あまりにも激しくしゃくり上げている為、どうしていいのかわからないようだ。
皆一様に、助けを求めるように辺りをキョロキョロ見回している。
「行こ!」
「あ! 美乃里!」
政宗が声を掛けた時にはもう、美乃里の足は駆け出していた。
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