きんだーがーでん

紫水晶羅

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ポケットの中の気持ち

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 店長とも相談した結果、遊園地に行く日は十一日に決定した。
 十日は客入りが読めないという政宗側の意見と、十二日は墓参りの準備があるという楓側の都合を加味した結果だ。

「アイス、ごちそうさまでした」
 帰り支度をして厨房に声を掛けた楓に、店長は「こちらこそありがとね。またいつでもおいで」と笑顔で答えた。
 政宗の友だちということで、店長は四人にアイスクリームをサービスしてくれたのだ。
 店長や他のスタッフに挨拶すると、皆で揃ってレジへと向かった。

 会計を済ませ店を出ようとすると、楓が突然立ち止まった。
「ごめん。あたし、帰る前にお手洗い行ってくる」
「あ、俺も」
 続いて聖も立ち止まる。
 同時に踵を返すと、二人は連れ立ってトイレへと向かった。
「先出てるぞ」
 その背に政宗が声を掛ける。
 バイトの先輩と暫く言葉を交わしたあと、政宗は美乃里を促し外へ出た。

 引き戸を開けた途端、外の熱気が身体中にまとわりつく。
「あちー」
 大袈裟に顔をしかめながら、政宗は後ろ手に入り口の戸を閉めた。

「夜なのに暑いね」
「そうだな」
 通りへ一歩踏み出し立ち止まると、美乃里は大きく夜空を仰いだ。
 その背に「美乃里」政宗が、声を掛けた。
「ん?」
 美乃里がくるりと振り返る。肩まであるストレートの黒髪が、アルコールでほんのり色付く柔らかな頬をさらりと撫でた。

「あ、あのさ」
「なに?」
「楽しみだな。遊園地」
「ん。そうだね」
 美乃里の瞳が、嬉しそうに弧を描いた。

「……美乃里」
 喉がつかえたような掠れた声で、政宗が美乃里の名前を呼ぶ。
「なあに?」
 少し垂れた奥二重を大きく見開き、美乃里が不思議そうに首を傾げた。

「あの……、これ……」
 独り言のように小さく呟き下を向くと、政宗は、パンツのポケットにそっと右手を差し込んだ。

「政宗?」
 政宗の視線が、忙しなく地面を這う。空いている左手が、所在なさげに頭を掻いた。

「どうしたの?」
「いや、あの、その……。今更なんだけど……」
 パンツのポケットから、政宗の右手が引き出される。
 あと少しで全てが現れようとしたその瞬間とき
「それじゃ、ごちそうさまでしたぁ!」
 ガラリと引き戸が開く音と共に、聖と楓が店から出てきた。
 ピクリと肩を震わせると、政宗は慌てて右手をポケットの中へと押し込めた。

「お待たせー!」
 向かい合って立つ二人の元に、楓がにこやかに駆け寄ってくる。
「外あちーね」
 Tシャツの襟をパタつかせ、聖がゆっくり近づいて来た。

「お、おう。じゃ、帰るか」
 両手をポケットに突っ込むと、政宗は先頭切って歩き始めた。
「え? 政宗?」
 その背を美乃里が追いかける。
「ねえ。さっき何か……」
「なんでもねぇよ」
 美乃里の言葉に、政宗が荒々しく声を被せた。

「どうかしたの?」
 楓が美乃里に問いかける。
「さあ?」
 両手を上に向けながら、美乃里は首を傾げ、肩を竦めた。

「じゃあ俺、こっちだから」
 大通りに出ると、政宗は右手を軽く上げ、「またな」と足早に帰っていった。

「なんだあいつ?」
 聖が口を尖らせる。
「なんか……あったの?」
 神妙な面持ちで、楓は美乃里の顔を覗き込んだ。

「んー……。よくわかんない」
 遠ざかる背中を目で追いながら、美乃里は、先程の政宗の不可解な行動を、頭の中で反芻していた……。


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