きんだーがーでん

紫水晶羅

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「じゃ、あとよろしくね」
「はぁい。お疲れ様でしたぁ」
 遅番の先生を見送り、楓はふうっと息をついた。

 楓の家はお寺だ。
 住職の父が経営する保育園で、母は園長として働いている。
 だが住職の妻というのは忙しく、園に常駐していられるわけではない。
 普段は父の妹、つまり楓の叔母が、副園長として園を切り盛りしている。
 今日は叔母の都合がつかず、代わりに楓が最後の戸締りをすることになった。

「お腹減ったなぁ……」
 両手を上げて大きく伸びると、胃のあたりからキュルルルル……と情け無い音がした。
「やだもう」
 誰が聞いているわけでもないのに、楓はお腹を押さえ、顔を赤らめた。

 土曜日の昼下がり。
 最後の園児を送り出したのが十二時半。それから片付けや戸締りを行い、時計の針は既に十三時を指していた。
「そりゃお腹が減るわけだ」
 楓はひとりごち、くすりと笑った。

 親が保育園経営をしている環境で育った楓は、保育士志望としてはかなり有利だ。
 当然ここの卒園児の楓は、卒園してからもよく遊びに来ていた。

 こぢんまりとしたアットホームなこの園は、幼い楓にとって絶好の遊び場だった。
 子どもたちから『お姉ちゃん』と慕われ、職員からも常に可愛がられて育った楓は、当たり前のように保育の道へと進むことを決意した。
 両親も喜んでくれ、皆から「次期園長」とはやし立てられることもしばしばだ。

「よし。早く帰ってお昼ご飯食べよ」
 玄関の鍵を閉めると、楓は母屋へと向かった。

 園の正面にある園庭を突っ切ると、参道に出る。右手の方に本堂があり、本堂の向かって右側が、家族が生活する母屋となっている。
 楓は足早に母屋へと向かうと、「ただいまぁ」と声を掛けた。
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