きんだーがーでん

紫水晶羅

文字の大きさ
上 下
14 / 100

しおりを挟む
「……なんで?」
 戸惑う聖に、女性は深みのある紅い唇を少しすぼめ、「近くまで来たから迎えに来たんだけど……。ダメだった?」上目遣いで、甘えるように聖を見つめた。
「いや、ダメじゃないけど……」
 困ったように眉を寄せると、聖は茫然と立ちすくんでいる三人のほうに向き直った。

「ええっとぉ……。この人は、静華さん」
 聖の紹介を受け、その女性は、政宗、美乃里、楓を順に見たあと、「静華です。いつもうちの聖がお世話になっております」しなやかに頭を下げた。

「うちの……?」
 怪訝そうな顔で、楓が訊ねる。
「ええ。母です。聖の」
「は……おかあさん!?」
 楓をはじめ、政宗と美乃里も驚き目を見張った。

 丁寧にメイクされたツヤ感のある肌に、意志の強そうなくっきり二重が印象的な、大人の女性。
 大ぶりなカールが施されたダークブラウンのロングヘアーが、小さな輪郭を華やかに飾っている。
 どんなに多く見積もっても、三十代前半というところだ。

 ポカンと口を開けて佇む三人に、静華はくすりと笑みをこぼした。
「義理の……だけどね」
「あ……ああ……。義理の……」
 喉の奥からなんとか言葉を絞り出した美乃里に続き、政宗と楓も納得したようにカクカクと何度も頷いた。

「今日、お店任せて来たから、一緒に食事でもと思って」
 静華は聖の腕にそっと触れると、「いいでしょ?」身体をすり寄せ、その顔を覗き込んだ。
 一瞬、ピクリと身体を震わせたあと、「もちろん」聖は満面の笑みで静華に答えた。

「……ということだから。じゃあね」
 ゆっくり三人の方へ向き直ると、聖は笑顔で手を振った。
「ああ」
「うん」
「じゃあね」
 それぞれ引きつった笑みを浮かべ、三人は遠慮がちに手を振り返した。

「行きましょ」
 それじゃ、と軽く頭を下げ、静華が聖を促す。
「昨日ね、お客様からシャトーブリアン戴いたの」
 静華の甘い声が、学生たちの喧騒を縫って三人の元へと届いてきた。
 可笑しそうに聖を見上げて笑ったあと、静華は、聖の腕に右手を絡ませた。
 そのまま二人は、まるで恋人同士のように身体を寄せ合い、正門の向こうへと消えて行った。

「聖のお義母さんって……」
 美乃里がようやく口を開いた。
「何者?」
 続いて楓が言葉を繋いだ。
「知らん。あいつ、自分の話一切しねぇし」
 腕組みをして、政宗が正門の向こうを食い入るように見つめた。

 暫くすると、大きなエンジン音が轟いてきた。
 キャンパスと公道を仕切る垣根の隙間から、赤いスポーツカーが走り去っていくのが見えた。
 すっかり言葉を失くしてしまった三人は、その音が聞こえなくなるまで、正門を見つめたまま、ぼんやりと立ち尽くしていた……。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...