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聖
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「……なんで?」
戸惑う聖に、女性は深みのある紅い唇を少しすぼめ、「近くまで来たから迎えに来たんだけど……。ダメだった?」上目遣いで、甘えるように聖を見つめた。
「いや、ダメじゃないけど……」
困ったように眉を寄せると、聖は茫然と立ちすくんでいる三人のほうに向き直った。
「ええっとぉ……。この人は、静華さん」
聖の紹介を受け、その女性は、政宗、美乃里、楓を順に見たあと、「静華です。いつもうちの聖がお世話になっております」しなやかに頭を下げた。
「うちの……?」
怪訝そうな顔で、楓が訊ねる。
「ええ。母です。聖の」
「は……おかあさん!?」
楓をはじめ、政宗と美乃里も驚き目を見張った。
丁寧にメイクされたツヤ感のある肌に、意志の強そうなくっきり二重が印象的な、大人の女性。
大ぶりなカールが施されたダークブラウンのロングヘアーが、小さな輪郭を華やかに飾っている。
どんなに多く見積もっても、三十代前半というところだ。
ポカンと口を開けて佇む三人に、静華はくすりと笑みをこぼした。
「義理の……だけどね」
「あ……ああ……。義理の……」
喉の奥からなんとか言葉を絞り出した美乃里に続き、政宗と楓も納得したようにカクカクと何度も頷いた。
「今日、お店任せて来たから、一緒に食事でもと思って」
静華は聖の腕にそっと触れると、「いいでしょ?」身体をすり寄せ、その顔を覗き込んだ。
一瞬、ピクリと身体を震わせたあと、「もちろん」聖は満面の笑みで静華に答えた。
「……ということだから。じゃあね」
ゆっくり三人の方へ向き直ると、聖は笑顔で手を振った。
「ああ」
「うん」
「じゃあね」
それぞれ引きつった笑みを浮かべ、三人は遠慮がちに手を振り返した。
「行きましょ」
それじゃ、と軽く頭を下げ、静華が聖を促す。
「昨日ね、お客様からシャトーブリアン戴いたの」
静華の甘い声が、学生たちの喧騒を縫って三人の元へと届いてきた。
可笑しそうに聖を見上げて笑ったあと、静華は、聖の腕に右手を絡ませた。
そのまま二人は、まるで恋人同士のように身体を寄せ合い、正門の向こうへと消えて行った。
「聖のお義母さんって……」
美乃里がようやく口を開いた。
「何者?」
続いて楓が言葉を繋いだ。
「知らん。あいつ、自分の話一切しねぇし」
腕組みをして、政宗が正門の向こうを食い入るように見つめた。
暫くすると、大きなエンジン音が轟いてきた。
キャンパスと公道を仕切る垣根の隙間から、赤いスポーツカーが走り去っていくのが見えた。
すっかり言葉を失くしてしまった三人は、その音が聞こえなくなるまで、正門を見つめたまま、ぼんやりと立ち尽くしていた……。
戸惑う聖に、女性は深みのある紅い唇を少しすぼめ、「近くまで来たから迎えに来たんだけど……。ダメだった?」上目遣いで、甘えるように聖を見つめた。
「いや、ダメじゃないけど……」
困ったように眉を寄せると、聖は茫然と立ちすくんでいる三人のほうに向き直った。
「ええっとぉ……。この人は、静華さん」
聖の紹介を受け、その女性は、政宗、美乃里、楓を順に見たあと、「静華です。いつもうちの聖がお世話になっております」しなやかに頭を下げた。
「うちの……?」
怪訝そうな顔で、楓が訊ねる。
「ええ。母です。聖の」
「は……おかあさん!?」
楓をはじめ、政宗と美乃里も驚き目を見張った。
丁寧にメイクされたツヤ感のある肌に、意志の強そうなくっきり二重が印象的な、大人の女性。
大ぶりなカールが施されたダークブラウンのロングヘアーが、小さな輪郭を華やかに飾っている。
どんなに多く見積もっても、三十代前半というところだ。
ポカンと口を開けて佇む三人に、静華はくすりと笑みをこぼした。
「義理の……だけどね」
「あ……ああ……。義理の……」
喉の奥からなんとか言葉を絞り出した美乃里に続き、政宗と楓も納得したようにカクカクと何度も頷いた。
「今日、お店任せて来たから、一緒に食事でもと思って」
静華は聖の腕にそっと触れると、「いいでしょ?」身体をすり寄せ、その顔を覗き込んだ。
一瞬、ピクリと身体を震わせたあと、「もちろん」聖は満面の笑みで静華に答えた。
「……ということだから。じゃあね」
ゆっくり三人の方へ向き直ると、聖は笑顔で手を振った。
「ああ」
「うん」
「じゃあね」
それぞれ引きつった笑みを浮かべ、三人は遠慮がちに手を振り返した。
「行きましょ」
それじゃ、と軽く頭を下げ、静華が聖を促す。
「昨日ね、お客様からシャトーブリアン戴いたの」
静華の甘い声が、学生たちの喧騒を縫って三人の元へと届いてきた。
可笑しそうに聖を見上げて笑ったあと、静華は、聖の腕に右手を絡ませた。
そのまま二人は、まるで恋人同士のように身体を寄せ合い、正門の向こうへと消えて行った。
「聖のお義母さんって……」
美乃里がようやく口を開いた。
「何者?」
続いて楓が言葉を繋いだ。
「知らん。あいつ、自分の話一切しねぇし」
腕組みをして、政宗が正門の向こうを食い入るように見つめた。
暫くすると、大きなエンジン音が轟いてきた。
キャンパスと公道を仕切る垣根の隙間から、赤いスポーツカーが走り去っていくのが見えた。
すっかり言葉を失くしてしまった三人は、その音が聞こえなくなるまで、正門を見つめたまま、ぼんやりと立ち尽くしていた……。
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