きんだーがーでん

紫水晶羅

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「じゃあさ」
 気持ち新たに、楓が明るく仕切り直した。
 少し重くなった空気を、楓の張りのある高い声が一掃する。
 ホッとした笑みを浮かべ、政宗と聖が楓の方へと視線を移した。

「キャンプとかどう? 今流行ってるし」
「キャンプかぁ……」
 楽しそう、と美乃里が答えた。
「ね、楽しそうでしょ? 水の無い所だったら大丈夫でしょ? 例えば……山の中とか」
「別に泳がなければ、川とかあっても平気だよ。そもそもキャンプに水は必要でしょ?」
 美乃里が可笑しそうに笑った。
「そっか」
 照れたように、楓が舌を出した。

「道具はどうすんだ?」
 政宗が訊く。
「大丈夫。うちに昔使ってた物があるから。テントもあるし」
 得意そうに、楓が答える。
「テントとか、どうやって運ぶんだ? 車無いとキツいぞ」
 政宗が更にダメ出しをする。
「それは……」
 楓がチラリと聖を見た。
「確か聖、車持ってたよね?」
「ええっ? 俺?」
 いきなり振られ、聖は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。

「この中で車持ってるの、聖だけだし」
「いや、あれ、コンパクトカーだし。四人乗ったら荷物なんてあんま積めないよ」
「じゃあこの際、レンタカーでもいいや。そしたら政宗も運転できるでしょ?」
 今度は政宗に白羽の矢が立つ。
「いや、俺はほら。ペーパードライバーだし……」
 政宗が一気に弱腰になる。
「大丈夫。なんとかなるって」
「ええぇぇ……」
 楓の勢いに押され、政宗が情けない声を上げた。
 そんな政宗の隣で、「あのさ、楓……」聖が恐る恐る楓の顔を覗き込んだ。

「せっかく提案してくれたとこ悪いんだけど……」
「何?」
 楓の視線が聖に移る。その目を申し訳なさそうに見つめながら、「そもそもさ……」途切れ途切れに、聖が答えた。

「俺、キャンプとか……無理……」
「へっ?」
「虫とかいるし」
「はいっ?」
「テントで寝るとか……、マジ、無理……」

「はあぁぁぁっ?」

 呆れ返った楓の声が、カフェテリア中に響き渡った。

「あんた、今更何言ってんの?」
「だって、楓が勝手に話進めるから……」
「なっさけないなぁ。男の子でしょ?」
「性差別反対!」

 再び不穏な空気に包まれる二人を、「まあまあ」「いいから落ち着け」と美乃里と政宗がそれぞれ宥めた。
「美乃里には優しいのに、なんで俺には厳しいの?」
 聖が口を尖らせる。
「日頃の行いだろ?」
 笑いを堪えながら、政宗が憐れんだ目で聖を見つめた。
「それ酷くね?」
 右手で頬杖をつき、不貞腐れた顔で聖がそっぽを向いた。

「じゃあさ、聖はどこ行きたいの?」
 小さな子どもに話しかけるように、美乃里が穏やかに問いかけた。
「俺? 俺は……」
 視線を宙に泳がせ逡巡したあと、「遊園地……とか?」聖は上目遣いに美乃里を見た。

「遊園地かぁ」
 美乃里が「いいね」と笑顔で首肯した。
「遊園地ね」
 楓の顔が一気に華やぐ。
「ま、いいんでない?」
 政宗が腕組みをして、三人の顔を見回した。
「やりぃ!」
 念願が叶った子どもみたいな無邪気な顔で、聖はガッツポーズをした。
「相変わらず大袈裟なヤツだな」
 横目で聖を見ながら、政宗が吹き出す。
 そんな二人の姿に、美乃里と楓も同時に笑った。

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