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聖
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「お待たせー!」
綺麗にカールした長い髪をふわりと揺らし、楓は美乃里の隣に腰掛けた。
「お疲れ様」
美乃里の言葉に、政宗と聖も「お疲れ」と笑顔で楓に声を掛けた。
無事保育園実習を終えた四人は、来るべき夏休みの予定を立てる為、校内にあるカフェテリアに集まっている。
楓は先程、ようやくまとめた実習報告書と実習日誌を担当教授の元に提出してきたところだ。
他の三人に二日ほど遅れをとったが、納得のいく内容だった為か、本人は満足そうな表情を浮かべている。
「で? どこまで話した?」
大きな瞳を煌めかせ、楓が身を乗り出した。
「いや。何も」
正面に座る政宗が、少し身を引き視線を逸らした。
「楓が来てからの方がいいんじゃないかって……」
申し訳なさそうに、美乃里が俯き加減で楓を見つめた。
「こういう話はやっぱ、イベント担当がいないとねぇ」
少しも悪びれた様子もなく、聖があっけらかんと笑った。
「誰がイベント担当じゃい!」
両手でテーブルを叩いて腰を浮かすと、楓が聖に詰め寄った。
こわっ! と聖が大袈裟に仰反る。まあまあ、と、美乃里がいつもの如く二人を宥めた。
「ったく……」
無言で聖をひと睨みしたあと、楓は再び腰を落ち着かせた。
よっ! イベント担当! と囃し立てる聖を軽くスルーし、楓は自らの案を話し始めた。
「夏だしさ、海ってのもいいかなって思って。学生生活最後の夏なんだし、パーっと騒ぎたいなって」
「おおっ! いいねぇ。浜辺でバーベキューとかやっちゃう?」
早速聖が話に乗った。なんだかんだ言っても、この二人は結構気が合っている。
「いいね、いいね。で、夜は花火とか?」
「いいじゃんそれ! ロケット花火対決とかしたりして?」
まるで子どものように瞳を輝かせ、聖がはしゃいだ。
「海で花火ねぇ。最近禁止のとことかあんじゃね?」
政宗の冷静な声が割り込んできた。
「そんなん調べりゃいいじゃん」
聖が口を尖らせる。
早速スマホで『海 花火』と入力したところで、「あのぉ……」それまで黙って皆のやりとりを聞いていた美乃里が声を上げた。
「海は、ちょっと……」
ブラウスの胸元を軽く掴みながら、美乃里はそっと目を伏せた。
「え? まさかの水着NG?」
大きな瞳をパチクリさせながら、楓が美乃里の全身に視線を這わせた。
「ん……」
気まずそうに、美乃里が言葉を濁す。
「何か……あるの?」
心配そうに、楓が訊く。
同じく神妙な面持ちの政宗と聖を順に見たあと、美乃里は楓に向き直った。
「昔、溺れた事があってね。それ以来ダメなんだ。水は……」
「そうなの? ごめん。知らなかった」
楓が、悲しそうに眉尻を下げた。
「そういう事なら仕方ねぇんじゃね?」
政宗が、労わるような目で美乃里を見つめる。
「だね。みんなが楽しめなきゃ意味ないもんね」
弾けるように、聖が笑った。
「ごめんね……。みんな……」
美乃里は深々と頭を下げた。
「いいって、いいって」
次々と発せられる慰めの言葉に、美乃里の胸は鋭く痛んだ。
洋服の下に隠された、先日刻まれたばかりの愛の証が、再び熱を持って美乃里の身体を熱くする。
昔溺れた事があるなんて嘘だった。
水着になどなってしまったら、毎回施される篠崎の刻印が明るみに出てしまう。
美乃里は胸元をきつく握りしめ、「ありがとう」精一杯の笑顔で答えた。
綺麗にカールした長い髪をふわりと揺らし、楓は美乃里の隣に腰掛けた。
「お疲れ様」
美乃里の言葉に、政宗と聖も「お疲れ」と笑顔で楓に声を掛けた。
無事保育園実習を終えた四人は、来るべき夏休みの予定を立てる為、校内にあるカフェテリアに集まっている。
楓は先程、ようやくまとめた実習報告書と実習日誌を担当教授の元に提出してきたところだ。
他の三人に二日ほど遅れをとったが、納得のいく内容だった為か、本人は満足そうな表情を浮かべている。
「で? どこまで話した?」
大きな瞳を煌めかせ、楓が身を乗り出した。
「いや。何も」
正面に座る政宗が、少し身を引き視線を逸らした。
「楓が来てからの方がいいんじゃないかって……」
申し訳なさそうに、美乃里が俯き加減で楓を見つめた。
「こういう話はやっぱ、イベント担当がいないとねぇ」
少しも悪びれた様子もなく、聖があっけらかんと笑った。
「誰がイベント担当じゃい!」
両手でテーブルを叩いて腰を浮かすと、楓が聖に詰め寄った。
こわっ! と聖が大袈裟に仰反る。まあまあ、と、美乃里がいつもの如く二人を宥めた。
「ったく……」
無言で聖をひと睨みしたあと、楓は再び腰を落ち着かせた。
よっ! イベント担当! と囃し立てる聖を軽くスルーし、楓は自らの案を話し始めた。
「夏だしさ、海ってのもいいかなって思って。学生生活最後の夏なんだし、パーっと騒ぎたいなって」
「おおっ! いいねぇ。浜辺でバーベキューとかやっちゃう?」
早速聖が話に乗った。なんだかんだ言っても、この二人は結構気が合っている。
「いいね、いいね。で、夜は花火とか?」
「いいじゃんそれ! ロケット花火対決とかしたりして?」
まるで子どものように瞳を輝かせ、聖がはしゃいだ。
「海で花火ねぇ。最近禁止のとことかあんじゃね?」
政宗の冷静な声が割り込んできた。
「そんなん調べりゃいいじゃん」
聖が口を尖らせる。
早速スマホで『海 花火』と入力したところで、「あのぉ……」それまで黙って皆のやりとりを聞いていた美乃里が声を上げた。
「海は、ちょっと……」
ブラウスの胸元を軽く掴みながら、美乃里はそっと目を伏せた。
「え? まさかの水着NG?」
大きな瞳をパチクリさせながら、楓が美乃里の全身に視線を這わせた。
「ん……」
気まずそうに、美乃里が言葉を濁す。
「何か……あるの?」
心配そうに、楓が訊く。
同じく神妙な面持ちの政宗と聖を順に見たあと、美乃里は楓に向き直った。
「昔、溺れた事があってね。それ以来ダメなんだ。水は……」
「そうなの? ごめん。知らなかった」
楓が、悲しそうに眉尻を下げた。
「そういう事なら仕方ねぇんじゃね?」
政宗が、労わるような目で美乃里を見つめる。
「だね。みんなが楽しめなきゃ意味ないもんね」
弾けるように、聖が笑った。
「ごめんね……。みんな……」
美乃里は深々と頭を下げた。
「いいって、いいって」
次々と発せられる慰めの言葉に、美乃里の胸は鋭く痛んだ。
洋服の下に隠された、先日刻まれたばかりの愛の証が、再び熱を持って美乃里の身体を熱くする。
昔溺れた事があるなんて嘘だった。
水着になどなってしまったら、毎回施される篠崎の刻印が明るみに出てしまう。
美乃里は胸元をきつく握りしめ、「ありがとう」精一杯の笑顔で答えた。
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