4 / 100
美乃里
3
しおりを挟む
「何? お前らも一緒に行くの?」
空になった丼を置きながら、政宗が訊いた。
「うん。一緒の方が楽しいし」
「はあ? 遊びじゃねぇんだぞ」
嬉しそうにはしゃぐ楓を政宗が一喝する。
「わかってるよ、そんなこと」
「いいじゃん政宗。俺らも楽しめば」
ねぇ、と小首を傾げ、聖が楓に賛同する。
「さっすが聖。そうだよ。何事も楽しまなきゃ」
「だからお前らは……」
「まあまあ。さすがに二人だって実習中は真面目にやるでしょ? 単位落とすわけにいかないんだから」
政宗の小言を制し、美乃里が援護射撃する。
「そうそう。さすがに短大で留年とかヤバいっしょ」
「うん、ヤバいね」
聖と楓が、揃って頭を上下に振った。
ね、と微笑む美乃里を一瞥し、はあっと政宗が大きく息を吐き出した。
「じゃあ、施設実習の件は一件落着ということで」
聖は席を立つと、「午後の講義も頑張りますか」トレーを持って満面の笑みを浮かべた。
「『も』じゃねぇだろ。お前はこれが本日初の講義だろ」
政宗が素早く突っ込む。
「しかも、今日の講義は次で終わりだしね」
楓が追い打ちをかける。
「うん。最初で最後だね」
聖母のような微笑みを蓄え、美乃里が鋭くとどめを刺した。
「ひどいよ、みんなして」
口を尖らせ、恨めしそうに聖が三人を見回した。
「悔しかったら真面目に来い」
「へいへい」
聖と政宗は、連れ立って食器返却口へと歩き出した。
その後ろ姿を見送りながら、「ねえ」楓が美乃里に声を掛けた。
「ん?」
政宗の座っていた椅子を直しながら、美乃里が視線を上げた。
「今日の帰り、ちょっと買い物付き合ってくんない? 今度の保育園実習で使うペープサートの材料買いたいんだけど」
「楓、ペープサートすんの?」
ペープサートとは、紙人形劇のことで、厚紙に描いた絵を動かして演じる人形劇だ。
表と裏、二枚の厚紙に絵を付け、間に割り箸を挟んで貼り付ける。それを物語に沿って随時ひっくり返しながら話を進めていくのだ。
「うん。三匹のこぶた演ろうと思って」
「一人で?」
腕は二本しか無い為、登場人物の多い物語は、一人で演じるのが困難だ。
「大丈夫。テッシュケースに粘土入れて幾つか用意しておけば固定できるし」
「なるほど」
感心した様子で、美乃里が大きく頷いた。
「ついでにさ、ご飯でも一緒にどうかなって思って」
「ああ……」
曖昧な声を漏らしながら、美乃里が視線を中空に泳がす。少しの間があった後、「ごめん」ようやく言葉が意味を成し、美乃里の口からこぼれ落ちた。
「今日はちょっと……」
「え? そうなの? 家の用事?」
「まあ、そんな感じ?」
「そっかぁ。じゃあ仕方ないね」
「ごめんね」
「いいよ。気にしないで」
申し訳なさそうに眉間に皺を寄せる美乃里に、楓は笑顔で手を振った。
空になった丼を置きながら、政宗が訊いた。
「うん。一緒の方が楽しいし」
「はあ? 遊びじゃねぇんだぞ」
嬉しそうにはしゃぐ楓を政宗が一喝する。
「わかってるよ、そんなこと」
「いいじゃん政宗。俺らも楽しめば」
ねぇ、と小首を傾げ、聖が楓に賛同する。
「さっすが聖。そうだよ。何事も楽しまなきゃ」
「だからお前らは……」
「まあまあ。さすがに二人だって実習中は真面目にやるでしょ? 単位落とすわけにいかないんだから」
政宗の小言を制し、美乃里が援護射撃する。
「そうそう。さすがに短大で留年とかヤバいっしょ」
「うん、ヤバいね」
聖と楓が、揃って頭を上下に振った。
ね、と微笑む美乃里を一瞥し、はあっと政宗が大きく息を吐き出した。
「じゃあ、施設実習の件は一件落着ということで」
聖は席を立つと、「午後の講義も頑張りますか」トレーを持って満面の笑みを浮かべた。
「『も』じゃねぇだろ。お前はこれが本日初の講義だろ」
政宗が素早く突っ込む。
「しかも、今日の講義は次で終わりだしね」
楓が追い打ちをかける。
「うん。最初で最後だね」
聖母のような微笑みを蓄え、美乃里が鋭くとどめを刺した。
「ひどいよ、みんなして」
口を尖らせ、恨めしそうに聖が三人を見回した。
「悔しかったら真面目に来い」
「へいへい」
聖と政宗は、連れ立って食器返却口へと歩き出した。
その後ろ姿を見送りながら、「ねえ」楓が美乃里に声を掛けた。
「ん?」
政宗の座っていた椅子を直しながら、美乃里が視線を上げた。
「今日の帰り、ちょっと買い物付き合ってくんない? 今度の保育園実習で使うペープサートの材料買いたいんだけど」
「楓、ペープサートすんの?」
ペープサートとは、紙人形劇のことで、厚紙に描いた絵を動かして演じる人形劇だ。
表と裏、二枚の厚紙に絵を付け、間に割り箸を挟んで貼り付ける。それを物語に沿って随時ひっくり返しながら話を進めていくのだ。
「うん。三匹のこぶた演ろうと思って」
「一人で?」
腕は二本しか無い為、登場人物の多い物語は、一人で演じるのが困難だ。
「大丈夫。テッシュケースに粘土入れて幾つか用意しておけば固定できるし」
「なるほど」
感心した様子で、美乃里が大きく頷いた。
「ついでにさ、ご飯でも一緒にどうかなって思って」
「ああ……」
曖昧な声を漏らしながら、美乃里が視線を中空に泳がす。少しの間があった後、「ごめん」ようやく言葉が意味を成し、美乃里の口からこぼれ落ちた。
「今日はちょっと……」
「え? そうなの? 家の用事?」
「まあ、そんな感じ?」
「そっかぁ。じゃあ仕方ないね」
「ごめんね」
「いいよ。気にしないで」
申し訳なさそうに眉間に皺を寄せる美乃里に、楓は笑顔で手を振った。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
演じる家族
ことは
ライト文芸
永野未来(ながのみらい)、14歳。
大好きだったおばあちゃんが突然、いや、徐々に消えていった。
だが、彼女は甦った。
未来の双子の姉、春子として。
未来には、おばあちゃんがいない。
それが永野家の、ルールだ。
【表紙イラスト】ノーコピーライトガール様からお借りしました。
https://fromtheasia.com/illustration/nocopyrightgirl
坂の上の本屋
ihcikuYoK
ライト文芸
カクヨムのお題企画参加用に書いたものです。
短話連作ぽくなったのでまとめました。
♯KAC20231 タグ、お題「本屋」
坂の上の本屋には父がいる ⇒ 本屋になった父親と娘の話です。
♯KAC20232 タグ、お題「ぬいぐるみ」
坂の上の本屋にはバイトがいる ⇒ 本屋のバイトが知人親子とクリスマスに関わる話です。
♯KAC20233 タグ、お題「ぐちゃぐちゃ」
坂の上の本屋には常連客がいる ⇒ 本屋の常連客が、クラスメイトとその友人たちと本屋に行く話です。
♯KAC20234 タグ、お題「深夜の散歩で起きた出来事」
坂の上の本屋のバイトには友人がいる ⇒ 本屋のバイトとその友人が、サークル仲間とブラブラする話です。
♯KAC20235 タグ、お題「筋肉」
坂の上の本屋の常連客には友人がいる ⇒ 本屋の常連客とその友人があれこれ話している話です。
♯KAC20236 タグ、お題「アンラッキー7」
坂の上の本屋の娘は三軒隣にいる ⇒ 本屋の娘とその家族の話です。
♯KAC20237 タグ、お題「いいわけ」
坂の上の本屋の元妻は三軒隣にいる ⇒ 本屋の主人と元妻の話です。
元おっさんの幼馴染育成計画
みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。
だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる