3秒間の永遠〜たった3秒だけでいいから、あなたに想いを届けたい〜

紫水晶羅

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それぞれの道

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「なんとか見つからないように、バックヤードに逃げ込んで。それから店長に『辞めます』って言って、返事も聞かずに飛び出してきて……。怖かった。見つかったら、また連れ戻されるんじゃないかって」
 陽菜の目から涙がこぼれる。ひと言も発せないまま、三人は固唾を吞んで陽菜を見つめた。

「あたしの居場所がバレたのかはわからない。でもここにいたら、いつかは見つかるって思ったんです。そんな時、テツくんが、またお家の手伝いに行くって言うから……」
「それで、自分も行くって?」
 徹平の言葉に、陽菜が申し訳なさそうに首肯した。
「じゃあ、お腹の子は……?」
 掠れた声で、友里子が訊く。
「先輩の子……だと、思います。彼、避妊なんて、してくれなかったから」
 陽菜の吐息が震える。友里子が小さく息を呑んだ。

「堕ろさなきゃって思ったけど、テツくんが結婚しようって言ってくれて……。魔が差したんです。このまま黙っていれば、幸せに……なれるかもって……」
「陽菜……」
「でももう、それも終わり。やっぱり神様っているんですね。バチ、当たっちゃいました」
 自嘲気味に嗤うと、陽菜は肩をすくめて舌を出した。

「んなこたねぇよ。大丈夫だ。俺の気持ちは変わらねぇ。結婚しよう。今すぐにでも」
「無理だよ!」
 声を荒げ、陽菜は激しく首を振った。
「もしもテツくんのことがバレたら、何されるかわかんない。ここにだって、来るかもしれない。そしたら、みんなに迷惑がかかる」
「迷惑なんかじゃねぇ」
 徹平の言葉に、修作と友里子も頷いた。

「それに」
 徹平を見据えると、涙の滲む瞳で、陽菜はぐにゃりと顔を歪めた。
「あたし別に、テツくんのことなんて、好きじゃないから」
「はっ?」
「好きでもない人に、一生負い目を感じながら生きていくのは、辛いよ」
 その目から、ぽろりとひと粒涙がこぼれた。

「マジかよ……」
 徹平が、がくりと肩を落とす。そんな息子を憐れむように一瞥したあと、「陽菜さんの気持ちは、よくわかった」と友里子が、静かに口を挟んだ。
「でもそしたら、あんたこれからどうするん? まさかまた、その暴力男んとこ、帰るんか?」
「まさか」
 陽菜は身体を包むように両腕を交差させると、ぶるりと全身を震わせた。

「どこか知らない町で、この子と二人で生きていきます。……あの人に、絶対見つからないようなところで」
 お腹をそっとさすると、陽菜は寂しそうに目を伏せた。

「遅くなりました」
 ちょうどそこへ、昇龍を寝かしつけてきた椿が顔を出す。
「なかなか寝てくれなくって」
 困ったように眉根を寄せると、椿は陽菜の近くに腰を下ろした。

「そういや、椿ちゃんの従妹って、DV被害者の支援みたいなこと、やってるって言わんかったっけ?」
 唐突に、友里子が訊く。
「え? あ、はい」
 何のことやらわからないといった風にぽかんとしながら、椿はしどろもどろに返事した。
「その人なら、なんか力んなってくれんじゃねえろっか?」
「へ?」
 両の瞳をぱちくりさせ、椿は大きく首を傾げた。



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