3秒間の永遠〜たった3秒だけでいいから、あなたに想いを届けたい〜

紫水晶羅

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兄と弟

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 本当は、プロポーズなどするつもりじゃなかった。ただ、初めて作った花火を見てほしかっただけだった。

 あの時徹平が、椿に何を言いかけたのかはわからない。だが、二人の醸し出す雰囲気から、妙な胸騒ぎがしたのは確かだった。
 今言わなければ、いずれ徹平に取られてしまう。
 そんな恐怖心から、恭介は思わず、プロポーズの言葉を口にしてしまったのだ。

 椿は音楽教師になるのが夢だった。そのため、高校卒業後は音大に進学し、日々勉学に勤しんでいた。
 椿が、恭介との結婚と自分の夢との狭間で悩んでいた時、別に花火工場に嫁いだからって、夢を諦めることはないと恭介は言った。しかし椿は、そうしなかった。「私もお義母さんがしてきたように、恭介くんを支えていきたい」と。

 有り難かった。実際椿は、家業のために尽くしてくれた。感謝してもしきれないくらいだ。
 だがその反面、家業のために夢を諦めた椿に、申し訳ない気持ちもあった。

 もしもあの時、声をかけたりしなければ……。
 もしも自分と結婚なんてしなければ……。
 もしも家業を受け継ぐ自分ではなく、自由に未来を選択できる、徹平と結婚していたら……。
 そしたら椿は、音楽教師になれただろうか?

 人生に『たられば』など存在しない。今ある現実を生きていくしかないのだから、今更どうこう言っても始まらない。
 そう自分に言い聞かせ、恭介はこれまでやってきた。

 だがしかし、今の恭介には、自分を奮い立たせるだけの気力はない。
 火薬を見るだけで吐き気を催し、汗と震えが止まらなくなる。椿を喜ばせるために花火師になったのに、花火を作ることすらままならない。
 こんな自分では、椿を笑顔にさせてあげることさえできない。

 目の前で、黄金色のスターマインが静かに上がる。それが徐々に勢いを増し、見上げるほどの高さになった。
 スターマインの中に、色とりどりの花が咲く。その花々を掴むように、恭介は両手を高く上げた。

 手のひらの中で、真紅の花が大きく開く。
「椿……」
 尾を引くように、花弁がゆっくり落ちていき、そして、静かに消えていった。


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