雪蛍

紫水晶羅

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雪蛍

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「須藤先生か……。一応お知らせくらいはした方がいいと思うけど……」

 本当は籍だけ入れるつもりだったが、高梨夫妻にせっかくだからお披露目くらいしたらどうだと提案され、いろいろ考えあぐねた結果、喫茶わたゆきに気心知れた友人や親しくしている常連客を招待し、ささやかなパーティーを開くことにしたのだ。
 時期は、田植えが終わり農作業もひと段落する五月の下旬あたりを予定している。
 あと二ヶ月余りしかないとあって、二人は急ピッチで準備を進めていた。

 綾音は招待客に配るプチギフトを選ぶ手を止めると、パソコンデスクから優吾の座るソファーへと移動した。
 隣に腰掛け、手元のメモ帳を覗き込む。そこには、幼馴染や学生時代の友人の名前がランダムに書き記されていた。

「招待状送っても、来てくれるかどうか……」
 おとがいに軽く握った拳を当て、綾音が眉間に皺を寄せる。
「だよなぁ」
 優吾は頭をガシガシ掻くと、「やめたやめた!」テーブルの上にメモ帳を放り投げた。
「須藤は保留」
 言うなり優吾はごろんと寝転がり、綾音の膝の上に頭を乗せた。

「ちょ、優吾?」
「疲れたから休憩」
 スウェットのポケットからスマホを取り出すと、優吾は素早く指を走らせた。
「もう。私まだ、やることいっぱいあるんだけど」
「ちょっとぐらい、いいだろ?」
 綾音の小言を受け流し、優吾は素知らぬ顔でスマホ画面を眺めている。
「ったく……」
 小さく溜息をつくと、綾音は諦めたように優吾の髪を指でといた。

 ゆったりとした時間が、二人の周りを包み込む。
 この先も変わらず続くであろう幸せを感じ、綾音はふっと目を細めた。

「なんだこれ?」
 突然優吾が声を上げる。
「おもしれぇ」
 スマホ画面をじっと見つめ、優吾が笑みをこぼした。
「なに?」
 小首を傾げ、綾音が画面を覗き込む。
「見てみろよ。変な虫」
「虫?」
 怪訝そうに眉をひそめる綾音の目の前に、優吾がスマホを差し出した。

「専門学校の仲間がフォローしてる自動車整備工場の記事なんだけどさ、なんとなく前の投稿見てみたらこんなの載っててさ」
「これって……」
 優吾の手からスマホをもぎ取ると、綾音は画面を凝視した。そこには、お腹に綿のついた虫が木の葉にとまっている画像があった。
「雪虫って言うんだってさ。地方によっては綿虫って言うとこもあるらしいんだけど」

 綾音は夢中で画面をスクロールした。
 それは、湯沢町にある『越乃自動車整備工場』という会社のSNSページだった。
 どうやら、従業員が順番に毎月一人ずつ記事を担当しているようで、会社の宣伝はもとより、時事ネタや気象情報、プライベートなことまで、ざっくばらんに綴ってある。

 記事は、十一月の投稿だった。

雪蛍ゆきほたるってご存知ですか?』から始まるその記事は、雪虫の説明や、雪蛍と呼ばれる所以などが書いてあった。
「雪蛍……」
「ああ、空中を漂う様子が蛍に似てるからって……。え? 綾音?」

 蛍太と雪虫を見に行く約束をしてから、綾音は自分なりにいろいろ調べてみた。
 一般的な呼称は、雪虫か綿虫。『雪蛍』と表現するのは、かなり稀なケースで……。

 綾音のただならぬ様子に、優吾は驚き身を起こした。
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