雪蛍

紫水晶羅

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営業?

至極のナポリタン

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「仲良しなんですね」
 なんとか綾音は言葉を繋げる。
「なにがですか?」
 厨房に目を向けたまま、蛍太が訊いた。
「幼なじみのノンさん。お休みの日まで一緒に出かけるなんて」

野々華ののかです。川口野々華」
 ははっと一つ笑ってから、蛍太が説明する。
「あの日はちょっと、職場のガレージ使わせてもらったから、お礼にメシ奢ってやっただけです。思ったより時間食っちゃったから」
「へぇ。お休みなのに大変なんですね」
「いえ、プライベートです。愛車の一年点検」
 自分でやると安く上がるんで、と蛍太は首を竦めて頭を掻いた。

「そんなこと、自分でできるんですか?」
「もちろん。一応整備士なんで」
 おかしそうに、蛍太が笑う。
「あ、そっか」
 綾音は顔を赤らめた。
「そうだ。もし良かったら、うちの工場で車検しませんか? お安くしときますよ」
「ああ……」
 一旦視線を外し、溜息をつく。再び蛍太に向き直ると、「考えときます」綾音はにっこり微笑んだ。

「はい、おまちどうさま。スパゲティナポリタンです」
 会話が途切れたのを見計ったかのように、優吾が厨房から姿を現す。
「うわ。マジうまそう」
 目の前に置かれたナポリタンをじっと見つめ、蛍太がゴクリと喉を鳴らした。

 まだ湯気の立ち上る皿から、ケチャップとバターの濃厚な香りが漂ってくる。
 カトラリーケースから急いでフォークを取り出すと、「いただきます」挨拶もそこそこに、蛍太はフォークにスパゲティを巻き付けた。
 ふぅっと二度ほど息を吹きかけ、それを頬張る。
「うまい!」
 瞳が落ちそうなほど目を見開き、蛍太は優吾と綾音を交互に見つめた。
「ははっ。そりゃ良かった」
 誇らしげに腕組みをし、優吾が喜ぶ。
「そんな慌てなくても……」
 口いっぱいに詰め込む蛍太の姿に、綾音は思わず吹き出した。

「おや、なんだか楽しそうだね」
「あ、相沢さん。いらっしゃい」
 慣れた足取りで、相沢がカウンターに近づいてくる。
「隣、いいかね?」
 蛍太にひと声かけると、相沢はいつもの場所に腰掛けた。
 すいません、とスパゲティを頬張りながら、蛍太が少し左にズレる。いや、気にせんでいいよ、と相沢が小刻みに手を振った。

「相沢さん。彼ですよ。綾音のパンク直してくれた……」
「ああ、川口モータースの」
 優吾と相沢の会話から、自分のことだと蛍太は気づく。急いで咀嚼しフォークを置くと、「どうも。川口モータースの南條です」両手を膝に置き、蛍太は深々と頭を下げた。
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