あの日交わした約束がセピア色にかわっても

紫水晶羅

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紫雲の願い

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「……駄目ですよ」
「え?」
 恐る恐る、美空は瞼を持ち上げた。
 そこには、泣きそうに瞳を歪めた哲太の顔があった。
「むやみに、男の前で目を瞑ったりしちゃ駄目です」
 哲太の右手が、美空の頬にそっと触れる。
「しっかりしてください。あなたは、こんな風に簡単に落とせる人じゃない」
「てっちゃん……」
「だってあなたは、俺の女神様なんすから」
「女神……?」
「そう。いつだって、俺を正しく導いてくれる……」
 美空の頬を、哲太の指が何度も撫でる。その心地良さに、凍え切った美空の心は少しずつ溶かされていく。
「何度あなたに救われたことか……」
 両手で頬を包み込むと、哲太は愛おしそうに美空を見つめた。

「だからあなたは、高い所にいなきゃ駄目です。俺なんかが、いくら手を伸ばしても届かないくらい……」
 哲太の指が、美空の髪をさらりと撫でた。
「待ってて下さい。いつか必ず、追いつきますから」
 ふっと笑うと、哲太は美空をそっと胸に抱きしめた。
「その時は、遠慮なく奪わせて頂きます」
 覚悟してて下さいね、と、哲太は腕に力を込めた。

「……馬鹿」
 安堵して思わず零した笑い声が、徐々に泣き声へと変わっていく。
 温かい胸に包まれながら、美空は、子どものように泣きじゃくった。
「全く……。俺じゃなかったら、完璧襲われてますよ」
 わかってます? と呆れながら、哲太はいつまでも美空の頭を撫で続けていた……。


 手土産のイチゴショートを食べ終えると、哲太は美空の部屋を後にした。
「やっぱ、キスくらいしとけば良かったっすかね?」
 去り際、名残惜しそうな視線を向ける哲太に、「ばっかじゃないの?」いつものように美空が突っ込む。
 すっかり元通りになった哲太との関係に、美空の心は満たされていく。
「また明日」
 手を振る哲太を見送りながら、美空は改めて、二人の仲間に感謝した。

 独りじゃない。

 そう思えることで、美空はようやく、未来へと歩き出せるような気がした。
「よし!」
 美空は両手で数回頬を叩くと、気持ち新たに翌日からの仕事の準備に取り掛かった。

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