あの日交わした約束がセピア色にかわっても

紫水晶羅

文字の大きさ
上 下
65 / 90
禁断の告白

しおりを挟む
「父親の再婚相手を好きになるなんてどうかしてる。何度も自分に言い聞かせた。だけど、どうしても止められなくて……。会いたくて……。会いたくて……」
 紫雲の声が、瞳が、指が、美空の全てを震わせる。
 自分も同じだと叫びたい気持ちを死に物狂いで抑え込み、美空は小さく首を振った。
「本当は言わないつもりだったんだ。それなのに……」
 次々と零れる涙の粒が、張りのある紫雲の頬を滑り落ちていく。
 徐々に熱を帯びる濡れた瞳が、美空を映して大きく揺れた。

 紫雲の顔が、ゆっくりと近付いてくる。頭では拒んでいるのに、身体が全く言うことを聞かない。
「だめ……」
 やっとのことで、美空はひと言、喉の奥から絞り出した。
 しかし、形だけの抵抗は、覚悟を持った意思の前では、まるで意味を成さない。
「ごめん……」
 苦しみに顔を歪めながら、紫雲は美空に口づけた。

 その瞬間、美空は確信した。
 あの時の燃えるような唇は、やはり紫雲だったのだと。
 優しく何度も合わさるそれは、明らかに晴斗のものとは違う。
 なぜすぐに気付かなかったのだろう。
 あれは、熱に浮かされて制御を失った、紫雲の溢れる想いだったのだ……。

「愛してる……」

 美空は紫雲の腕の中で、あの日と同じ囁きを聞いた。
 哀しく響く残酷な愛の旋律が、二人の間を無情にも引き裂いていく。

「美空さん……。ごめん……」

 まるで、この世の罪を全てその身に宿しているかのように、紫雲は泣きながら、何度も何度も謝り続けた……。


「そろそろ帰らなきゃ」
 ゆっくりと身体を起こすと、紫雲は涙で濡れた美空の頬を両手で優しく包み込んだ。
「もう心配いらないよ。あとは俺が何とかするから」
 意味がわからず首を傾げる美空に、紫雲は力なく微笑んだ。
「美空さんを苦しめるものは、俺が全て排除する。だからもう、安心して」
「それって、どういう……?」
「美空さんは俺が守る。これからもずっと……」
「紫雲君……?」
 最後にそっと口づけると、紫雲は静かに出て行った。



 紫雲が去った後もしばらく、美空はその場から動けずにいた。
 頭の中で、紫雲の言葉を反芻する。

――俺の、せいなんだ。俺が、美空さんのこと……。
――あとは俺が何とかするから。
――美空さんを苦しめるものは、俺が全て排除する。
――美空さんは俺が守る。これからもずっと……。

 紫雲は何かを隠している。
 美空は動きの鈍った頭で、その言葉の意味を必死で考え続けた……。



 気がつくと、雨が部屋の窓を激しく叩きつけていた。
「紫雲君……」
 窓の方を見やり、美空はポツリ呟いた。
 ちゃんと帰れただろうか?
 ぼんやりとした意識の中、美空は紫雲の無事を祈った。



 その夜遅く、美空のスマホに着信があった。

「紫雲が事故った」

 晴斗の声に、美空は言葉を失った。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...