あの日交わした約束がセピア色にかわっても

紫水晶羅

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禁断の告白

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「似てたんだ。母さんに……。だからきっと……」
「え……っ?」
 美空の脳裏に、以前見たピンク色のアルバムが蘇った。
 猫のような丸い瞳を輝かせ、幸せそうに笑う優里恵の写真……。
「写真の中の母さんに、美空さんを重ねてたのかも」
 紫雲の視線が、ドレッサーの上にある指輪の箱に注がれる。
「幸せになってね。美空さん。もう、二人の邪魔したり……しないから……」
「邪魔って……」
 鏡越しの紫雲の瞳が、悲しみを蓄え大きく歪む。溢れる涙を誤魔化すように、紫雲は髪をかき上げ、天を仰いだ。

「これからはもう、くだらないことで連絡したりしないし、甘えたりもしない。心を入れ替えて、ちゃんと受験に専念する」
「紫雲君……」
「だから……」
 数回顔を撫でた後、紫雲は真正面から美空を見つめた。
「合格するよう、祈ってて……」
 顔をくしゃくしゃにして、紫雲が笑った。
「じゃあね、美空さん」
 ぎこちない笑顔を浮かべたまま、紫雲は足早に部屋を横切った。

 紫雲が行ってしまう。離れてしまう。

「待って!」
 美空は咄嗟にその腕を掴んだ。
 制服の上からでもわかる、筋肉質のたくましい腕は、記憶の中のものとはすっかり変わってしまっている。
「美空さん……」
 紫雲の瞳が、驚いたように大きく見開く。その瞳も、あの頃のようにただ無邪気さだけで輝いているものではない。

 美空の頭に警鐘が鳴り響く。
 これ以上踏み込んだら、後戻りはできないと……。

「……んでだよ」
 小刻みに揺らぐ紫雲の瞳から、涙が一粒零れ落ちた。
「なんで……引き止めんだよっ!」
「しう……」
 乱暴に、紫雲が美空を抱きしめた。

「せっかく踏ん切りつけたのに!」
「痛っ……」
「なんで、俺じゃないんだよっ!」
「離してっ……」
「こんなに……好きなのに……!」
 その刹那、美空の胸に電流が走った。
 堰を切ったように溢れ出した感情が、涙となって美空の頬を伝い落ちる。
 力の抜けた美空の身体を、紫雲がしっかり抱きとめた。

「最初は、母さんの面影を捜してるだけだと思ってた」
 涙交じりの声が、美空の全身を締め付ける。 
 息もできない苦しさに、堪らず美空は顔を歪めた。
「ガキの頃、美空さんが母さんだったらいいのにって、何度も思った。もし母さんが生きていたら、きっと、こんななんだろうって……。結婚したらずっと一緒にいられるかもなんて、馬鹿なこと思ったりして……」
 大きく息をきながら、紫雲がふっと笑う。
「だから、父さんの再婚相手が美空さんだって知った時、めちゃくちゃ嬉しかった。あの頃の夢が叶うんだって……」
 一旦言葉を切ると、紫雲は美空の髪をくしゃりと撫でた。
「だけど違った。美空さんは、母親なんかじゃなかった。会う度どんどん好きになって……。気が付いたらもう、引き返せないところまで来ていたんだ……」

 美空の足が震え出す。それと同時に、二人身体を合わせたまま、徐々に下へと沈んでゆく。へたり込んだ美空の頬を、紫雲が両手で包み込んだ。
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