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禁断の告白

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「ごめんね。我儘言って」
「本当に悪いと思ってたらこんなことできないでしょ?」
 わざとそっけない態度をとりながら、美空は紫雲を部屋に上げた。
「ごめん……」
 叱られた子どものように項垂れると、紫雲は美空の後に続いた。

 LINEのやり取りから二日後。
 晴斗の遅番の日を狙って、紫雲は美空の部屋を訪れた。
 発表会を終えひと段落した美空は、紫雲の下校時間に合わせ一時間早く仕事を切り上げてきたのだ。
「また迷惑かけちゃったね」
 クッションに腰を下ろすと、紫雲は自嘲気味に笑った。
「もういいよ」
 マグカップのココアをかき混ぜながら、美空は呆れたように溜息を吐いた。

 久しぶりに見る紫雲はやけに大人びていて、その表情にドキリとする。
 初めての顔合わせから半年の月日を経て、紫雲は確実に成長していた。
 きっと、自分と紫雲の世界では、時間の流れが違うのだ。
 改めて美空は、決して交わることのない二人の距離を思い知った。

「で? 話って?」
 マグカップを紫雲に渡すと、美空は向かいに腰を下ろした。
 ココアを冷ます紫雲の唇が、あの日の記憶を呼び覚ます。
 果たしてあれは、現実だったのだろうか? もしかしたら、全てが夢だったのかも知れない。
 都合の良い解釈が、浮かんでは消えていく。
 聞くに聞けない思いを抱え、美空は視線を下に向けた。

「……聞いてる?」
「へっ?」
 顔を上げた美空の視界に、少し尖った紫雲の唇が映った。
「ひあっ! えっ? 何っ?」
 美空は慌てふためき、身体を大きく仰け反らせた。
「何やってんの?」
「いや、あの、別に」
 呆れ顔の紫雲に「ごめん」と小さく謝ると、「で?」恐る恐る、美空は聞いた。
「だから……」
 怒ったようにふうっと一つ息を吐き、紫雲は真っ直ぐ美空を見つめた。

「もう大丈夫だから」
「えっと……。何が?」
「だから、電話のこと。もう大丈夫だから」
「どういう……こと?」
 紫雲の瞳が、僅かに歪んだ。
「もう二度と、美空さんには迷惑かけないから」
「言ってる意味がわからないんだけど?」
 哀しみと慈しみが入り混じったような潤んだ瞳で美空を見た後、紫雲は視線をマグカップに落とした。
「俺の、せいなんだ。俺が、美空さんのこと……」
「え?」
 何かを振り切るように数回頭を振った後、紫雲はココアを一気に飲み干した。

「ごめんね。いっぱい迷惑かけて。でも安心して。もう……我儘言ったり……しないから……」
「どうしたの? 急に」
 美空の胸に、嫌な予感がザワザワと這い上がってきた。
 紫雲が遠くへ行ってしまう。そんな気がした。

「どこかへ……行くの?」
 震える声で、美空は尋ねた。
「行かないよ。ただ、親離れするだけ」
「親離れって……?」
 ふっと笑うと、紫雲はゆっくり立ち上がった。
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