63 / 90
禁断の告白
3
しおりを挟む「ごめんね。我儘言って」
「本当に悪いと思ってたらこんなことできないでしょ?」
わざとそっけない態度をとりながら、美空は紫雲を部屋に上げた。
「ごめん……」
叱られた子どものように項垂れると、紫雲は美空の後に続いた。
LINEのやり取りから二日後。
晴斗の遅番の日を狙って、紫雲は美空の部屋を訪れた。
発表会を終えひと段落した美空は、紫雲の下校時間に合わせ一時間早く仕事を切り上げてきたのだ。
「また迷惑かけちゃったね」
クッションに腰を下ろすと、紫雲は自嘲気味に笑った。
「もういいよ」
マグカップのココアをかき混ぜながら、美空は呆れたように溜息を吐いた。
久しぶりに見る紫雲はやけに大人びていて、その表情にドキリとする。
初めての顔合わせから半年の月日を経て、紫雲は確実に成長していた。
きっと、自分と紫雲の世界では、時間の流れが違うのだ。
改めて美空は、決して交わることのない二人の距離を思い知った。
「で? 話って?」
マグカップを紫雲に渡すと、美空は向かいに腰を下ろした。
ココアを冷ます紫雲の唇が、あの日の記憶を呼び覚ます。
果たしてあれは、現実だったのだろうか? もしかしたら、全てが夢だったのかも知れない。
都合の良い解釈が、浮かんでは消えていく。
聞くに聞けない思いを抱え、美空は視線を下に向けた。
「……聞いてる?」
「へっ?」
顔を上げた美空の視界に、少し尖った紫雲の唇が映った。
「ひあっ! えっ? 何っ?」
美空は慌てふためき、身体を大きく仰け反らせた。
「何やってんの?」
「いや、あの、別に」
呆れ顔の紫雲に「ごめん」と小さく謝ると、「で?」恐る恐る、美空は聞いた。
「だから……」
怒ったようにふうっと一つ息を吐き、紫雲は真っ直ぐ美空を見つめた。
「もう大丈夫だから」
「えっと……。何が?」
「だから、電話のこと。もう大丈夫だから」
「どういう……こと?」
紫雲の瞳が、僅かに歪んだ。
「もう二度と、美空さんには迷惑かけないから」
「言ってる意味がわからないんだけど?」
哀しみと慈しみが入り混じったような潤んだ瞳で美空を見た後、紫雲は視線をマグカップに落とした。
「俺の、せいなんだ。俺が、美空さんのこと……」
「え?」
何かを振り切るように数回頭を振った後、紫雲はココアを一気に飲み干した。
「ごめんね。いっぱい迷惑かけて。でも安心して。もう……我儘言ったり……しないから……」
「どうしたの? 急に」
美空の胸に、嫌な予感がザワザワと這い上がってきた。
紫雲が遠くへ行ってしまう。そんな気がした。
「どこかへ……行くの?」
震える声で、美空は尋ねた。
「行かないよ。ただ、親離れするだけ」
「親離れって……?」
ふっと笑うと、紫雲はゆっくり立ち上がった。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
契約書は婚姻届
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」
突然、降って湧いた結婚の話。
しかも、父親の工場と引き替えに。
「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」
突きつけられる契約書という名の婚姻届。
父親の工場を救えるのは自分ひとり。
「わかりました。
あなたと結婚します」
はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!?
若園朋香、26歳
ごくごく普通の、町工場の社長の娘
×
押部尚一郎、36歳
日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司
さらに
自分もグループ会社のひとつの社長
さらに
ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡
そして
極度の溺愛体質??
******
表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~
蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。
なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?!
アイドル顔負けのルックス
庶務課 蜂谷あすか(24)
×
社内人気NO.1のイケメンエリート
企画部エース 天野翔(31)
「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」
女子社員から妬まれるのは面倒。
イケメンには関わりたくないのに。
「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」
イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって
人を思いやれる優しい人。
そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。
「私、…役に立ちました?」
それなら…もっと……。
「褒めて下さい」
もっともっと、彼に認められたい。
「もっと、褒めて下さ…っん!」
首の後ろを掬いあげられるように掴まれて
重ねた唇は煙草の匂いがした。
「なぁ。褒めて欲しい?」
それは甘いキスの誘惑…。
副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~
真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる