61 / 90
禁断の告白
1
しおりを挟む
結局美空は、動物園の件を晴斗に話すことができなかった。
晴斗から何も言ってこないところを見ると、紫雲もまだ口をつぐんでいるようだ。
これだけの騒ぎを起こしてもなお、紫雲と秘密を共有していたいと願う自分がいる。その想いがある限り、この先もずっと、晴斗を裏切り続けていくのだ。
婚約指輪の澄んだ輝きを見つめ、美空は居たたまれない気持ちになった。
一点の曇りもないその輝きから逃れるように蓋を閉じると、美空はベッドに腰かけた。
あれから心当たりのある保護者にそれとなく接触してみたが、該当する人物は見当たらなかった。
他クラスの保護者かとも思ったが、恨みを買う程親しくしている保護者など一人もいない。
目に見えない恐怖に怯え、美空は頭を抱え込んだ。
話の内容から、電話の主は、美空の園に掛けた者と紫雲の学校に掛けた者は同一人物の可能性が高い。
園にも同様の電話があったことを知った晴斗は、頭を抱えて考え込んだ。
「ただの悪戯だといいんだけど……」
美空に向けられた双眸が、痛みを堪えるように震えていた。
晴斗の言うように、ただの悪戯であって欲しい。
僅かな可能性を信じ、美空は自身の身体を抱き締めた。
***
「一生懸命ね」
放課後、保育室でピアノの練習をしている美空の元に、恵令奈がひょっこり顔を出した。
「恵令奈……」
美空は一旦手を止め視線を上げた。
「だって、またトチると悪いから」
両手を組んでグルグル回すと、美空は再び鍵盤の上に手を乗せた。
まるで何かに取り憑かれているかのように、美空はひたすら間奏の部分を繰り返す。
「何かあった?」
心配そうな恵令奈の言葉をピアノの音が掻き消していく。一滴の感情も込められていない冷たい音が、室内を埋め尽くした。
「美空!」
突然、恵令奈がその手を掴んだ。
「あんた、大丈夫?」
「あ……」
「園長と、何話したの?」
「な……んで?」
「だって美空、あれから変だもん。一体何があったの? 私にも言えないこと?」
「え……れな……」
美空の頬を涙が伝う。
「どうした?」
恵令奈がそっと、美空の頭を包み込んだ。
一度溢れ出した感情は、そう簡単には止まらない。恵令奈の胸に顔を埋め、美空は声を上げて泣きじゃくった。
「よしよし」
美空の頭を撫でながら、「発表会終わったら、ゆっくり飲みに行こうね」恵令奈がそっと囁いた。
晴斗から何も言ってこないところを見ると、紫雲もまだ口をつぐんでいるようだ。
これだけの騒ぎを起こしてもなお、紫雲と秘密を共有していたいと願う自分がいる。その想いがある限り、この先もずっと、晴斗を裏切り続けていくのだ。
婚約指輪の澄んだ輝きを見つめ、美空は居たたまれない気持ちになった。
一点の曇りもないその輝きから逃れるように蓋を閉じると、美空はベッドに腰かけた。
あれから心当たりのある保護者にそれとなく接触してみたが、該当する人物は見当たらなかった。
他クラスの保護者かとも思ったが、恨みを買う程親しくしている保護者など一人もいない。
目に見えない恐怖に怯え、美空は頭を抱え込んだ。
話の内容から、電話の主は、美空の園に掛けた者と紫雲の学校に掛けた者は同一人物の可能性が高い。
園にも同様の電話があったことを知った晴斗は、頭を抱えて考え込んだ。
「ただの悪戯だといいんだけど……」
美空に向けられた双眸が、痛みを堪えるように震えていた。
晴斗の言うように、ただの悪戯であって欲しい。
僅かな可能性を信じ、美空は自身の身体を抱き締めた。
***
「一生懸命ね」
放課後、保育室でピアノの練習をしている美空の元に、恵令奈がひょっこり顔を出した。
「恵令奈……」
美空は一旦手を止め視線を上げた。
「だって、またトチると悪いから」
両手を組んでグルグル回すと、美空は再び鍵盤の上に手を乗せた。
まるで何かに取り憑かれているかのように、美空はひたすら間奏の部分を繰り返す。
「何かあった?」
心配そうな恵令奈の言葉をピアノの音が掻き消していく。一滴の感情も込められていない冷たい音が、室内を埋め尽くした。
「美空!」
突然、恵令奈がその手を掴んだ。
「あんた、大丈夫?」
「あ……」
「園長と、何話したの?」
「な……んで?」
「だって美空、あれから変だもん。一体何があったの? 私にも言えないこと?」
「え……れな……」
美空の頬を涙が伝う。
「どうした?」
恵令奈がそっと、美空の頭を包み込んだ。
一度溢れ出した感情は、そう簡単には止まらない。恵令奈の胸に顔を埋め、美空は声を上げて泣きじゃくった。
「よしよし」
美空の頭を撫でながら、「発表会終わったら、ゆっくり飲みに行こうね」恵令奈がそっと囁いた。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。
梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。
ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。
え?イザックの婚約者って私でした。よね…?
二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。
ええ、バッキバキに。
もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
夕陽を映すあなたの瞳
葉月 まい
恋愛
恋愛に興味のないサバサバ女の 心
バリバリの商社マンで優等生タイプの 昴
そんな二人が、
高校の同窓会の幹事をすることに…
意思疎通は上手くいくのか?
ちゃんと幹事は出来るのか?
まさか、恋に発展なんて…
しないですよね?…あれ?
思わぬ二人の恋の行方は??
*✻:::✻*✻:::✻* *✻:::✻*✻:::✻* *✻:::✻*✻:::✻
高校の同窓会の幹事をすることになった
心と昴。
8年ぶりに再会し、準備を進めるうちに
いつしか二人は距離を縮めていく…。
高校時代は
決して交わることのなかった二人。
ぎこちなく、でも少しずつ
お互いを想い始め…
☆*:.。. 登場人物 .。.:*☆
久住 心 (26歳)… 水族館の飼育員
Kuzumi Kokoro
伊吹 昴 (26歳)… 海外を飛び回る商社マン
Ibuki Subaru
【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる