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内緒の遊園地
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目指す動物園までは、車で一時間近くかかる。
動物園と言っても象やキリンなどの大型の動物はおらず、主にタヌキやキツネなどの中型のものや、リスやウサギなどの小動物がメインだ。その中で猿は人気が高く、休みの日になると、猿山の周りは多くの親子連れで賑わっている。
翔もご多分に漏れず、猿山の猿が大好きなのだ。
「お猿さん、今頃ご飯食べてるかなぁ?」
バックミラーで助手席の後ろを確認すると、翔は持っているお子様せんべいを高く上げ、「ごはーん!」と嬉しそうに叫んだ。
「ふふっ。お猿さんの前に腹ごしらえしなきゃね」
気が付けば時刻は既に十時半を回っている。途中腹が減って翔がぐずり出したら大変だ。
念のためパンでも買おうかと思い立ち、美空はコンビニに立ち寄った。
車から降りたところで、「美空さん」突然背後から聞き覚えのあるハスキーな声が響いてきた。
一瞬ドキリとして、美空は急いで振り返る。果たしてそこには、想像通りの人物の姿があった。
「紫雲君……」
どこかに出掛けるのか、紫雲は塾用のトートバッグを肩にかけ、自転車に跨っている。
「どこ行くの?」
同時に尋ね、お互い顔を見合わせ笑った。
「ははっ。俺は図書館の帰り。美空さんは?」
トートバッグを担ぎ直すと、紫雲は改めて聞いた。
「私はこれから動物園」
「動物園?」
「そ。甥っ子とデートなの」
車内を覗き込みながら、美空は答えた。
「甥っ子?」
「そう。前に言ってた妹の子。今日一日預かることになっちゃって」
「へぇ。ちょっと見てもいい?」
自転車から降りると、紫雲は助手席側へ回った。
「可愛い」
紫雲が窓ガラスをコンと一つ指で叩くと、翔はキョトンとした顔でこちらを向いた。
「名前は?」
「翔」
後部座席のドアを開けながら、美空は答えた。それと同時に「みーたん」と呼ぶ小さな声が聞こえてきた。
「うわっ。可愛い。みーたんだって」
「何よ」
「いや、別に……」
片手で口を押えて笑いを堪える紫雲を横目で睨み、美空は翔のシートベルトを外した。
「いいなぁ。動物園」
車から降りた翔の傍にしゃがみ込み頬をツンツン突きながら、紫雲は「俺も行きたいなぁ」独り言のように呟いた。
最初は顔を強張らせていた翔も、紫雲に構われ次第に声を上げて笑い出す。
美空もつられて笑い声を上げた時。
「お兄ちゃんも行っていい?」
紫雲が甘えたように翔の腕をゆらゆら揺らした。
「はいっ?」
驚く美空を尻目に、紫雲は「いい?」と上目遣いに翔の顔を覗き込む。
「いいよ!」
瞳を輝かせ、力いっぱい翔が答えた。
どうやらこの短時間のうちに、翔はすっかり手なずけられてしまったようだ。
さすがは天然タラシだ。美空は口をあんぐり開けたまま、紫雲と翔を交互に見つめた。
「いいって。みーたん」
翔の手を握ったまま、紫雲は満面の笑みで美空を見上げた。
「みーたんって呼ぶな!」
真っ赤になって、美空は叫んだ。
動物園と言っても象やキリンなどの大型の動物はおらず、主にタヌキやキツネなどの中型のものや、リスやウサギなどの小動物がメインだ。その中で猿は人気が高く、休みの日になると、猿山の周りは多くの親子連れで賑わっている。
翔もご多分に漏れず、猿山の猿が大好きなのだ。
「お猿さん、今頃ご飯食べてるかなぁ?」
バックミラーで助手席の後ろを確認すると、翔は持っているお子様せんべいを高く上げ、「ごはーん!」と嬉しそうに叫んだ。
「ふふっ。お猿さんの前に腹ごしらえしなきゃね」
気が付けば時刻は既に十時半を回っている。途中腹が減って翔がぐずり出したら大変だ。
念のためパンでも買おうかと思い立ち、美空はコンビニに立ち寄った。
車から降りたところで、「美空さん」突然背後から聞き覚えのあるハスキーな声が響いてきた。
一瞬ドキリとして、美空は急いで振り返る。果たしてそこには、想像通りの人物の姿があった。
「紫雲君……」
どこかに出掛けるのか、紫雲は塾用のトートバッグを肩にかけ、自転車に跨っている。
「どこ行くの?」
同時に尋ね、お互い顔を見合わせ笑った。
「ははっ。俺は図書館の帰り。美空さんは?」
トートバッグを担ぎ直すと、紫雲は改めて聞いた。
「私はこれから動物園」
「動物園?」
「そ。甥っ子とデートなの」
車内を覗き込みながら、美空は答えた。
「甥っ子?」
「そう。前に言ってた妹の子。今日一日預かることになっちゃって」
「へぇ。ちょっと見てもいい?」
自転車から降りると、紫雲は助手席側へ回った。
「可愛い」
紫雲が窓ガラスをコンと一つ指で叩くと、翔はキョトンとした顔でこちらを向いた。
「名前は?」
「翔」
後部座席のドアを開けながら、美空は答えた。それと同時に「みーたん」と呼ぶ小さな声が聞こえてきた。
「うわっ。可愛い。みーたんだって」
「何よ」
「いや、別に……」
片手で口を押えて笑いを堪える紫雲を横目で睨み、美空は翔のシートベルトを外した。
「いいなぁ。動物園」
車から降りた翔の傍にしゃがみ込み頬をツンツン突きながら、紫雲は「俺も行きたいなぁ」独り言のように呟いた。
最初は顔を強張らせていた翔も、紫雲に構われ次第に声を上げて笑い出す。
美空もつられて笑い声を上げた時。
「お兄ちゃんも行っていい?」
紫雲が甘えたように翔の腕をゆらゆら揺らした。
「はいっ?」
驚く美空を尻目に、紫雲は「いい?」と上目遣いに翔の顔を覗き込む。
「いいよ!」
瞳を輝かせ、力いっぱい翔が答えた。
どうやらこの短時間のうちに、翔はすっかり手なずけられてしまったようだ。
さすがは天然タラシだ。美空は口をあんぐり開けたまま、紫雲と翔を交互に見つめた。
「いいって。みーたん」
翔の手を握ったまま、紫雲は満面の笑みで美空を見上げた。
「みーたんって呼ぶな!」
真っ赤になって、美空は叫んだ。
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