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内緒の遊園地
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爽やかな風が頬を心地良く撫でていく。
ベランダで洗濯物を干し終えた美空は、青く澄み渡った空を見上げた。
「気持ちいい」
あまりの心地良さに、自然と声が漏れる。
こんなに天気の良い日曜日に、よりによって休日出勤しなければならない晴斗に憐みのLINEを送ると、美空は大きく伸びをした。
ここの所、土日は大抵デートに時間を費やしていた美空にとって、久しぶりに訪れたフリーの休日。
天気も良いのでオープンカフェで読みかけの小説でも読もうかと思案しながら部屋に戻ると、テーブルの上のスマホが着信を知らせる音を立てた。
「電話? 誰だろう?」
このご時世、メールやLINEである程度の用事は足りる。わざわざ電話を掛けてくるなど、余程の事に違いない。
急いでスマホを取り上げると、美空は画面表示を見た。
「美颯?」
表示されていたのは、妹の名前だった。
もしや家族に何かあったのではと、美空は慌てて通話ボタンをタップした。
「もしもし?」
「あ、お姉ちゃん?」
受話口から、美颯の忙しない声が流れてきた。
「どうしたの? 何かあった?」
妹のただならぬ慌てように、美空は声を強張らせた。
「実は……」
美空の声を聞いて安心したのか、美颯は少しだけ声のトーンを落とした。
今日は久しぶりに友だちとランチの約束をしていたのだが、今朝になって夫が急遽出勤することになり、息子の翔を預けられなくなったというのだ。
「こんな日に限って、じぃじとばぁばも出掛けてるし……」
『じぃじ』と『ばぁば』は、美空の両親だ。
二人は揃って地域の旅行に参加しており、朝早くからブドウ狩りへと出掛けたらしい。
共働きの為、日頃地域との交流が希薄な二人は、年一回のこの旅行を毎年楽しみにしているのだ。
「で、翔を見る人がいないってことか」
「そうなの。お姉ちゃんが駄目なら私が連れて行くしかないんだけど……」
受話口の向こうで、溜息を吐く音がした。
美颯の声からは、連れて行きたくないオーラがひしひしと伝わってくる。確かに、せっかくの友だちとのランチに子連れで行ったら、思う存分楽しめないだろう。それに、相手にも気を遣わせることになる。
「いいよ別に。今日暇だし」
一人で時間を持て余すより、一緒に過ごす相手がいた方が楽しいだろう。
美空は二つ返事で承諾した。
「良かったぁ。持つべきものは、保育士の姉だね」
「調子いいんだから。後できっちり保育料戴きますからね」
「ええ? ブドウでいい?」
「それ、父さんたちの旅行土産じゃない」
「へへっ。バレた?」
ひとしきりふざけ合った後、支度が出来次第迎えに行くと約束し、美空は通話を切った。
ベランダで洗濯物を干し終えた美空は、青く澄み渡った空を見上げた。
「気持ちいい」
あまりの心地良さに、自然と声が漏れる。
こんなに天気の良い日曜日に、よりによって休日出勤しなければならない晴斗に憐みのLINEを送ると、美空は大きく伸びをした。
ここの所、土日は大抵デートに時間を費やしていた美空にとって、久しぶりに訪れたフリーの休日。
天気も良いのでオープンカフェで読みかけの小説でも読もうかと思案しながら部屋に戻ると、テーブルの上のスマホが着信を知らせる音を立てた。
「電話? 誰だろう?」
このご時世、メールやLINEである程度の用事は足りる。わざわざ電話を掛けてくるなど、余程の事に違いない。
急いでスマホを取り上げると、美空は画面表示を見た。
「美颯?」
表示されていたのは、妹の名前だった。
もしや家族に何かあったのではと、美空は慌てて通話ボタンをタップした。
「もしもし?」
「あ、お姉ちゃん?」
受話口から、美颯の忙しない声が流れてきた。
「どうしたの? 何かあった?」
妹のただならぬ慌てように、美空は声を強張らせた。
「実は……」
美空の声を聞いて安心したのか、美颯は少しだけ声のトーンを落とした。
今日は久しぶりに友だちとランチの約束をしていたのだが、今朝になって夫が急遽出勤することになり、息子の翔を預けられなくなったというのだ。
「こんな日に限って、じぃじとばぁばも出掛けてるし……」
『じぃじ』と『ばぁば』は、美空の両親だ。
二人は揃って地域の旅行に参加しており、朝早くからブドウ狩りへと出掛けたらしい。
共働きの為、日頃地域との交流が希薄な二人は、年一回のこの旅行を毎年楽しみにしているのだ。
「で、翔を見る人がいないってことか」
「そうなの。お姉ちゃんが駄目なら私が連れて行くしかないんだけど……」
受話口の向こうで、溜息を吐く音がした。
美颯の声からは、連れて行きたくないオーラがひしひしと伝わってくる。確かに、せっかくの友だちとのランチに子連れで行ったら、思う存分楽しめないだろう。それに、相手にも気を遣わせることになる。
「いいよ別に。今日暇だし」
一人で時間を持て余すより、一緒に過ごす相手がいた方が楽しいだろう。
美空は二つ返事で承諾した。
「良かったぁ。持つべきものは、保育士の姉だね」
「調子いいんだから。後できっちり保育料戴きますからね」
「ええ? ブドウでいい?」
「それ、父さんたちの旅行土産じゃない」
「へへっ。バレた?」
ひとしきりふざけ合った後、支度が出来次第迎えに行くと約束し、美空は通話を切った。
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