あの日交わした約束がセピア色にかわっても

紫水晶羅

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ふたつのプレゼント

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 八月は目立った園行事もなく、穏やかに通り過ぎ、あっという間に九月になった。
 紫雲も塾に遊びに忙しいようで、美空とのLINEのやり取りは、日を追うごとに減っていった。
 紫雲のアイコンがテニスボールからオムライスに変わったことに、若干の心の揺れを感じたが、特別な意味など無いだろうと、美空は自分に言い聞かせた。

 あちらこちらで秋の虫が騒ぎ始めた頃、晴斗から『今度の週末、美空の誕生パーティーをしよう』とLINEが入った。
 美空の誕生日は九日だが、その日は晴斗が遅番なので、その前の土曜日にお祝いをしようと言うのだ。
 紫雲の本心がわからない中での会食に、多少なりとも不安はあるが、それ以上に、久しぶりに会える嬉しさの方が勝っていた。

『男の手料理を御馳走するよ』というメッセージに、美空の胸は弾んだ。
 あの二人が不得手な料理を必死で作る姿を想像すると、自然と笑いが込み上げてくる。
 美空は、待ちきれない気持ちを必死で宥め、週末までの日々を過ごした。


***


「誕生日おめでとう!」
 晴斗と紫雲が、美空のグラスに自分のそれを打ち付けた。
「なんで私ばっかりワインなんですか?」
「だって、俺は美空を送ってかなきゃだし、紫雲は未成年だし」
「じゃあ私もノンアルで」
 新しいグラスを取りに行こうとする美空を、「まあまあ」と晴斗が止める。
「たまにはいいじゃないか」
「そうだよ。今日は美空さんが主役なんだから」
 二人に説得され、「じゃあ、お言葉に甘えて……」美空はしぶしぶ腰を下ろした。

「それにしても、これ全部二人で作ったんですか?」
 目の前の御馳走を見ながら、美空は感嘆の声を漏らした。

 中央の大皿には、少し焦げてはいるが、大振りの鳥の唐揚げがレタスの上に盛り付けられ、脇には瑞々しいプチトマトが添えられている。  
 もう一つの大皿には、三種類のクラッカーが並んでいる。クラッカーの上にはそれぞれ、チーズの上にスライストマトが乗ったもの、サーモンの上にオリーブが乗ったもの、ローストビーフにクリームチーズが乗ったものが、カラフルなピンで留められ、規則正しく整列している。
 他には、ボウルに入った野菜サラダ、人数分のコンソメスープ、なぜかハンバーグまでが、それぞれの席に置かれていた。

「もしかしてこのハンバーグ、手作りですか?」
 ご丁寧にいんげんと人参グラッセまで添えられている一皿に、美空は瞳を輝かせた。
「うん。紫雲がねて、俺が焼いたんだけど……」
 恥ずかしそうに頭を掻くと、「ちょっと焦げちゃったね」バツが悪そうに晴斗が笑った。

「だいたい火が強すぎんだよ」
「しょうがないだろ? 初めてなんだから」
 紫雲の指摘に、晴斗が口を尖らす。
「大丈夫ですよ、これくらい。初めてにしては上出来です」
「ほんとに? 良かった」
「いいから食おうぜ。腹減った」
 食事を前にお預けを食らっている紫雲が、待ちきれない様子で腹を撫でた。
「そうだな。じゃ、冷めないうちに」
「はい。いただきます!」
 晴斗に促され、美空は早速ハンバーグにナイフを入れた。

「どう?」
 二人の視線が美空に注がれる。
「おいしい」
 美空の笑顔に、二人は「良かったぁ」と同時に胸を撫で下ろした。
「ほんと、そっくりですね」
「げ。俺こんなにデレデレしてねーし」
 紫雲が横目で晴斗を睨む。
「ああ? 誰がデレデレしてんだよ?」
「父さんに決まってんだろ? いい歳してキショいんだよ」
「またお前は……!」
「まあ、いいから食べましょうよ。お料理冷めちゃいますよ」
 二人を宥めながら、美空はクラッカーに手を伸ばした。

「あ、それ俺が考えたやつ」
 美空が手にしたクラッカーを指さし、紫雲が言った。
 ローストビーフにクリームチーズが乗っているそれを一口かじり、美空は「おいしい」と瞳を輝かせた。軽く振りかけられた黒胡椒が、程よいアクセントとなっている。
「紫雲君、いいセンスしてるね」
「そ? 良かった。喜んでもらえて」
 紫雲が嬉しそうに美空を見つめる。僅かに熱を帯びたその瞳に、美空は慌てて視線を逸らした。

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