あの日交わした約束がセピア色にかわっても

紫水晶羅

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ざわつく気持ち

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「ただ単に、母親に甘えてみたいだけなんじゃ……」
「もしもよ? もしも紫雲君が、美空の事を母親として見ていなかったとしたら?」
「えっ……?」
 恵令奈の言葉に、あの日の紫雲が蘇る。

――母親だなんて……思ってない……。

 美空の脳裏に、今までの紫雲の言動が駆け巡る。
 紫雲の部屋で誕生カードの写真を見た時に絡んだ視線。
 オムライスを食べた後の、思い詰めた様な表情。
「今もまだ……」の言葉の続き。
 全く気にならなかったと言えば、嘘になる……。

「もし紫雲君が、美空を一人の女性として見ているんだとしたら?」
「何言って……」
 急に喉の渇きを覚え、美空はゴクリと喉を鳴らした。
「ま、必要以上に親しくしない方が、お互い身の為なんじゃない? 向こうは思春期真っ盛りの多感な年頃だしね」
「ちょっと待ってよ。まだそうと決まった訳じゃ……」
「そうですよ、恵令奈さん。もう少し様子を見てからでも……」
 二人に感化され、完全にプラベートモードになったらしい哲太が、恵令奈を『さん』付けで呼び始める。
「そんなこと言って、取り返しのつかない事になったらどうすんの?」
「取り返しのつかない事って……?」
「例えば……。逆に、美空が紫雲君を男として意識しちゃうとか?」
「そんな事……!」
「絶対無いって言い切れる?」
「な……無いよ! そんな事、あるはず無い!」
 恵令奈の瞳をしっかりと見据え、美空はきっぱり言い切った。

「ふぅん」
 鼻から息を吐くと、恵令奈は腕を組み、椅子の背もたれに寄りかかった。
「わかった。美空がそこまで言うなら信じよう」
「恵令奈……」

「ただし」
 人差し指をピンと立てると、恵令奈は眼光鋭くピシャリと言った。
「万が一そうなった時は、真っ先に私に相談する事」
「何で?」
「そりゃもちろん、あんたより私の方が得意だからよ。この手の話」
「な、なるほど……」
 妙に納得した美空が、恵令奈を見つめて頷いた。

「あのぉ……」
 突然哲太が、おずおずと右手を挙げた。
「何?」
 二人の視線が哲太に集まる。
 哲太の目は、真っ直ぐ美空に向けられていた。
「最悪、俺って手もありますが……」
「はいっ?」
 美空の茶色がかった瞳が丸くなる。
「二十七歳独身。彼女なし。そん中じゃ俺、最優良物件だと思うんすけど」
「はあぁぁ? あんた何言ってんの?」
 眉間に皺を寄せ、恵令奈が哲太に怪訝そうな目を向けた。隣の恵令奈を一瞥した後、哲太は美空に向き直った。

「もしもの時は、俺が屍、拾ってあげますから」
「いや、死なないし……」
 呆れた顔で、美空が答えた。
「あんたって、ほんと馬鹿ね」
 恵令奈の言葉に、哲太が「名案だと思ったんだけどなぁ」と首を捻る。
「ありがとう。ジョーカーとして大切に取っとくよ」
 美空がにっこり微笑んだ。
「やめときな。本気にするから」
「ええーっ? 割と本気だったんすけどねぇ」
「ばっかじゃないの?」
「あははは」
 恵令奈と哲太のやり取りを見て、ようやく美空に笑顔が戻った。

「あ! やばい! 終礼の時間!」
 恵令奈が時計を見て慌てて席を立った。
「ほんとだ! 行かなきゃ!」
 続いて席を立つと、「てっちゃん! 行くよ!」美空は哲太に声を掛けた。
「あ、ちょっと! 待って下さいよぉー!」
 急いで筆記用具を搔き集めると、哲太も二人の後を追った。

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