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鍵とオムライス
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しおりを挟む「ねぇ、麦茶もらってもいい?」
完食して一息つくと、紫雲が空のグラスを持ち上げた。
「うん。ちょっと待ってて」
「あ、いいよ。俺がやる」
まだ食べている美空に声を掛け、紫雲はキッチンへと向かった。
「これ、もしかして父さんの分?」
カウンターに乗っている、ラップのかけられた一人分のオムライスを見て、紫雲が聞いた。
「え? ああ、それ? そう。さっきLINEしたら、晴斗さんも来るって」
「そう……なんだ」
「うん。送ってくって言ったんだけど、『俺もオムライス食いたい』って」
頬を赤らめ、美空が笑った。
「ふぅん。……くていいのに……」
「え? なんか言った?」
「ううん。別に。美空さんも麦茶いる?」
「うん。ありがとう」
紫雲は冷蔵庫を開け、麦茶のポットを取り出した。
「そういえばさ……」
グラスに麦茶を注ぎながら、紫雲が話を切り出した。
「いつも三人でつるんでんの?」
「恵令奈とてっちゃんのこと?」
「そう。仲いいなぁと思って」
紫雲が「はい」と、美空の前にグラスを置いた。「ありがと」と軽く頭を下げると、美空はゆっくり語り始めた。
「最初は恵令奈と二人でつるんでたんだけどね。あ、私たち同期だから」
「うん」
紫雲が一口、麦茶を飲んだ。
「で、そこにてっちゃんが加わるようになって……」
「何で?」
「てっちゃんの指導係だったんだ。私」
「指導係?」
「そ。新人育成兼相談役みたいなもん」
美空も麦茶を飲むと、にっと笑った。
「いつだったかな? てっちゃんが仕事で失敗したことあって、すごい落ち込んで、辞めるとか言い出して……」
「哲太先生が?」
「そうなの。そん時はもう、どうしていいかわかんなくてね。そしたら恵令奈が『よし! 飲みに行くぞー!』って」
「さすが恵令奈さん」
紫雲がハハっと笑った。
「それからかな? なんか三人でつるむようになったのは」
「そうなんだ……」
麦茶を一気に煽ると、紫雲はふうっと息を吐いた。
「いつもあんな感じなの?」
「何が?」
「なんか、距離が近いっていうか……」
「距離? ああ、夏祭りでのこと?」
「うん」
「あれは別に、ただ助けてもらっただけだし」
「そうだけど……」
不機嫌そうに、紫雲が何度もグラスの水滴を指で拭いた。
「それにね、私たちの間には、男女の垣根はないの。同じ職場の仲間っていうか……。まあ、同志みたいなもんかな?」
「同志?」
「だって私、てっちゃんのこと男として見てないし」
「ひでぇ……」
紫雲が薄く笑った。
「酷くないよ。あっちだって私の事、女として見てないもん」
「そう……かなぁ……?」
「そうなんだって。紫雲君の周りにもいない? 男女の垣根を越えて仲のいいコ」
「まぁ……。いない事もないけど……」
視線を宙にさまよわせ、紫雲が答えた。
「ね。そんな感じだよ」
「そっか……」
紫雲は再び、グラスに麦茶を注いだ。
「美空さん」
「何?」
「もし俺が……」
「ん?」
不思議そうに見つめる美空の瞳を、紫雲が真正面からしっかり捉える。
暫く視線を絡ませた後、紫雲がゆっくり口を開いた。
「今もまだ……」
「え?」
――ピンポーン。
突然、玄関チャイムが鳴った。
「あ。晴斗さんだ、きっと」
はーい、と言いながら、美空は急いで玄関へと向かった。
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