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CBM-016
しおりを挟む人間が立ち入っていなさそうな森の中にあった洞窟のようにも見える遺跡。その前に、俺たちはたくさんの人間たちと一緒に立っていた。
「それで俺たちも誘ったってわけかい。先に入ったほうが儲けれたんじゃないか?」
「そうして行方不明、なんてなってもつまらないですからね。皆さんのお力もお借りしようかと」
恐らくは皮肉も混じっているだろう男の言葉に、こちらもにこりと笑顔で告げるマスター。しばらくは腹の探り合いみたいな見つめ合いが続いたが、すぐに男が先に笑い出す。
(実際問題、何があるかわからないんだよなあ)
刻まれた知識からは、世界各地にはこうした遺跡は意外とあり、何もないことも多いが時折、昔のお宝が見つかることもある。と同時に、住み着いた怪物たちも見つかるのである。何もなくて何もいないっていう場所も相応にあるらしいけどな。
「ちげえねえ。独り占めしようと飛び込んだ奴の分まで持って帰らんとな」
ちなみにだが兵士の姿もいる。この場所はまだサーミッド国内であり、何か発見があればそれは国の管理下にしなくてはならない場合もあるからだ。儲けは少し減るかもしれないが、そのほうが国という後ろ盾があるから奪い取るような輩も減るという利点がある。
そうしてまずは周囲の安全確保として男たちが別れ、遺跡の周囲を切り開いていく。マスターが風を当てた時には特に何も出てこなかったのですぐ近くに厄介な奴が、ということはなさそうだが油断できない。
しばらく後、準備ができたということで順番に遺跡を覗き込む。周囲を綺麗にしてみると、俺なら2人分ぐらい、人間でも頭をぶつけなくて済む程度の入り口であることが分かった。見える範囲では崩落はほぼない。さすがに壁が少し痛んでるように見えるが、突然潰されるということはなさそうだ。
「マスター、俺が行こう」
「……わかりました」
無言の視線、それは召喚獣である俺が前を歩いてくれないかなというものだ。これ自体は否定しなくてもいいかなと思う。世間的には召喚獣は替えの効く物だし、実際そういう運用の方が多いのだから。俺としてもマスターを先に歩かせるつもりもないし、ごねて他からの反感を招くことでもないと思うのだ。
念のためにと腰に縄をまいてもらい、マスターに持ってもらう。最悪穴が開いてたりしても引っ張り上げてもらうためだ。左手には小ぶりの松明、右手には剣を構えゆっくりと進む。正直、後ろからの奇襲を考えないで済むだけ気分的にはすごい楽だ。少人数での探索なんて気を使うことばかりで……ってなんだこの記憶は。こんな物まで召喚時に刻んでくるのか? どうして、失敗した人間らしい記憶が見えるのか。
「っと……でかいな」
灯りの端で何かが動いた。ゆっくりとそちらを伺えば、暗がりに潜むクモ。ただし大きさは俺の顔ぐらいはある。つまり、でかい。毒グモだとしたら厄介であるし、そうでなくても巣に気を取られてる間に他の怪物がということもある。
他の討伐者から譲り受けた投げナイフをしっかり握って投げる。俺的には大きく感じるナイフはあっさりとクモの体に沈み、命を奪う。怪物の類じゃなくてよかったというべきか、難しいところだ。怪物と化した獣や虫は良い素材になるのが定番だからだ。糸だって強度を増すらしいし……まあ、必要なら後続が採取するだろう。
じっくりと進み続け、休憩を挟む。松明の具合からしてもう半日だ。途中で野営というのは出来れば回避したいが仕方がない。交代で見張りに立ち、太陽が見えないのでわからないが松明の交換具合からして翌朝になったであろう時間。
そうして再び進むことしばらく。ようやく俺はお宝らしい物を見つける。逃げ出す時に落としたのか、それとも身に付けていた人間はもういないのか。背負い袋らしきもの。破れ、中身がこぼれている。松明の光に反射している部分があることから、金属か何かだろうか。
「前方に我慢できなかった奴らしき荷物発見。確認していくか?」
「そうしよう。適当なところで戻るつもりだったかもしれないからな」
引き返すに十分なだけの儲けを確保したからかもしれない、そう言われては確かに気になる。そっと袋の外からつつき、めくるように確かめると何かが転がって出て来た。石……いや、これは。
「マスター」
「はい、眠った状態ですがマナ結晶の加工品ですね。これだけで……うーん、部屋1つ分ぐらいの結晶を圧縮してあるんじゃないでしょうか」
部屋1つ分という言葉に全員が驚く。俺だって驚く。そりゃあ驚く……それだけのマナ結晶となると、何年も遊んで暮らせるだけの額が簡単に動くぐらいだ。
それがこんな小さくなっている、しかも複数あり……もしかしなくてもこの奥にはもっと、というわけだ。
「兵隊さんよ、思うんだが隣国の奴らはこの事を知っていたんじゃないか?」
「あり得るな。だからこそ怪物が侵入してきたことにして探索、あわよくば確保か」
随分と危ない匂いのする話になってきた。なにせこのマナ結晶、刻まれた知識が正しければ、大規模な魔法を使ったり、便利な道具を作る時の材料や燃料となる物なのだ。基本、強い怪物ほど有用なマナ結晶を宿している。だからこそ国は討伐者や探索者からマナ結晶を買い取り、自国のために使うのだ。
これだけの結晶、上手く使えば複数人で行うような大魔法も1人で実行できる可能性だってある。
「先に言っておきますね。私は誰かが独り占めするために仲間割れするぐらいなら報酬を放棄しつつルト君と暴れてでも逃げます」
男たちの空気が変わりかけたその時、マスターの高い声がまっすぐにその空気を切り裂いた。可愛い顔してなんとやらと世間では言うようだが、マスターはやはりマスターであった。真剣な様子ではあるがいつも通りの顔に、落ち着いた声でいつでも動ける姿勢を取る。
「……だな、おい。これがほんの手付だとしたらどうやっても手にあまらあ。協力してみんなで豪遊しようや」
陣地で声をかけたときから思っていたが、この男はやはりこのあたりのまとめ役のような立場にいるようだ。しかも実力で。完全には納得してないようだが、ひとまずここで仲間割れという事態は回避できたようだ。
「ルト君、もっと探してくださいね」
「ああ。全員笑って帰られるような物を見つけよう。俺の鼻はちょっとしたもんだ」
多少危ない部分はあったものの、改めて探索が始まる。今度は左右に人間の男もやってきた。本気を出したというとこだ。危険を冒す、それだけの価値があると感じたわけだ。ちなみに不幸に力尽きたかした奴の袋にあったマナ結晶はしっかりと封をして荷台に括り付けた。
奥に行くほど広くなっていくのを感じる。同時に何かの実験でもしていたような痕跡が見つかってくる。人間の道具たちだ。まだ圧縮される前のマナ結晶もいくつか。
「こんな場所でマナ結晶の研究をしていた昔の奴はどういうつもりなんだ?」
「まだわかりませんけどね。何かあるはずですよ」
既に全員の頭の中では、ここは昔の人間か何かがマナ結晶を圧縮する実験をするために用意した場所だとなっていた。恐らくそれは正しいんだろうなと思う。
途中休息を挟み、なおも進むと周囲の気配が変わった気がした。急に息苦しさが無くなったのだ。同時にひんやりした風と、水音。
「? マスター、警戒を」
「さあて、何が出るか……」
今のところ、生き物の気配は感じない。動く音も……だがこの匂い、この音は。角を曲がると。それは現れた。大きな、広い空間。ちょっとした屋敷なら入りそうなぐらいだ。どうやら俺たちは段々と地下に潜っていたようだ。外からじゃこんなに広い場所があるようには見えなかった。周囲にはかつての誰かが延々と行っていたであろう研究の機材、そしてマナ結晶たち。続けて聞こえる水音の正体は……。
「川……? こんな場所に……あれはっ!」
「嘘だろ、おい……」
複数の松明に照らされた地下の川。岩盤をつらぬいて流れてるであろうその水は当然冷たそうだ。そうして周囲は濡れて光っている……だけではなかった。川の上流にあたる壁を照らして見えた物、それは巨大な生き物の形をしたナニカだった。
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