聖女と呼ばれても、そこそこ暮らしが一番です~秘密の種は異世界お婆ちゃんの知恵袋~

ユーリアル

文字の大きさ
上 下
58 / 64

GMG-060「家事を楽に!」

しおりを挟む


 しばらくぶりの、故郷での生活。
 元々、私が不在の間でも回るように準備をしていたわけで……。
 
 何が起きたかと言えば、普段やることがないことに気が付いたの。
 あれかな、経営者ってのはこういうものなのかもしれない。
 お婆ちゃんの記憶でも、偉い人ほど現場作業はしてなかったもんね。

「お掃除でもしよ……」

 使ったお茶っぱを適当に床にまいて、ほうきではいていく。
 竹ぼうきみたいな手ごたえと音が、なんとなく落ち着く気がするのだ。

「ピィ?」

「お帰り、シロ」

 戻って来てから、シロは家の敷地内なら歩かせることにした。
 そのことが伝わったのか、シロもきょろきょろしながらも歩きっぱなしだ。
 出会った通りなら、そのうちもっと大きくなって、飛ぶようになるんだろうか?

(そうなったら、乗せてもらおうかな、うん)

 おいでとやれば、飛び込んでくるシロはまるで犬のよう。
 動きは猫みたいにすばしっこいところがあるけどね。

 そのまま、自分の工作部屋に向かう。
 工作と言っても、実験部屋って言った方が早い気もする。

「やっぱり、近くにあると大体同じぐらいになるのかあ」

 棚に置いた木箱の中には、たくさんの魔石。
 最初は、内包する魔素の量で分けておいたのだけど……近くの魔石たちが同じような状態になっていた。
 差が、無くなっているのだ。

「魔素が少ない場所だと、段々抜けていくわけで……となると?」

 魔法使い向けのお話として、魔素の抜けた魔石を普段から持ち歩いてもらえば、充填されるんじゃないだろうか?
 そうしたら、何かあった時にすぐ使える魔石があることになる。
 まるで、お婆ちゃんたちが子供にすぐお菓子をあげれるみたいに……少し違うかな?

 ともあれ、やりようによってはこれはお金になる気もする。
 魔法使いたちだって、いつも魔法で何かを退治したりできるわけじゃない。
 現に私も、用事が無ければ魔法を使うことはないのだから。

 でもあれかな、逆に魔石から魔法使いに少しずつ移動しちゃうかも?

(難しいなあ。取っておきたいんだけど……)

 問題は、魔素の維持だ。
 どうしてもなんにでも魔素がある以上、閉じ込めておくのにも限界がある。

 お婆ちゃんの記憶にある、保温の水筒みたいにいけばいいのだけど、それは難しい。
 どうしても、魔素が動いてしまう……。

 机の上には、魔石たちと木板、金属板等材料がいくつか。
 最近研究しているのは、魔法を簡単に出来ないかという道具だ。

 機械の動力に電気ってのを使っているみたいに、魔素を使って何かしたいなと考えている。
 今のところ、鳴子みたいなやつと、発熱する奴とかは出来てるけど、そのぐらい。
 なかなか思うように魔石から力が使えないんだよね。

「魔法なら、簡単なんだけどなあ」

 適当に指で魔石をつつきながら、あれこれと考える。
 魔法は、魔素を自分が思うように誘導して結果とするものだ。
 その分、魔法使い本人がちゃんとやらないと魔法にならない。

 私がやろうとしてるのは、そこに魔法使いがいなくても魔法が維持できるもの、になるわけだ。

「せめて魔素の動きが決めれたら……んん?」

 適当に魔石を配置し、お婆ちゃんの記憶が教えてくれたおはじきのように遊ぶ。
 ぱちんと音を立て、私の弾いた魔石が別の魔石を転がしていく。

 その時だ。私の目には、魔素が指の動きに巻き込まれているのが見えた。
 まるで魔素の動きが魔石に勢いを与えたかのように動き、魔石が動いた……いや、これは。

(魔石の中の魔素が押し出されてる?)

 しかも、一度流れ始めたら配置を変えるまで、魔石の間を魔素が移動し続けている。

 試しに、1つ魔石を抜いたり、場所を変えたり、色々試してみた。
 結果として、実験は大成功だった。

「これなら魔石同士で魔素を移動しあってるだけだから、あまり減らない!」

 出来上がったのは、くぼみにはめ込んだ魔石同士で魔素が動く輪っかとなる物。
 放っておくとあちこちに魔素が散っていく魔石だけど、これならお互いに魔素を出し入れしている。
 材料の一部には、魔素を通しやすい物を使ったから、誘導も簡単だ。

「数を変えられるようにして……うん、いけるいける」

 これまでは、袋なんかにまとめて入れておくしかなかった魔石。
 それが別の形で持ち歩けることに、一人喜んでいた。

「っと、ご飯の時間かな」

 そうしてる間に、あっという間に時間は過ぎていたようで、お腹がぐうっと鳴ってしまう。
 お湯をひとまず沸かすことにして、薪の代わりに実験中の発熱板を使って湯沸かし。
 これにも魔石が使われていて、使い切ったら交換するんだよね。

「自分なら、外さずに充填できるけどみんなはそうもいかないよねえ」

 出来ればこれも、薪いらず!なんて名前で売り出したいところだけどまだまだ課題がある。
 お鍋に使うなら、料理が発熱板側にくっついちゃうんだよね。
 それに、今やってるように、はめ込んだ燃料代わりの魔石の力が……ああ!?

「組み合わせればいいんだ!」

 いってしまえば、今日作った物が魔素の電池、魔電池……は変だね。
 まあ、充填機、カートリッジとか呼んでみようか。

 充電するかのように、道具の魔石にこのカートリッジから魔素を補充すればいいんだと気が付いた。
 はやる気持ちを抑えて、簡単にご飯を終えて作業を再開。

 日が暮れる頃には、新しく2つの物が出来ていた。

「試作型魔素充填機、カートリッジと……再利用可能な発熱板!」

 カートリッジには、魔素を通しやすい素材と通しにくい素材を両方使うことで、調整を可能にした。
 逆に、発熱板には魔石そのものを取り外した物も用意。
 これで、常に一定量発熱するものと、魔素の供給具合で発熱量が変わる物が出来上がった。

「さっそく、サラ姉とかに使ってもらおうかな」

 薪の消費量は、そのままその家庭の金銭に直結する。
 私も、お婆ちゃんもそのことはよくわかっている。
 記憶にあるような、ガスや電気ってのが使えるようになると違うんだろうけど……。

(電気は魔法が代わりになるかもだけど、ガスは危なそう)

 やっぱり、出来ることと出来ないことがあるなあと感じながら、気ままな発明の日々。
 それが今の私の、大切な日常だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

処理中です...