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GMG-047「人はどこまでも人」
しおりを挟む報酬は期待していい。
そんなことを言われても、逆に安心できないというか……でも、しょうがないのかな?
「これでこの国も一息つける、ありがたい!」
思い出されるのは、交渉相手の喜びよう。
一応侍女役としてそこにいる私にすら、涙を浮かべて握手を求めてくるぐらいだった。
その勢いを見るに、まあいいのかなと思う。
主に喜んだ理由は、やっぱり塩っぽい。
すぐにでも、直轄領で実験をするんだとか。
(せいたいちょうさ?ってやつをして、泳ぐ水筒がいなくならないようにしないとなあ)
お婆ちゃんの記憶でいうと、クラゲに近い姿の怪物なんだけど、どこにでもいるから何もわかっていない。
その皮が、海水を真水に変える秘密だというのだから、なあなあはよろしくないように思う。
そのあたりは帰国してからやるとして、今回の交渉というか商談だ。
石鹸も売りこめたし、洗濯板も粗悪品が出回らないようにと話が付いた。
すぐに帰る……と言いたいところだけど、国の代表ともなればそう簡単にはいかない。
何かと理由が付いて回り、しばらく滞在となるらしい。
だから、エリナさんも私に数か月、と言ってきたわけだ。
「毎日宴、とかじゃなくてよかったです」
「そうなると、さすがの私も疲労したでしょうね」
同意の頷きをマリウスさんに返しつつ、自身も汗をぬぐいながら空を見る。
同じ港町でも、シーベイラとはどこかが違うようで、感じる暑さも少し違う。
こちらのほうが、正直……暑い。
(あまり風がないんだ……どうしてだろうなあ)
こうなってくると、シロも袋に入れておくのではゆだってしまう。
部屋でお留守番をしてもらうことになっているのだけど、ちゃんと中にいるかなあ。
「あっ、あれを食べましょう。汗をかいたときにはああいうのが大事なんですよ」
「さすがターニャ様。そうさせてもらいましょう」
市場に顔を出せば、いくつかの果物が山盛りに売っている。
これだけの数があるというのは、国に力がある証拠であり、塩の影響がまだそこまで出ていないとも言える。
実際、普段ならこの辺も活気があるんだろうなという場所がいくつかあった。
「最初は心配したんですよ。こっちの国と喧嘩でも始まるんじゃないかって」
「常に火種はありますね。やはり、人間そう簡単には変わらない物です。大きな声では言えませんが、こちらが親であちらが子、そう考えるお年寄りは少なからずいるようですから」
そういうものなのかあ、とちょっと悲しい気持ちを抱えながら、町を歩く。
テオドール様と、表向きの役職ではその次に偉いエリナ所長はお城であれこれお話中。
私は自由な時間と、マリウスさんを手に入れたわけだけど……。
「探索者、討伐者の人が多いなあ。それに、魔法使いも結構いますよ」
「探索者たちはともかく、魔法使いもですか」
ちなみにこれまでの会話は、つぶやくような大きさでしてるからあまり聞かれてないと思う。
市場は騒がしいし、行きかう人もいちいち私たちを気にしないだろう。
そうした中で観察した限り、他の土地と交流しやすいからか、住民以外の人が結構いる。
まあ、見るからに武装してればすぐにわかるって人もいるんだけどね。
「そんなに怪物が多いのか、それとも……ちょっと寄っていきませんか?」
「仕方ないですね。情報収集という奴です」
大体、どの場所でもそういう話が集まる場所は相場が決まっている。
昼間からやってる酒場たちであったり、人が集まるところだ。
市場のそばにある、それらしい建物へと足を向けると騒ぎがここまで聞こえて来た。
さすがにここは、見た目は屈強な戦士であるマリウスさんに先導してもらいながら中へ。
中に入ると、視線がいくらか集まるけど人の出入りが多すぎるのか、それもすぐに元へ。
町の内外の依頼事が書かれているのか、乱暴な文字の羊皮紙や板切れが壁に打ち付けられている。
(紙……は高いか。そのあたりは、私が量産できるようなもんじゃないもんね)
お婆ちゃんの記憶にある、和紙の類なら作ることそのものは出来るだろうけど……。
適した材料の、定期的な確保というのがこうやって大量消費が見込める物は問題だと学んだ。
洗濯板も、ちょうどいい板を用意するのに気を付けないと伐採量が増えてしまうところだったのだ。
「マスター、このあたりは討伐が多いのだな」
「見ない顔だな……アンタぐらい腕っぷしが良さそうなら稼ぎやすいぜ。近くの沼地だとか、山に怪物が増えて来たんだ。だから街道まで出てくるのを見つけ次第倒すだけでも酒代にはなる」
聞き流すには、なかなか厄介そうな話が聞けた。
シーベイラの近くでも、前よりは目撃量が増えているような話を聞いたことがある。
となると、このあたりも含めた限定的な話……というよりは、国規模で変化があると見たほうがいいかもしれない。
頭をよぎるのは、お婆ちゃんの記憶にある動物の伝染病。
そう、私は怪物をある種病気のように考えていた。
無くすことは出来ないけど、被害を減らすことは出来るんじゃないかという意味でだ。
「誰でも大きな音が出せて、驚かせるようなのがあったら楽ですかね」
「どのぐらいの物かにもよりますが……無いよりは、あった方が大きく違うでしょうね」
今考えているのは、猛獣避けの道具のようなものだ。
誰でも魔素はもっている。その魔素を利用したのが浄化樽たちだ。
となれば、同じように魔素を使うことでそういうグッズが出来ないかってこと。
仕組みというか、考え自体は前からあったんだけど……需要が読めなかった。
こっちの町でもこんな感じなら、シーベイラでも十分需要がありそうだ。
帰ったら色々作ってみよう、そう決めた。
そんな時だ。
「なんだあ、てめえ!」
どこにでもありそうな酔っ払いの大きな声。
そちらを向けば、叫んだ男の人が別の人につかみかかり……投げて来た!
お互いに体格のいい討伐者だったのか、結構な勢いで男の人が迫ってくる。
「むっ!」
「優しき抱擁を!」
とっさに私を守るように動いてくれたマリウスさん。
でも私は、短く詠唱を唱え、魔法を使っていた。
酒場の中に魔法使いが私1人だったら、使わなかったと思う。
でも、見るからに魔法使いという人も結構いたのでこのぐらいはいいかなと思ったのだ。
局地的に風が動き、男の人はまるで柔らかい毛布に抱えられるような気分になったはずだ。
倒れ込むことなく、ふわりと勢いが止まるのがわかる。
「っと、今のはお嬢ちゃんが?」
「え? あ、はい」
違いますと答えるのは、無理があった。
騒ぎになることはなかったけれど、少しばかり周囲からの視線が変わったような気が……。
お仕事がやってくる、なんてことはないといいなあと思いながら果実の絞り汁を頼む私だった。
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