寂しがりやで強がり

希紫瑠音

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総一

二人で過ごす昼休み(3)

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 美術室に田中の姿がなく、もしかしてとベランダに出て下を覗けば、ブニャと田中が見える。

 もしかして来づらいのか? だったら俺から声を掛ければいいか。

 そう思って下の田中めがけて大きな声で声を掛ける。

「おーい、美術室に来いよ」
「ブニャに会いに来ただけだし」

 と、つれない返事をする。

「俺にも会いに来い」

 寂しいだろうと、手招きをすれば、

「しょうがないな」

 ブニャの頭をひと撫でした後、昇降口へと向かった。

 田中がくるまでには少し時間が掛かるので弁当を広げて待つことにした。

 今日も俺の為に沢山のオカズをつくって詰めてくれた。毎朝、大変だろうに、本当にありがたい。

「すげぇ量」

 美術室につくなり、そう口にする。

「あぁ、よくいわれる」

 教室で食べていた頃、クラスメイトも俺の弁当に驚いていたな。

「いい母ちゃんだな」
「これを作ったのは祖母だ。親は海外にいるからお世話になっているんだ」
「へぇ……」

 昔からじぃちゃんの家で暮らしているからな。寂しく無かったのかと聞かれ、その分、可愛がってくれるからと返す。

「畑があってな、一緒に土いじりとかしている」

 畑はじぃちゃんの趣味。自分で育てたものでばぁちゃんに料理を作ってもらう。それがお互いに楽しみで、素敵な夫婦だと俺はそんな二人が大好きだ。

「そんなイメージある」
「友達にも言われる」

 その言葉に、何故か田中の表情がかたまった。

 もしかして、友達と喧嘩をしたのか? だからその言葉に反応してしまったのだろうか。

「おい、田中?」

 目の前にひらひらと手を振ると、瞬きをし、ゆっくりとこちらを見た。

「え、あぁ、わるい」

 我に返ったか。別の話題にかえた方がよさそうだな。

「上の空だなぁ。もしかして、五時間目にテストでもあるのか?」
「あ……、テストはあきらめてるから問題ない」
「お前ねぇ、そりゃ問題ありの方だろ」

 話しは学業のことへと流れていく。

 どうやら、田中は学年で下の方の成績らしく、橋沼さんはどうなんだと聞き返された。

「言っておくが、俺は毎回トップテンに入るぞ」

 勉強は好きだ。自力で答えにたどりつくことができたときの達成感はいい。

 だが、田中は自分と同類だと思っていたようで、舌打ちをされてしまった。

 残念だったな。頭を乱暴に撫でると、田中がじっと俺を見つめていた。もしかして、鬱陶しかったのか?

「どうした」
「いや、俺と違ってデキがいいし、橋沼さんってモテそうだなって」

 お、まじか。田中にそう言って貰えるとは。

「まぁ、否定はしない」
「うわっ、言うんじゃなかった」

 引かれてしまった。

 田中が身体を横に向けて弁当を食べ始め、俺は冗談だからと目の前にから揚げを差し出した。

 から揚げは、ばぁちゃんの特製タレに漬け込んだ、食欲をそそる匂いがする。それで釣れない男はいない。

 大きく口をひらき、一口でから揚げはなくなった。田中の横顔が美味いといっている。

 俺の方へと身体を向け、

「お肉も頂戴」

 と口を開いた。

 可愛いな。まるでヒナに餌をやるみたいだ。その姿に口元が緩む。

「わかった」

 生姜焼きを箸で掴み、口の中へといれる。

「うまい……。こってり味の生姜焼き」

 頬に手を当て、表情を和らげた。

「男心をくすぐる弁当だからな」

 と口角をあげる。ばぁちゃんの料理を美味いと食ってくれるのは嬉しい。

「優しいな、ばぁちゃん」
「あぁ。孫ラブだから」

 親が居なくても寂しくないように、いつでも俺を優先にしてくれる。

 じぃちゃんとばぁちゃんの話しをしても、つまらなそうな顔をしないのは冬弥と田中くらいだ。

優しいといって、笑ってくれるのも、だ。

「田中って、チャラそうに見えるけど、笑うと可愛いのな」
「は、何言ってんの」

 眉間にしわを寄せて睨まれる。

 少し頬が赤いのは、照れている証拠だな。そういうところだよと、心の中で思いながら口元を綻ばす。

「てめぇ、オカズ食ってやる」

 手を伸ばし肉団子をつかみ、それを口の中へいれると、再び表情を和らげた。

「あ……、美味い」
「ばぁちゃんに伝えておくよ」

 よかった。田中が気に入ってくれて。

 ばぁちゃんに、このことを話したら喜ぶだろうな。それで、明日はおかずを多めに入れて貰おう。

 そうしたら、また、可愛い田中を見ることができそうだ。




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