寂しがりやで強がり

希紫瑠音

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秀次3

告白(1)

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 葉月に謝り、俺との間にわだかまりはなくなった。だからといって、つるんでいたあいつ等と元通りの関係になることは無いし、女子達も冷たいままだ。

 クラスで浮いたままではあるけれど、俺の気持ちは今までとは違う。教室に居ても苦痛に感じなくなったからだ。




 美術室へと向かう前に自動販売機でお茶を買おうとしていたら、脇から手が伸びてきて炭酸ジュースのボタンを押されてしまった。

「勝手に押すなよ」

 菓子パンと甘いジュースの組み合わせはキツイ。

「俺が飲むんだからいいだろ」

 と自動販売機にお金を入れた。

 何がしたいんだよ、一体。

 お茶のボタンを押し、取り出し口からペットボトルをとる。

 尾沢兄に対して良い印象がないから、相手にしたくないんだよな。

「なぁ、少し付き合えよ」

 早く総一さんの所へ行きたいのに、でも尾沢兄は俺の気持ちなど無視して腕を掴んで引っ張っていく。

 本当、強引な奴。総一さん、なんでこんなのと仲がいいんだよ。

「総一が絵を描けなくなった理由は聞いたか?」

 話って、そのことか。

 総一さんから聞いていたので知っていると頷く。

「あの時の総一さ、すごく辛そうで見ていられなかったんだ」

 とその時を思い出しているのだろう、表情が曇りだす。

 そうだよな、この人は辛いときに間近にいたのだから、その時の苦しみを知っている。

「でもな、ある時から笑顔を見せるようになったんだ」

 お前と出会ったから、と、そう真っ直ぐに見つめてくる。

 俺が……?

 驚いて目を瞬かせながら自分自身を指さす。

「そうだよ。可愛い猫に懐いて貰うんだって。俺はさ、総一の表情が明るくなったのが、ただ嬉しかったんだ」

 と口元を綻ばせるが、すぐにかたく結ばれた。

「だけど、その相手が田中と知った時、なんであいつがいるんだよって思ったよ。弟と慧の友達にしたことを知っていたから」

「そうだろうな」

 自分勝手な理由で相手を傷つけたのだから。

 しかも大切な友達の傍に、そんな男がいるのだから心配でならなかっただろう。

「総一にお前のことを話したのは、酷いことをされる前に離れて欲しかったから。だけどさ、アイツさ、お前と仲良くするのをやめないって言うんだもの」

 だから意地悪をしてやろうと思ったそうだ。

「意地悪でもなんでもねぇよ。友達思いだな、尾沢さんって」

 そう俺が言うと、目を見開き、そしてニンマリと笑う。

 まるで羨ましいだろうといわれているようで、なんか腹立つ。

「ムカつく」

 ぼそっと呟いて拳を作り身体を震わせると、尾沢兄が俺の肩に手をおいた。

「総一を救ってくれてありがとう」

 そんなことを言われるとは思わず、今度は俺が驚かされる。

「俺は、何もしていないしっ」
「それでも、お前のお蔭なんだよ。ありがとうな」

 肩に置かれた手が力強く、尾沢兄の思いが伝わってくるかのようで、ちょっとウルッときた。

「尾沢さん……」
「田中」

 中に入ろうとせずに、ドアの前で見つめ合っている俺達。はたから見たら怪しいよな、これ。

 総一さんも何事かと思ったんだろう。どうしたんだと声を掛けられる。

「自動販売機の所で会ってな」
「そうなんだ。冬弥も一緒に飯食う?」

 入れよと親指で席を指す総一さん。だけど尾沢兄は教室に戻ると言って、

「またな、田中」

 と肩を軽く叩かれ、俺らから背を向けて教室へと戻った。
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