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バスタイム
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ふたりの心が安らぐ場所になればいい。慣れない暮らしをスタートさせて住む場所にまで気をつかわせるのは可愛そうだから。
「ただいま」
扉を開いて声を掛ける。すると「おかえり」と返事がある。
「ごめんね。遅くなっちゃった」
「いや。今日は色々とあったからな」
読んでいた本を閉じてテーブルの上に置く。
「お腹すいた?」
「あぁ」
食べるものをここにも置いておくべきだった。帰ってきたら温かい食事を作ろうと思っていたのでライナーの分は用意していなかった。
「すぐにご飯を用意するから」
「頼む」
「待っていてね」
今日は魚がある。それをムニエルにし、イネの実を釜で炊き上げたものと一緒に出した。
「召し上がれ」
「頂きます」
手を合わせ、綺麗な所作で食べ始める。
「保護施設はどうだった?」
「いいところだったよ」
保護施設での出来事をライナーに聞かせた。
「子供たち、可愛かっただろう」
「うん。皆、明るくていい子だった」
ふたりがいつか自分で焼いたパンを子供たちに食べてもらいたいと言っていた。
「俺さ、ふたりと出逢えて良かった。ライナー先生、引き合わせてくれてありがとう」
「そうか」
ライナーが口元を綻ばせる。あの出来事を知っているからこそエメの気持ちが変わったことを喜んでくれているのだろう。
「俺、ふたりが一人前になるまで頑張って教えるね」
「エメ、一緒に見守ってもいいか」
「うん。ライナー先生も一緒なら心強い」
もし、自分ではどうにもならないことが起こったときにライナーなら冷静に対処してくれそうだ。
心のケアもそうだ。エメも随分と助けてもらったからだ。
「ライナー先生、ご飯冷めちゃうから食べて」
「そうだな」
ライナーの前の席に腰を下ろして食べている姿を眺める。
「なんだ、嬉しそうな顔をしているが」
「うん。俺の作った料理を食べている姿が見れて嬉しいの」
「そうか」
お昼はニコラのことで嫉妬していたが、それは口にしないでおく。
そして気になることが一つある。
「ねぇ、ニコラの料理はどうだった?」
「ん、そうだな懐かしい味かな」
その回答にひとまず安堵し、自分が最も知りたいことを尋ねた。
「俺の料理は」
「家庭の味だな」
それは食べなれた味的みたいなものだろうか。
「う、うん?」
結局は好きなのかどうなのかよくわからない答えにエメは首を傾げた。
「毎日食べたい、ということだ」
ぽんと頭を叩き撫でまわした。
「そっか、えへへ」
もしも懐かしさを選ぶのならブレーズに料理を教わりに行けばいい。
でもエメの料理を選んでくれたので嬉しすぎて尻尾を振り回す勢いがすごい。
「エメ、落ちつきなさい」
ライナーが立ち上がりエメの傍にくると尻尾を下から掴み取る。
根元に近い場所を掴まれるのは少々やばい。
「ん……っ」
体が小さく震えてぞくぞくとしたものが走り抜けた。
耳に息がかかり、尻尾と耳が立ち上がった。
「せんせぇ、だめ」
「エメは警戒心が少し足りない。誰にもこんなまねをされていないよな?」
それにライナーがこうするのはからかう時かエメに教えるときだけだ。いきなりするのは危機感を持つようにと思ってのことだろうが、好きな人が相手なのだからその効果はあまりない。
しかもジェラールやブレーズにも心配をされたことがある。警戒はきちんとしていると思っているのは自分だけのようだ。
「うん。俺はモテないから」
「そんなことはない。こんなに可愛いのに」
ライナーの言う可愛いは弟として、ということだろう。嬉しいけれど欲し好きとは違う。
「ライナー先生だけだよ。俺を可愛いっていうの」
ありがとう、そう言うとライナーから離れた。
「さてと洗い物をしてお風呂に入ってくるね」
「なぁ、一緒に入ろう。獣人にとって風呂はコミュニケーションの場だったよな」
互いに意見を言い合い仲を深める、騎士である幼馴染が先輩に対して意見をいう時に風呂が一番だと言っていたなと思い出してしまい、そうじゃないと自分につっこむ。
「その通りだけど、ライナー先生は獣人じゃないし」
「背中を流しあったのはいつぶりだったかな」
すっかり一緒に入る気になっているようで上着を脱いで椅子の背もたれに掛けた。
「せ、ライナー先生、待って」
「ん? 俺のシャンプーの腕を知っているだろう」
両手をわきわきと動かしてにやりと笑う。確かにアレは癖になるほど気持ちがいい。
「うう、好きだけどぉぉ」
子供のころと違って別の意味を持ってしまう。
「エメ、ライナー先生に洗われなさいな。ドニのお店で新作の石鹸が売っていてね。もこもことした泡ができるそうだよ」
「はぅっ」
ドニの作った石鹸は香りが良いだけではなくそれで洗うと毛並みが艶やかになる。評判が良くてなかなか手に入らず、大事に大事に少しずつ使っていた。
「……よろしく、お願いします」
「任された」
好きな人からの気持ちの良いお誘いを断ることはできない。
期待で尻尾が落ち着かず、そわそわとしながら洗い物をすませてバスルームへと向かった。
「ただいま」
扉を開いて声を掛ける。すると「おかえり」と返事がある。
「ごめんね。遅くなっちゃった」
「いや。今日は色々とあったからな」
読んでいた本を閉じてテーブルの上に置く。
「お腹すいた?」
「あぁ」
食べるものをここにも置いておくべきだった。帰ってきたら温かい食事を作ろうと思っていたのでライナーの分は用意していなかった。
「すぐにご飯を用意するから」
「頼む」
「待っていてね」
今日は魚がある。それをムニエルにし、イネの実を釜で炊き上げたものと一緒に出した。
「召し上がれ」
「頂きます」
手を合わせ、綺麗な所作で食べ始める。
「保護施設はどうだった?」
「いいところだったよ」
保護施設での出来事をライナーに聞かせた。
「子供たち、可愛かっただろう」
「うん。皆、明るくていい子だった」
ふたりがいつか自分で焼いたパンを子供たちに食べてもらいたいと言っていた。
「俺さ、ふたりと出逢えて良かった。ライナー先生、引き合わせてくれてありがとう」
「そうか」
ライナーが口元を綻ばせる。あの出来事を知っているからこそエメの気持ちが変わったことを喜んでくれているのだろう。
「俺、ふたりが一人前になるまで頑張って教えるね」
「エメ、一緒に見守ってもいいか」
「うん。ライナー先生も一緒なら心強い」
もし、自分ではどうにもならないことが起こったときにライナーなら冷静に対処してくれそうだ。
心のケアもそうだ。エメも随分と助けてもらったからだ。
「ライナー先生、ご飯冷めちゃうから食べて」
「そうだな」
ライナーの前の席に腰を下ろして食べている姿を眺める。
「なんだ、嬉しそうな顔をしているが」
「うん。俺の作った料理を食べている姿が見れて嬉しいの」
「そうか」
お昼はニコラのことで嫉妬していたが、それは口にしないでおく。
そして気になることが一つある。
「ねぇ、ニコラの料理はどうだった?」
「ん、そうだな懐かしい味かな」
その回答にひとまず安堵し、自分が最も知りたいことを尋ねた。
「俺の料理は」
「家庭の味だな」
それは食べなれた味的みたいなものだろうか。
「う、うん?」
結局は好きなのかどうなのかよくわからない答えにエメは首を傾げた。
「毎日食べたい、ということだ」
ぽんと頭を叩き撫でまわした。
「そっか、えへへ」
もしも懐かしさを選ぶのならブレーズに料理を教わりに行けばいい。
でもエメの料理を選んでくれたので嬉しすぎて尻尾を振り回す勢いがすごい。
「エメ、落ちつきなさい」
ライナーが立ち上がりエメの傍にくると尻尾を下から掴み取る。
根元に近い場所を掴まれるのは少々やばい。
「ん……っ」
体が小さく震えてぞくぞくとしたものが走り抜けた。
耳に息がかかり、尻尾と耳が立ち上がった。
「せんせぇ、だめ」
「エメは警戒心が少し足りない。誰にもこんなまねをされていないよな?」
それにライナーがこうするのはからかう時かエメに教えるときだけだ。いきなりするのは危機感を持つようにと思ってのことだろうが、好きな人が相手なのだからその効果はあまりない。
しかもジェラールやブレーズにも心配をされたことがある。警戒はきちんとしていると思っているのは自分だけのようだ。
「うん。俺はモテないから」
「そんなことはない。こんなに可愛いのに」
ライナーの言う可愛いは弟として、ということだろう。嬉しいけれど欲し好きとは違う。
「ライナー先生だけだよ。俺を可愛いっていうの」
ありがとう、そう言うとライナーから離れた。
「さてと洗い物をしてお風呂に入ってくるね」
「なぁ、一緒に入ろう。獣人にとって風呂はコミュニケーションの場だったよな」
互いに意見を言い合い仲を深める、騎士である幼馴染が先輩に対して意見をいう時に風呂が一番だと言っていたなと思い出してしまい、そうじゃないと自分につっこむ。
「その通りだけど、ライナー先生は獣人じゃないし」
「背中を流しあったのはいつぶりだったかな」
すっかり一緒に入る気になっているようで上着を脱いで椅子の背もたれに掛けた。
「せ、ライナー先生、待って」
「ん? 俺のシャンプーの腕を知っているだろう」
両手をわきわきと動かしてにやりと笑う。確かにアレは癖になるほど気持ちがいい。
「うう、好きだけどぉぉ」
子供のころと違って別の意味を持ってしまう。
「エメ、ライナー先生に洗われなさいな。ドニのお店で新作の石鹸が売っていてね。もこもことした泡ができるそうだよ」
「はぅっ」
ドニの作った石鹸は香りが良いだけではなくそれで洗うと毛並みが艶やかになる。評判が良くてなかなか手に入らず、大事に大事に少しずつ使っていた。
「……よろしく、お願いします」
「任された」
好きな人からの気持ちの良いお誘いを断ることはできない。
期待で尻尾が落ち着かず、そわそわとしながら洗い物をすませてバスルームへと向かった。
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