愛しき面倒な者へ

希紫瑠音

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万と一

触れて、心を温めて

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 キスをした後、お互いに照れてあたふたとしてしまったが、つながりあった思いに喜びを感じていた。

 それから少し話をして万丈の家へ泊まっていくことになったのだが、ベッドを譲られて一人で寝ている。 

 それが少し寂しく、枕をもってリビングへと向かった。

 常夜灯の淡い光で万丈の姿が見える。ソファーの上で丸くなりクッションを抱えて寝ていた。

 ソファーの座席部分に寄りかかり座る。側で息遣いを感じるたびにじわじわと心が温かくなった。

 今でも万丈と恋人同士になれたことが信じられない。この自分を好いてくれているのだ。

 唇に触れると柔らかく、キスをしたのを思い出して顔が熱くなり、そっと唇を重ねた。

「ん……」

 起きてしまっただろうか。顔を離し万丈を見れば起きた様子はなくてホッと息を吐く。

「はぁ、驚いたな」

 まさか自分からキスをするなんておもわなかった。胸の鼓動が落ち着かない。

 だが、悪戯が成功した時のような高揚感がある。

「すごいな、これも恋がなせるものなのか」

 万丈を失いたくなくて行動したことも、今のキスもだ。

「いいものだな」

 胸のところに頭を乗せると、髪を撫でられて慌てて顔を上げた。

「えっ、起きてたのか」
「はい。一ノ瀬さんがベッドいると思うと眠れませんでした」

 ということはキスをした時も起きていたということか。

「万丈!」
「すみません。まさか一ノ瀬さんからキスしてみらえるなんて思わなくて」

 夢のようですと身を起こすと抱き寄せられた。

「ずるいぞ」
「そういう一ノ瀬さんだって。寝込みを襲ったじゃないですか」

 やたらと楽しそうにクスクスと笑いながら顔を近づけた。

「もういい。寝に行くから離せ」

 意地になって身を離そうとするが力強く抱きしめられてしまう。

「万丈」
「放しません。あんな可愛いことをされて気持ちが落ち着きませんよ」

 万丈の手が触れ、唇が重なり合う。

 何度もついばみ、開いた唇から舌が入り込む。

「んふ」

 先ほど味わった気持ちよさを味わえる。舌は素直に万丈を受け入れて絡み合う。

 引き合う透明の糸がプツリときれ、万丈の指が濡れた唇を拭った。

「大丈夫ですか」
「ん……」

 唇がしびれ頭の中がぼんやりとする。

「さっきも、ここ、反応していましたよね」

 そういうと万丈の手が触れ、ぼやけていた意識がもどる。

「な、ば、どこ」

 万丈の手が触れていたのは下半身のモノで、動かされてびくっと跳ねる。

「よせ」
「あの時、電車で触れ合いましたね」
「だめだ、そんなにされたら……っ」

 同じ男だ。どうなるかはわかるはずだ。

「万丈、これ以上は」

 手首をつかんで引き離そうとすると、

「本当にダメですか?」

 そう首を傾げた。百の子供たちがおねだりをする時みたいで、それに一ノ瀬は非常に弱い。

「くっ、君はそういう手を使うのか」

 口元に手を当て、頭の中では可愛いを連呼する。

「ずるいぞ」
「ずるい? でも俺の本心ですから」

 触りたいです、そう真っすぐに見られて熱が上がる。

「わかった。触るだけだぞ」

 きっと真っ赤な顔をしているだろう。目つきも悪くなっているにちがいない。

「あまり見るな」

 顔を隠すように手のひらを向ければ、そこに万丈がキスをする。

「あっ」

 手を引っ込めると視線が合い、

「一ノ瀬さんの手は俺のを、ね?」

 一ノ瀬同様に膨らんだ下半身を指さした。
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