愛しき面倒な者へ

希紫瑠音

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万と一

課長の趣味は

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 ファンシーな部屋に驚いた。白とパステルカラーのグリーンの壁。窓にはレースのカーテン、そして棚には可愛いものであふれていてる。

「そういえば、子供がいるとか噂があったな」

 小さな男の子と手をつないでおもちゃ屋にいたのを見たと妻子持ちの先輩が話していた。

 謎に包まれた人だから既婚者なのか独身なのかさえ知らなかったが、きっとこの部屋は子供のためなのだろう。

 一ノ瀬が帰ってきたことはわかっているだろうに誰もでてこないということは離婚したのか。

 気になるけれど今は酔っ払いをベッドに連れて行くのが先だ。

 どうにかベッドルームへと連れて行きベッドに寝かせた。ベッドには天蓋がある。

「もしかして奥さんのためなのかな」

 一ノ瀬がよければ自分がどうこう思うことではないのでベッドルームを出てリビングへと向かう。

 可愛いクッションが三つ。そこに体を預けると柔らかく包み込み。

「ふぁ、これ、最高」

 見た目の可愛さにプラス、癒しまで与えてくれる。そして大きなクマのぬいぐるみがそばにある。

「おおきいな」

 それを抱っこすると柔らかくていい匂いがしてきた。

「なにこれ、いいにおい」

 別にぬいぐるみが好きなわけではないがこれは癒される。抱っこして顔を埋めたまま横になると次第に瞼が重くなり意識が薄れていった。







 体を激しく揺さぶられる。

 まだ夢の中へといたいのに相手はそれを許してはくれないようだ。

「うー」

 伸びをしてゆっくりと目を開けば、不機嫌そうな顔が目に入る。

「なぜ、君がいるんだ」

 その顔に驚き体を起こした。抱いていたクマのぬいぐるみはテーブルの上に置かれていた。

「課長を送って、クッションとクマが気持ちよくてそのまま寝てしまいました」

 流石に寝落ちはまずいだろう。

「すみません、すぐに帰ります」

 鞄はどこだとすぐそばを見ればテーブルの下にある。それに手を伸ばすと、

「待て。この部屋を見てなんとも思わないのか?」

 と聞かれた。

「あぁ、ファンシーな部屋ですね」

 色々と気になるところではあるが、聞く勇気はなかった。だから黙っていたのに自分の方からふってくるとは。

 だが、一ノ瀬はその答えに不機嫌になるのではなく驚いている。その反応に万丈まで驚いた。

「えっと、一ノ瀬課長?」
「あぁ、いや、すまん。ひかれると思っていたから」

 どうしてひくことになるのだろう。どんな部屋でも家主がよければそれでいいのではないだろうか。

「お子さんのためですよね。先輩から聞きましたよ。子供と一緒におもちゃ屋にいたと」
「子供、あぁ、だからひかなかったのか。俺は独身だ。それに部屋は俺の趣味だ」

 顔を真っ赤に染めていう。

 俺の趣味、その言葉が頭をめぐる。

「え?」
「だから、これは俺の趣味だ」

 まさか一ノ瀬の趣味だったとは。

「笑いたければ笑うがいい。俺みたいな男が少女趣味だと」

 一ノ瀬が苦しそうな顔をする。知られたくないなかったのだろう。しかも万丈は同じ課の部下なのだ。

「笑いませんよ」

 他人の趣味を笑うなんて、してはいけないことだ。

 それに、会社での一ノ瀬氏か知らなかったので、色々な一面を見れるのは嬉しい。距離が近くなった気がするから。

「そうか」

 気が抜けたか、表情がゆるんだ。それを見てまたもや驚いた。

「意外と、かわいいんですね」

 つい、口に出てしまった言葉に、一ノ瀬の眉間にしわがよる。

「やっぱり馬鹿にしているのか」
「いえ、あっ、これ可愛いですねぇ」

 とテーブルに置かれた大きなくまを手に取る。

「可愛いだろう! 円が誕生日のプレゼントにくれたんだ」

 まどかとは彼女だろうか。一ノ瀬の趣味を知っていてぬいぐるみを贈ったのだから、きっと彼にとって仲の良い存在なのは間違いない。

「いいにおいもしますね」

 フルーツ系の甘い香りがする。

「そうだろう?」

 いつの間にか一ノ瀬もクマに鼻をくっつけていた。

「はぁ、落ち着く」

 意外な距離の近さに俺は驚いて顔を離した。

「ほかのもにおいするんですか?」
「するぞ。日曜に洗ったばかりだから」

 くまから離れうさぎとねこを手にすると顔をはさむ。

 もふっとした感触と意外な行動に目を見開けば、一ノ瀬の口元がほころんでいた。

「こうされると癒されるだろう?」

 確かに柔らかいものに挟まれるのは気持ちがいいが、それよりも万丈は一ノ瀬に釘付けになっていた。
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