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千と百
負けました(2)
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先に体を洗ってもらいバスルームを後にした百川は寝室へと向かうとベッドの端に座る。
とうとういたしてしまった。いたたまれなくて両手で顔をおおいかくす。
「あぁ、俺、変な声とかだしてたよな……」
それも自分から足を開いてみせていた。
「はぁ、だめだ、はずかしくて死ねる」
「ん、なに、ばかなこといってんだよ」
横向きになると腕をのばして抱きつくような格好をする。
「俺、気持ち悪くなかったですか?」
男の喘ぎ声など聞きたくないだろうに。
「いやっ、あの声だけで抜けるね、俺は」
と自信満々な顔で返された。
「うわぁ」
ところどころで残念な男だ。呆れながら千坂を見れば嬉しそうに笑っている。
「好きなやつがさ、気持ちよくて喘いでいるなら嬉しい」
そういわれて耐えきれずに枕に顔をうずめる。
今回は余裕がなくてされるがままだったが、次は自分の中に入っているときの千坂の顔を見てみたい。きっと胸がいっぱいになってしまうだろう。
顔の熱が一向に引いてくれない。
「百川、いつまでそうしているつもりだ」
首に柔らかいものが触れて顔を横に向ければ、目がすぐ近くでばちっと合う。
「ちさ……、ん」
羞恥を感じて落ち着かなかった心は千坂のキスでかきけされ、それは徐々に深く交わり、百川をとろけさせた。
朝食の準備は毎日していることだ。
炊き立てのご飯をかきまぜ、煮干しから出した出汁で味噌汁を作る。
おかずは焼き鮭と漬物、あとは卵焼きにしよう。
冷蔵庫から卵を三個取り出したところに、
「おはよう」
と言われて振り返る。
寝ぐせ。それに薄っすらとひげが生えている。寝起きの姿はおっさんぼい。
その姿は何度か見ているので百川にとっては珍しくはないものだ。
「あ、おはようございます」
「玉子は甘いのにしてくれ」
リクエストを貰ったのは初めてだ。
「甘いのですね。わかりました」
椅子の背もたれにかけてあるエプロンを手にし身に着ける。
すごく視線を感じるが無視をしていたら、
「……裸エプロン、いいよな」
なんて言い出す。
「おいっ」
絶対にやらないからな、俺は。
「丸出しの尻を眺めながら料理を待つの良くないか? で、飯を食わずにお前を食う……、え、ちょっとフライパンは危ないぞ」
卵焼き用のフライパンを振りかぶる俺に、千坂は両手を突き出してやめろというポーズだ。
「もう黙っててくれません?」
「はぁ、美味い。甘い卵焼き、久しぶりに食べた」
「よかったですね」
「出来立ての料理が食えるの、いいよな」
ちらちらとこちらを窺う千坂に百川はため息をつく。考えていることなんてお見通しだ。
「嫌ですよ」
千坂の奥さんにも母親にもなりたくない。
「夜は任せとけ。アンアンいわせてやる」
親指を立てる千坂に、軽蔑するように目を細める。
「朝から下品なので没収です」
千坂の卵焼きに箸を刺して奪ってやった。
「ごめんっ、謝るからさ、全部もっていかないで……」
玉子焼きごときで情けない顔をする。
「俺な、浮かれてるんだわ。幸せだなーって」
照れ笑いを浮かべて俺を見る。
なんだよそれ。不覚にも可愛いなと思って、胸がときめいてしまったじゃないか。
箸に刺した卵焼きを千坂の方へと向け、
「一つだけかえします」
というと千坂が口を開き、入れてと指をさす。
箸から卵焼きを一つ指で摘まむとそれを口の中へと入れる。
その手をつかみ、玉子焼きを食べて舌で摘まんでいた個所を舐めた。
「俺の指はおかずじゃないですよ」
「ん、でも美味いぞ」
舐めるのを止めなかったら調子に乗って舌が付け根のほうまで弄り始めて、やめろと舌を指で挟んだ。
「むぐっ」
「ごはん中です」
そういって顔を背ける。きっと、顔が真っ赤だろう。
「わかったよ。今は腹を満たす。心とお前の中を満たすのは後な」
「……はぁ!?」
さらっと何をいうのだろう、この人は。
「俺の中は満たさなくていいですからっ。本当、朝っぱらから」
やっぱり玉子焼きは没収。
最後の一切れを摘まむと百川は自分の口の中へと入れた。
【千と百・了】
とうとういたしてしまった。いたたまれなくて両手で顔をおおいかくす。
「あぁ、俺、変な声とかだしてたよな……」
それも自分から足を開いてみせていた。
「はぁ、だめだ、はずかしくて死ねる」
「ん、なに、ばかなこといってんだよ」
横向きになると腕をのばして抱きつくような格好をする。
「俺、気持ち悪くなかったですか?」
男の喘ぎ声など聞きたくないだろうに。
「いやっ、あの声だけで抜けるね、俺は」
と自信満々な顔で返された。
「うわぁ」
ところどころで残念な男だ。呆れながら千坂を見れば嬉しそうに笑っている。
「好きなやつがさ、気持ちよくて喘いでいるなら嬉しい」
そういわれて耐えきれずに枕に顔をうずめる。
今回は余裕がなくてされるがままだったが、次は自分の中に入っているときの千坂の顔を見てみたい。きっと胸がいっぱいになってしまうだろう。
顔の熱が一向に引いてくれない。
「百川、いつまでそうしているつもりだ」
首に柔らかいものが触れて顔を横に向ければ、目がすぐ近くでばちっと合う。
「ちさ……、ん」
羞恥を感じて落ち着かなかった心は千坂のキスでかきけされ、それは徐々に深く交わり、百川をとろけさせた。
朝食の準備は毎日していることだ。
炊き立てのご飯をかきまぜ、煮干しから出した出汁で味噌汁を作る。
おかずは焼き鮭と漬物、あとは卵焼きにしよう。
冷蔵庫から卵を三個取り出したところに、
「おはよう」
と言われて振り返る。
寝ぐせ。それに薄っすらとひげが生えている。寝起きの姿はおっさんぼい。
その姿は何度か見ているので百川にとっては珍しくはないものだ。
「あ、おはようございます」
「玉子は甘いのにしてくれ」
リクエストを貰ったのは初めてだ。
「甘いのですね。わかりました」
椅子の背もたれにかけてあるエプロンを手にし身に着ける。
すごく視線を感じるが無視をしていたら、
「……裸エプロン、いいよな」
なんて言い出す。
「おいっ」
絶対にやらないからな、俺は。
「丸出しの尻を眺めながら料理を待つの良くないか? で、飯を食わずにお前を食う……、え、ちょっとフライパンは危ないぞ」
卵焼き用のフライパンを振りかぶる俺に、千坂は両手を突き出してやめろというポーズだ。
「もう黙っててくれません?」
「はぁ、美味い。甘い卵焼き、久しぶりに食べた」
「よかったですね」
「出来立ての料理が食えるの、いいよな」
ちらちらとこちらを窺う千坂に百川はため息をつく。考えていることなんてお見通しだ。
「嫌ですよ」
千坂の奥さんにも母親にもなりたくない。
「夜は任せとけ。アンアンいわせてやる」
親指を立てる千坂に、軽蔑するように目を細める。
「朝から下品なので没収です」
千坂の卵焼きに箸を刺して奪ってやった。
「ごめんっ、謝るからさ、全部もっていかないで……」
玉子焼きごときで情けない顔をする。
「俺な、浮かれてるんだわ。幸せだなーって」
照れ笑いを浮かべて俺を見る。
なんだよそれ。不覚にも可愛いなと思って、胸がときめいてしまったじゃないか。
箸に刺した卵焼きを千坂の方へと向け、
「一つだけかえします」
というと千坂が口を開き、入れてと指をさす。
箸から卵焼きを一つ指で摘まむとそれを口の中へと入れる。
その手をつかみ、玉子焼きを食べて舌で摘まんでいた個所を舐めた。
「俺の指はおかずじゃないですよ」
「ん、でも美味いぞ」
舐めるのを止めなかったら調子に乗って舌が付け根のほうまで弄り始めて、やめろと舌を指で挟んだ。
「むぐっ」
「ごはん中です」
そういって顔を背ける。きっと、顔が真っ赤だろう。
「わかったよ。今は腹を満たす。心とお前の中を満たすのは後な」
「……はぁ!?」
さらっと何をいうのだろう、この人は。
「俺の中は満たさなくていいですからっ。本当、朝っぱらから」
やっぱり玉子焼きは没収。
最後の一切れを摘まむと百川は自分の口の中へと入れた。
【千と百・了】
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