56 / 59
ワンコな部下と冷たい上司
6・杉浦
しおりを挟む
今までプライベートな部分を自ら誰かに話聞かせようとしたことはなかった。
松尾といると調子が狂う。
これ以上は食事会を続けていると、余計な事を話してしまいそうで怖い。
だからもう最後にしようと決めた。
昔はデパートの屋上に遊ぶ場所があり、母親が買い物をしている間、そこで待っていた。
百円を入れると動物が動きハンドルで方向をきめられる。それが楽しくて弟とよく笑っていた。
ゴーカートに乗ると父は下手で、よく壁に当たっていた。
すっかり疲れてベンチに座る父に母がお疲れ様と飲み物を差し出す。
自分と弟はソフトクリームを食べながら、次は何で遊ぼうかと相談していた。
そんな楽しい時間は、彼が中学に上がった時に突如終わった。
休日に部活があるからと一緒に出掛けられず、家族はその帰りに事故にあったのだ。
それからは母親方の祖母に引きとられて育った。
働きながら大学まで出してくれた。就職が決まり、これからは自分が孝行する番だと仕事も頑張った。
だが、たくさんの愛情を注いでくれた祖母も、自分の元から去ってしまった。
葬式の日、本当に一人になってしまった杉浦に、八潮はずっと傍に居てくれた。
ただ放っておけなくて優しくしてくれただけ。なのに杉浦はそれを勝手に勘違いし、八潮に特別な想いを抱いてしまったのだ。
それだけに、結婚すると聞いたときは何も考えられなかった。愛しい人は自分の前から去っていく。
もう、何も期待しない。心を開かなければ、こんなに辛い思いはしなくて済むのだから。
そう考えるようになってからは何も感じることもなく、仕事と家に帰る日々を過ごしていたのだが、他の部署から移動してきた松尾が現れ、それからおかしくなった。
彼は杉浦のテリトリー内に入り込んでかき乱していく。
「待って下さい、杉浦課長」
腕を掴まれて細い路地へと連れ込まれる。
「これ以上、俺をかき乱すな」
「課長」
「お前みたいな奴は嫌いなんだ。いい加減に解れよ」
「本当のあなたを見せているのは俺だからですよね?」
ぐっと喉が詰まる。
「調子に乗るな。そんな訳が……」
「貴方のことをもっと知りたいです」
真っ直ぐに見つめる目に囚われて動けなくなる。
「知られたくない、お前にだけは」
あの時のように、胸が痛んで苦しむようなことにはなりたくない。
痛みにたえるように胸の所で拳を強く握りしめる。
「杉浦課長、そんな顔をしないで」
唇に何かが触れる。
それがキスだと気が付いたときには、唇を割り舌が入り込んでいた。
「ん、ふ」
欲を含んだキス。このまま、受け入れてしまったら、蕩けさせられ溺れてしまう。
「やめろ!」
抵抗して、彼を突き飛ばす。
「あっ」
よろける松尾を睨みつけ、
「俺に二度と近寄るな」
彼の元から逃げるように立ち去る。
だめだ。
この感情に気がついてはいけない。いつか彼も自分の傍から離れていってしまうのだから。
松尾といると調子が狂う。
これ以上は食事会を続けていると、余計な事を話してしまいそうで怖い。
だからもう最後にしようと決めた。
昔はデパートの屋上に遊ぶ場所があり、母親が買い物をしている間、そこで待っていた。
百円を入れると動物が動きハンドルで方向をきめられる。それが楽しくて弟とよく笑っていた。
ゴーカートに乗ると父は下手で、よく壁に当たっていた。
すっかり疲れてベンチに座る父に母がお疲れ様と飲み物を差し出す。
自分と弟はソフトクリームを食べながら、次は何で遊ぼうかと相談していた。
そんな楽しい時間は、彼が中学に上がった時に突如終わった。
休日に部活があるからと一緒に出掛けられず、家族はその帰りに事故にあったのだ。
それからは母親方の祖母に引きとられて育った。
働きながら大学まで出してくれた。就職が決まり、これからは自分が孝行する番だと仕事も頑張った。
だが、たくさんの愛情を注いでくれた祖母も、自分の元から去ってしまった。
葬式の日、本当に一人になってしまった杉浦に、八潮はずっと傍に居てくれた。
ただ放っておけなくて優しくしてくれただけ。なのに杉浦はそれを勝手に勘違いし、八潮に特別な想いを抱いてしまったのだ。
それだけに、結婚すると聞いたときは何も考えられなかった。愛しい人は自分の前から去っていく。
もう、何も期待しない。心を開かなければ、こんなに辛い思いはしなくて済むのだから。
そう考えるようになってからは何も感じることもなく、仕事と家に帰る日々を過ごしていたのだが、他の部署から移動してきた松尾が現れ、それからおかしくなった。
彼は杉浦のテリトリー内に入り込んでかき乱していく。
「待って下さい、杉浦課長」
腕を掴まれて細い路地へと連れ込まれる。
「これ以上、俺をかき乱すな」
「課長」
「お前みたいな奴は嫌いなんだ。いい加減に解れよ」
「本当のあなたを見せているのは俺だからですよね?」
ぐっと喉が詰まる。
「調子に乗るな。そんな訳が……」
「貴方のことをもっと知りたいです」
真っ直ぐに見つめる目に囚われて動けなくなる。
「知られたくない、お前にだけは」
あの時のように、胸が痛んで苦しむようなことにはなりたくない。
痛みにたえるように胸の所で拳を強く握りしめる。
「杉浦課長、そんな顔をしないで」
唇に何かが触れる。
それがキスだと気が付いたときには、唇を割り舌が入り込んでいた。
「ん、ふ」
欲を含んだキス。このまま、受け入れてしまったら、蕩けさせられ溺れてしまう。
「やめろ!」
抵抗して、彼を突き飛ばす。
「あっ」
よろける松尾を睨みつけ、
「俺に二度と近寄るな」
彼の元から逃げるように立ち去る。
だめだ。
この感情に気がついてはいけない。いつか彼も自分の傍から離れていってしまうのだから。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
DISTANCE
RU
BL
ジゴロのハルカは、常連のバーで美貌のリーマン・柊一に出会う。
パトロンと口論の末に切れてしまい、借金を抱えてしまったハルカは、次なるパトロンを探すために常連の出会い系バー「DISTANCE」で、今日獲物を探すのであった。
表紙:Len様
◎注意1◎
こちらの作品は'04〜'12まで運営していた、個人サイト「Teddy Boy」にて公開していたものです。
時代背景などが当時の物なので、内容が時代錯誤だったり、常識が昭和だったりします。
同一内容の作品を複数のサイトにアップしています。
またほぼ同一内容のものが、「美人をカモる50の方法」というタイトルでヴェルヴェット・ポゥ様から販売されております。
キャラが柊一サンではなく敬一サンで、ハルカも涼介となっておりますので、内容的にも一部に微妙な改変が加えられております。
◎注意2◎
当方の作品は(登場人物の姓名を考えるのが面倒という雑な理由により)スターシステムを採用しています。
同姓同名の人物が他作品(「MAESTRO-K!」など)にも登場しますが、シリーズ物の記載が無い限り全くの別人として扱っています。
上記、あしからずご了承の上で本文をお楽しみください。
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。
二人静
幻夜
BL
せつなめ三角関係
“ 死がふたりを分かつまで ”
互いを唯一無二に必要とする焔のような愛を垣間みたい方いらっしゃいませ・・・
あわせて歴史(曲解)創作の長編BLですが
事前知識なしで もちろんだいじょぶです
必要なときはその時々で補足をいれてまいります
そして武闘集団『新選組』の面々なだけに 受けも攻めも男前です
江戸時代の(現代ではまだまだ足りない)男色にたいする積極的な価値観、
こと武家社会においては男色こそ自由恋愛の場であったことに触発された、
新選組の男前達をこよなく愛する作者による、偏愛に満ちあふれた“創作” ですので、
彼らの関係性は史実とは一切無関係でございます。その点を何卒お留め置きくださいませ。
同僚 × 同僚 (メインCP 沖田×斎藤)
☆親友未満はじまり
食えない男の代名詞みたいな攻めに、
はじめはひたすら振り回される受け(でも強気・・)
&
年下 × 兄貴分/上司 (沖田×土方)
☆恋仲はじまり
弟分にベタ惚れでちょっとむくわれない健気な受け
戯れてることも多いですが、いちおう、きほん切なめシリアスベースです
※いずれR18展開になるため、はじめから指定してあります
**********************
本小説での紹介事項
新選組・・・江戸時代幕末期の京都で活躍した、幕府側最強の剣客集団。
例外はあるものの、『局を脱するを許さず』が法度。
『士道に背きまじきこと』『違反した者は切腹』が大前提の、鉄の掟をもつ。
沖田総司・・・新選組一番隊組長(23)
当時は火の見櫓状態な五尺九寸(約一七八)
色黒で眼光鋭く肩の張り上がった筋骨型
斎藤一・・・新選組三番隊組長(21)
整って映える長身の五尺七寸(約一七三)
やや色白ですらりとした肉体美の涼やかな美丈夫
土方歳三・・・新選組副長(30)
美しく均等のとれた背丈の五尺五寸(約一六七)
色白で役者のように優美な美男子
※斎藤一に関しては実際には五番隊組長とされますが
ここでは通説となっている西村兼文の始末記に沿っています。
**********************
とろけてなくなる
瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。
連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。
雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。
無骨なヤクザ×ドライな少年。
歳の差。
ずっと、ずっと甘い口唇
犬飼春野
BL
「別れましょう、わたしたち」
中堅として活躍し始めた片桐啓介は、絵にかいたような九州男児。
彼は結婚を目前に控えていた。
しかし、婚約者の口から出てきたのはなんと婚約破棄。
その後、同僚たちに酒の肴にされヤケ酒の果てに目覚めたのは、後輩の中村の部屋だった。
どうみても事後。
パニックに陥った片桐と、いたって冷静な中村。
周囲を巻き込んだ恋愛争奪戦が始まる。
『恋の呪文』で脇役だった、片桐啓介と新人の中村春彦の恋。
同じくわき役だった定番メンバーに加え新規も参入し、男女入り交じりの大混戦。
コメディでもあり、シリアスもあり、楽しんでいただけたら幸いです。
題名に※マークを入れている話はR指定な描写がありますのでご注意ください。
※ 2021/10/7- 完結済みをいったん取り下げて連載中に戻します。
2021/10/10 全て上げ終えたため完結へ変更。
『恋の呪文』と『ずっと、ずっと甘い口唇』に関係するスピンオフやSSが多くあったため
一気に上げました。
なるべく時間軸に沿った順番で掲載しています。
(『女王様と俺』は別枠)
『恋の呪文』の主人公・江口×池山の番外編も、登場人物と時間軸の関係上こちらに載せます。
生意気オメガは年上アルファに監禁される
神谷レイン
BL
芸能事務所に所属するオメガの彰(あきら)は、一カ月前からアルファの蘇芳(すおう)に監禁されていた。
でも快適な部屋に、発情期の時も蘇芳が相手をしてくれて。
俺ってペットか何かか? と思い始めていた頃、ある事件が起きてしまう!
それがきっかけに蘇芳が彰を監禁していた理由が明らかになり、二人は……。
甘々オメガバース。全七話のお話です。
※少しだけオメガバース独自設定が入っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる