甘える君は可愛い

希紫瑠音

文字の大きさ
上 下
51 / 59
ワンコな部下と冷たい上司

1・杉浦

しおりを挟む
 松尾雅臣まつおまさおみは男にも女にも好かれる性格をしている。

 コミュニケーション能力も高い。上司にも同僚にも好かれ、彼の周りには笑顔が絶えない。

 杉浦征二すぎうらせいじにとって、仕事ができるのは当たり前、顔や性格はどうでもいいことだ。

 特に仲良くするつもりはない。いつもそっけない態度をとるのに、何故か懐かれてしまった。

 今日も昼食を一緒にいかがですかと誘われた。

「松尾君、私は結構ですから。皆さんと一緒にどうぞ」

 仕事以外で彼と話をするつもりはない。

 昼休みは八潮に教えて貰った喫茶店へ行こうと思っていた。なのに一緒に蕎麦屋に行きましょうと、笑顔を浮かべながら松尾が傍に立っている。

「俺は杉浦課長と一緒に行きたいんです」
「迷惑ですから」

 冷たくあしらうのだが、次は必ず一緒に行きましょうと言い残して去っていく。そして、言葉のとおり誘ってくるのだ。

 めげることなくそれを毎日繰り返し、それでも杉浦は一緒にいくとは言わなかった。






 杉浦にとって癒される時間は和菓子を食べている時、お気に入りの喫茶店でコーヒーを飲みながら本を読むときだ。

 会社は金の為に働くだけであり、松尾のように誰とでも仲良くなろうなんて思わない。

 自分の部下は性格が良かろうが悪かろうが有能であればいい。それ以外に求めるものはない。

 なので、松尾を良い部下と言う同僚の気持ちが解らないでいた。

 どんなに冷たく扱おうが松尾は杉浦を誘おうとする。仕事以外で話しかけないでほしい。

「お一人で……」
「あらら、杉浦君、つれないねぇ」

 何度目かの誘いを断ろうとしていた所に、喫煙室から出てきた八潮やしおが口をはさむ。

「八潮課長」

 その姿を見た瞬間、松尾の表情が明るくなる。

 八潮は研修の時の教育係であり、色々と世話にもなった事もある。それ故に頭が上がらない。

 しかも、松尾の元上司でもあるので、彼の事が心配でもあるのだろう。

「一緒に食事くらいしてあげなさいな。ねぇ、松尾君」
「そうですよね」

 味方ができたとばかりに松尾が再び行きましょうよと誘いだす。

「はぁ」

 嫌な展開になってきたなと思っていれば、

「あ、僕も一緒に良いかな?」

 と言われ、これは断れないと覚悟をするしかない。

「わかりました」
「よっしゃ、念願の杉浦課長と一緒にお昼ランチっ。しかも八潮課長も一緒だなんて嬉しすぎですよ」

 何がそんなに嬉しいのか、松尾を冷ややに見る。

「あと一人、誘ってもいいかな?」
「俺は構いません」
「私も別に良いですよ」

 一人増えようが、迷惑である事にはかわりないのだから。

 向かう先は前に誘われた蕎麦屋だ。八潮が誘った相手は彼と同じ部署の三木本みきもとだった。

 杉浦が自分の部署に欲しいと思っている人物の一人だ。彼は見た目が怖いと言われているが、まじめで仕事もできる。

 会話は主に三人でしていた。元々、同じ部署なので面識があるからだ。

「ねぇ、三木本君はそば打ちできるの?」
「はい。今度、打ちますよ」
「いいねぇ、楽しみにしてる」

 八潮の部署は皆が仲が良くて一緒に飲みに行くらしい。それ故にそれが抜ききれる松尾がやたらと自分に構ってくるのだろう。本当に迷惑な事だ。

「八潮課長と三木本さんって仲良しですよねぇ。羨ましいです」

 ちらっとこちらを見る松尾に、あえて気が付いていても目を合わさない。

 それに気がついたか、がっくりと肩を落とした。

「杉浦君、松尾君は今は君の所の部下なんだから、もうちょっと付き合ってあげなさいな」
「お断りします」
「冷たいねぇ。松尾君、うちのワンコちゃん……、あ、久世君ね、彼みたくて可愛いのに」

 わんこちゃんとか、他の部署なんて余計にどうでもいいことだ。

「はぁ」

 それに仕事をしにきているのに、その人が可愛いとかどうとか必要あるのか?

「よし、杉浦君、毎週金曜日は松尾君と食事を一緒にする事っ」
「え?」

 何を勝手に決めているのか。流石にそれは無理だ。

「良いですね、そうしましょうよ」
「八潮さん、勝手なことを」

 行きたくない。それだけはハッキリと言わなくてはいけないのに、

「君には必要なことだよ。だから、松尾君、金曜になったら杉浦君をよろしくね」
「はい、頑張ります!」

 口をはさむ間もなく、結局は金曜に松尾と共に過ごす流れとなってしまった。




しおりを挟む
<シリーズ>
社員食堂で休息を(URL

あなたにおすすめの小説

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。 そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー ------------------------------- 松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳 カフェ・ルーシェのオーナー 横家大輝(よこやだいき) 27歳 サッカー選手 吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳 ファッションデザイナー ------------------------------- 2024.12.21~

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

処理中です...