40 / 59
上司と部下の「恋」模様
9・三木本
しおりを挟む
いつもの通りに仕事をこなし、今日も誰かと会おうとポケットからスマートフォンを取り出した所で波多と久世に捕まった。
波多の住むマンションへと行くのは久しぶりだ。
「三木本、何にする?」
「ビールで」
「はいよ」
キッチンへと向かいビールとグラス、つまみになりそうなモノを持ってきてくれた。
グラスにビールをつぎ、何口か飲んだ後にぼそりと口にする。
「また、ふられたよ」
この前、波多と久世に助けてもらった後、八潮とのやり取りを話す。
二人に八潮と抱き合った事もキスしあった事は話していない。
「……そうか」
「でも、何度ふられようが、俺は八潮課長を想う事をやめられないのだろうな」
「だろうな。まったく、こんな優良物件を振るなんて、見る目がないよ課長は」
「そう言ってくれるのはお前だけだ」
ありがとうと、ビールをコップの中身を全部飲み干す。
「俺はあの人の良い部下であり続けたい」
「……三木本」
抱きしめてくれる腕が暖かくて涙が溢れそうになるが、自分らしくないという気持ちが素直に泣かせてくれない。
「我慢するなよ、ばか」
「悪い。でも俺はこんな性格だって知っているだろ」
素直じゃないのはお互い様。そう言って顔を見合わせれば、違いないと波多が頷く。
「もうっ、羨ましすぎます、二人の関係性がぁ」
酔っぱらった久世が、二人の間に割り込んでくる。
「こらっ、久世、鬱陶しい!」
「俺もぉ、三木本さんを元気つけるんですぅ」
ぐりぐりと二人の肩に額を押し付けてくる。
久世なりに慰めてくれているのだろう。それが嬉しくてふっと笑みを浮かべる。
「本当にお前は犬っぽいな」
乱暴に髪を撫でてやれば、むふんと声をあげてずるずると床へと落ちていく。
「落ちたか。そこらの床に転がしておけ」
「解った」
波多が寝室からブランケットを持ってきて久世に掛ける。鬱陶しいと言っている割には面倒見が良い男だ。
「三木本、辛くなったらいくらでも付き合うからさ」
だから元気出せよと肩に手が触れる。
「あぁ、その時は頼むよ波多」
良い友と後輩。二人のお蔭で気持ちがすこし楽になった。
それから数日後。久世に料理を教えるためにキッチンをかしてほしいと波多から頼まれたのは、一緒に部屋飲みをしてから数日後のことだ。
三木本の家のキッチンはリフォームをして使いやすくなった。
それはいつか八潮に手料理を食べさせたいという思いがあっての事だったのだが、部屋に誘う事が出来ずにまだ手料理を作ってあげたことが無い。
使わないと勿体ないので、うちでよければと了承したのだが、その時、
『明日の昼休みに、三木本から久世に話しをしておいてくれないか?』
と頼まれてた。何故、自分がと思ったが、その時は特に理由を問わずに了承した。
※※※
昼食は出来るだけ八潮と共に摂るようにしている。でないと食事をしないこともあるからだ。
「うーん、揚げ物が食べたいけど、多いよねぇ」
「ならば俺がフライセットを頼みますから、好きなの食べて下さい」
「良いの? じゃぁ、僕は半ライスとサラダにしようかな」
相変わらず食が細いが、食べないよりはましだ。
食事を受け取り席につこうとした時、一人きりでいる久世を見かけて八潮が声を掛ける。
波多から頼まれたことを告げるのに丁度良い。
「そうだ。料理教室な、俺の所でやることになったから」
その言葉に、何故か久世はホッとした表情を浮かべた。
「波多さん、教えてくれないから。どんな人かと思ってましたよ」
波多からは、料理教室にもう一人参加するとになったとしか聞いていなかったらしく、意地悪だなと心の中で思いながら三木本は苦笑いする。
「なんだ、それすら話してなかったのか。昨日、キッチンを貸して欲しいと連絡を貰ってな」
「そうだったんですね。三木本さんのお家、はじめてですね。楽しみです」
安心しきったように笑顔でそう言われ、久世のこういう所は可愛いなと思う。
そんな二人のやりとりを聞いていた八潮が、
「なんか楽しそうだねぇ」
と目を細めて羨ましそうに見ている。
「そうだ。八潮課長も一緒に習いましょうよ」
そう誘いを入れる久世に、三木本は心の中でよくぞ誘ってくれたと褒める。
「そうだね。美味しいモノが食べられそうだし」
混ぜて貰おうかなと微笑む。
八潮が参加するということは、手料理を振る舞える機会を得たという事。
少しでも自分の作った物を気に入ってもらえたらいい。
波多の住むマンションへと行くのは久しぶりだ。
「三木本、何にする?」
「ビールで」
「はいよ」
キッチンへと向かいビールとグラス、つまみになりそうなモノを持ってきてくれた。
グラスにビールをつぎ、何口か飲んだ後にぼそりと口にする。
「また、ふられたよ」
この前、波多と久世に助けてもらった後、八潮とのやり取りを話す。
二人に八潮と抱き合った事もキスしあった事は話していない。
「……そうか」
「でも、何度ふられようが、俺は八潮課長を想う事をやめられないのだろうな」
「だろうな。まったく、こんな優良物件を振るなんて、見る目がないよ課長は」
「そう言ってくれるのはお前だけだ」
ありがとうと、ビールをコップの中身を全部飲み干す。
「俺はあの人の良い部下であり続けたい」
「……三木本」
抱きしめてくれる腕が暖かくて涙が溢れそうになるが、自分らしくないという気持ちが素直に泣かせてくれない。
「我慢するなよ、ばか」
「悪い。でも俺はこんな性格だって知っているだろ」
素直じゃないのはお互い様。そう言って顔を見合わせれば、違いないと波多が頷く。
「もうっ、羨ましすぎます、二人の関係性がぁ」
酔っぱらった久世が、二人の間に割り込んでくる。
「こらっ、久世、鬱陶しい!」
「俺もぉ、三木本さんを元気つけるんですぅ」
ぐりぐりと二人の肩に額を押し付けてくる。
久世なりに慰めてくれているのだろう。それが嬉しくてふっと笑みを浮かべる。
「本当にお前は犬っぽいな」
乱暴に髪を撫でてやれば、むふんと声をあげてずるずると床へと落ちていく。
「落ちたか。そこらの床に転がしておけ」
「解った」
波多が寝室からブランケットを持ってきて久世に掛ける。鬱陶しいと言っている割には面倒見が良い男だ。
「三木本、辛くなったらいくらでも付き合うからさ」
だから元気出せよと肩に手が触れる。
「あぁ、その時は頼むよ波多」
良い友と後輩。二人のお蔭で気持ちがすこし楽になった。
それから数日後。久世に料理を教えるためにキッチンをかしてほしいと波多から頼まれたのは、一緒に部屋飲みをしてから数日後のことだ。
三木本の家のキッチンはリフォームをして使いやすくなった。
それはいつか八潮に手料理を食べさせたいという思いがあっての事だったのだが、部屋に誘う事が出来ずにまだ手料理を作ってあげたことが無い。
使わないと勿体ないので、うちでよければと了承したのだが、その時、
『明日の昼休みに、三木本から久世に話しをしておいてくれないか?』
と頼まれてた。何故、自分がと思ったが、その時は特に理由を問わずに了承した。
※※※
昼食は出来るだけ八潮と共に摂るようにしている。でないと食事をしないこともあるからだ。
「うーん、揚げ物が食べたいけど、多いよねぇ」
「ならば俺がフライセットを頼みますから、好きなの食べて下さい」
「良いの? じゃぁ、僕は半ライスとサラダにしようかな」
相変わらず食が細いが、食べないよりはましだ。
食事を受け取り席につこうとした時、一人きりでいる久世を見かけて八潮が声を掛ける。
波多から頼まれたことを告げるのに丁度良い。
「そうだ。料理教室な、俺の所でやることになったから」
その言葉に、何故か久世はホッとした表情を浮かべた。
「波多さん、教えてくれないから。どんな人かと思ってましたよ」
波多からは、料理教室にもう一人参加するとになったとしか聞いていなかったらしく、意地悪だなと心の中で思いながら三木本は苦笑いする。
「なんだ、それすら話してなかったのか。昨日、キッチンを貸して欲しいと連絡を貰ってな」
「そうだったんですね。三木本さんのお家、はじめてですね。楽しみです」
安心しきったように笑顔でそう言われ、久世のこういう所は可愛いなと思う。
そんな二人のやりとりを聞いていた八潮が、
「なんか楽しそうだねぇ」
と目を細めて羨ましそうに見ている。
「そうだ。八潮課長も一緒に習いましょうよ」
そう誘いを入れる久世に、三木本は心の中でよくぞ誘ってくれたと褒める。
「そうだね。美味しいモノが食べられそうだし」
混ぜて貰おうかなと微笑む。
八潮が参加するということは、手料理を振る舞える機会を得たという事。
少しでも自分の作った物を気に入ってもらえたらいい。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
DISTANCE
RU
BL
ジゴロのハルカは、常連のバーで美貌のリーマン・柊一に出会う。
パトロンと口論の末に切れてしまい、借金を抱えてしまったハルカは、次なるパトロンを探すために常連の出会い系バー「DISTANCE」で、今日獲物を探すのであった。
表紙:Len様
◎注意1◎
こちらの作品は'04〜'12まで運営していた、個人サイト「Teddy Boy」にて公開していたものです。
時代背景などが当時の物なので、内容が時代錯誤だったり、常識が昭和だったりします。
同一内容の作品を複数のサイトにアップしています。
またほぼ同一内容のものが、「美人をカモる50の方法」というタイトルでヴェルヴェット・ポゥ様から販売されております。
キャラが柊一サンではなく敬一サンで、ハルカも涼介となっておりますので、内容的にも一部に微妙な改変が加えられております。
◎注意2◎
当方の作品は(登場人物の姓名を考えるのが面倒という雑な理由により)スターシステムを採用しています。
同姓同名の人物が他作品(「MAESTRO-K!」など)にも登場しますが、シリーズ物の記載が無い限り全くの別人として扱っています。
上記、あしからずご了承の上で本文をお楽しみください。
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。
二人静
幻夜
BL
せつなめ三角関係
“ 死がふたりを分かつまで ”
互いを唯一無二に必要とする焔のような愛を垣間みたい方いらっしゃいませ・・・
あわせて歴史(曲解)創作の長編BLですが
事前知識なしで もちろんだいじょぶです
必要なときはその時々で補足をいれてまいります
そして武闘集団『新選組』の面々なだけに 受けも攻めも男前です
江戸時代の(現代ではまだまだ足りない)男色にたいする積極的な価値観、
こと武家社会においては男色こそ自由恋愛の場であったことに触発された、
新選組の男前達をこよなく愛する作者による、偏愛に満ちあふれた“創作” ですので、
彼らの関係性は史実とは一切無関係でございます。その点を何卒お留め置きくださいませ。
同僚 × 同僚 (メインCP 沖田×斎藤)
☆親友未満はじまり
食えない男の代名詞みたいな攻めに、
はじめはひたすら振り回される受け(でも強気・・)
&
年下 × 兄貴分/上司 (沖田×土方)
☆恋仲はじまり
弟分にベタ惚れでちょっとむくわれない健気な受け
戯れてることも多いですが、いちおう、きほん切なめシリアスベースです
※いずれR18展開になるため、はじめから指定してあります
**********************
本小説での紹介事項
新選組・・・江戸時代幕末期の京都で活躍した、幕府側最強の剣客集団。
例外はあるものの、『局を脱するを許さず』が法度。
『士道に背きまじきこと』『違反した者は切腹』が大前提の、鉄の掟をもつ。
沖田総司・・・新選組一番隊組長(23)
当時は火の見櫓状態な五尺九寸(約一七八)
色黒で眼光鋭く肩の張り上がった筋骨型
斎藤一・・・新選組三番隊組長(21)
整って映える長身の五尺七寸(約一七三)
やや色白ですらりとした肉体美の涼やかな美丈夫
土方歳三・・・新選組副長(30)
美しく均等のとれた背丈の五尺五寸(約一六七)
色白で役者のように優美な美男子
※斎藤一に関しては実際には五番隊組長とされますが
ここでは通説となっている西村兼文の始末記に沿っています。
**********************
とろけてなくなる
瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。
連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。
雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。
無骨なヤクザ×ドライな少年。
歳の差。
ずっと、ずっと甘い口唇
犬飼春野
BL
「別れましょう、わたしたち」
中堅として活躍し始めた片桐啓介は、絵にかいたような九州男児。
彼は結婚を目前に控えていた。
しかし、婚約者の口から出てきたのはなんと婚約破棄。
その後、同僚たちに酒の肴にされヤケ酒の果てに目覚めたのは、後輩の中村の部屋だった。
どうみても事後。
パニックに陥った片桐と、いたって冷静な中村。
周囲を巻き込んだ恋愛争奪戦が始まる。
『恋の呪文』で脇役だった、片桐啓介と新人の中村春彦の恋。
同じくわき役だった定番メンバーに加え新規も参入し、男女入り交じりの大混戦。
コメディでもあり、シリアスもあり、楽しんでいただけたら幸いです。
題名に※マークを入れている話はR指定な描写がありますのでご注意ください。
※ 2021/10/7- 完結済みをいったん取り下げて連載中に戻します。
2021/10/10 全て上げ終えたため完結へ変更。
『恋の呪文』と『ずっと、ずっと甘い口唇』に関係するスピンオフやSSが多くあったため
一気に上げました。
なるべく時間軸に沿った順番で掲載しています。
(『女王様と俺』は別枠)
『恋の呪文』の主人公・江口×池山の番外編も、登場人物と時間軸の関係上こちらに載せます。
生意気オメガは年上アルファに監禁される
神谷レイン
BL
芸能事務所に所属するオメガの彰(あきら)は、一カ月前からアルファの蘇芳(すおう)に監禁されていた。
でも快適な部屋に、発情期の時も蘇芳が相手をしてくれて。
俺ってペットか何かか? と思い始めていた頃、ある事件が起きてしまう!
それがきっかけに蘇芳が彰を監禁していた理由が明らかになり、二人は……。
甘々オメガバース。全七話のお話です。
※少しだけオメガバース独自設定が入っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる