甘える君は可愛い

希紫瑠音

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年下ワンコはご主人様が好き

15・波多

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 今日に限ってワイシャツのボタンを一番上まで留めていることにツッコミをいれたそうな八潮を、ミーティングルームへと連れ込んで三木本とのことを聞く。

「昨日はごめんね。おかげさまで恋人同士になりました」
「二人がそうなったと聞いてホッとしました。あの時、怖い顔をしていたので」
「あぁ、ちょっとね。まぁ、でも結果は良い方向にいったわけだし。で、君達の方は? 何かあったんでしょ」

 自分のシャツを指でトンと叩き、意味ありげに口角を上げる八潮に、

「首の付け根にキスマークをつけたら怒られちゃいました」

 久世がポロリと口にしてしまう。

「このバカ犬が!」

 その口を指で掴んで引っ張れば、

「こらこら」

 やめなさいと八潮に手を掴まれて引き離され、お前のせいだと久世を睨む。

「八潮課長は俺が波多さんのを舐めたのも知ってますし、話しても大丈夫ですよ」

 良い笑顔を浮かべ、とんでもないことを口にする。

「なっ、なんだって!!」
「あ……、うん、まぁ、三木本君と一緒に色々聞いてます」

 流石にそれは言わなくてもと久世を見た後、気まずそうな表情を浮かべて波多を見る。

 すでに八潮と三木本に久世とのことを知られているとは。最悪だとがっくりと肩を落としたところに、八潮の手がぽんとふれる。

「煙草でも吸いにいこうか」
「……はい」
「ワンコちゃんは自分のデスクにお座りして待っていてね」
「うう、わかりました」

 一緒に行きたそうだが、ついて来てはめっ、だよ、と八潮について来ては駄目だと念を押されて自分のデスクへと戻った。

 喫煙室へと向かい、煙草を取り出して吸い始める。

「実はね、お昼休みに波多君が居ない日あったじゃない。その時に聞いたんだよね」
「そんな前からですか」
「うん。久世君は君が好きすぎるよね。嬉しくて隠しておけないって感じかな」
「八潮課長」
「好きなんでしょ、久世君のこと。舐めさせるのを許してしまうくらいなんだから」

 今まではそうさせなかったんでしょう? と煙草の煙をゆっくりと吐きだす。

「波多君、素直におなりなさいな」
「……俺は」
「僕は、それで幸せを手に入れたよ?」

 そう、ふわりと八潮が笑う。その笑顔はとても幸せそうで、胸の奥をきゅっとさせる。

「さて、と。先に戻るね」

 灰皿に煙草を揉み消して中へと戻っていく。

 一人、喫煙室で紫煙を揺らしながら、ぼんやりと空を見上げる。

『だって、心から想う相手と恋愛をするのって、すごく幸せで楽しいものだから』

 意地っ張りな自分を変えないとね、と、前に江藤に言われたことを思いだす。

 素直に気持ちを認めたら、きっと、江藤や八潮のように幸せそうな笑顔を浮かべることが出来るかもしれない。





 席へと戻ると久世がおかえりなさいと両手を広げる。

 そんな彼をじっと見つめていれば、どうしたんですかと顔を覗き込んでくる。

 その姿がやたら可愛く見えて、目をパチパチとし擦る。

「目にゴミでも入ったんですか?」

 擦っちゃ駄目ですよと、手を握りしめられる。

「大丈夫だ」

 目がおかしいのではない。自分がおかしいだけだ。

「なら良いですけど」

 心配そうに波多を見る久世に、胸が激しく高鳴ってシャツをぎゅっと握りしめる。

「……いや、大丈夫じゃないかもしれない」
「えぇっ、病院行きましょう! 俺、八潮課長に話してきます」

 席を立ち、八潮の元へと行きそうになる久世に、我に返った波多はいいからと、腕を掴んで止めた。

「病気とか、そういうのじゃねぇから。それよりも、お前に話があるから仕事が終わったら家で話そう」
「話、ですか」

 今じゃ駄目なのかと聞かれて、駄目だと即返す。

「時間内に仕事を終えて、ゆっくり話そう」

 二人きりの方がお前もイイだろう、と、本当は波多の都合でそうしたいだけだった。

「はい!」

 そんな思惑など知ることなく、久世は素直に喜んでいる。

 話すと決めたのだ。

 この機会を逃したら、意地っ張りな自分がまた口を閉ざしてしまうだろうから。
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