甘える君は可愛い

希紫瑠音

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年下ワンコはご主人様が好き

9・波多

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 途中までは一緒に帰りたいと言われて、駅の方向と逆だからと会社の玄関ロビーまでと一階へと降りる。

「それじゃ、待ってますね」
「解ってる。俺が行くまで連絡してくるなよ? 出ないからな」
「それも駄目なんですか」
「あぁ。守れなかったらご褒美はやらない」

 いいなと念押しをして久世と別れる。

 途中で必要な材料とお土産にお勧めのワインを購入し、連絡を入れてから喫茶店へと向かう。

 既に店はCLOSEの釣り看板がぶら下げてあるが、波多が来るのを店で待っていてくれている。

「波多さん、いらっしゃい」
「遅くなってしまって」
「気にするな」

 住まいはこの二階にあるのだと、戸締りをしながら上を指さす。

「へぇ、近くで良いね」
「そうなんだよ。移動時間がない分、ゆっくりできるし」

 階段を上がっていき二階玄関の扉を開ける。

「さ、どうぞ」
「お邪魔します」

 中へと入り、荷物をリビングに置かせてもらいキッチンへと向かう。

 土産のワインを渡し、早速、お菓子作りを開始する。今から作るのはクッキーとマフィンだ。

「まずはクッキーから」

 解りやすい江藤の説明に、戸惑うことなく作ることができた。

「後は冷蔵庫で休まてから焼くから、その間はマフィン作りをしようか」
「はい」

 再び説明が始まり、それを聞きながら波多は手を動かし続ける。

 出来上がった生地を型に流し込み、予熱で温めておいたオーブンへと入れる。先にマフィンを焼いて、その間にクッキーを焼く準備をする。

 冷蔵庫で寝かせたクッキーの型抜きをし、クッキングシートを引いた天板へのせる。

「型抜きって、意外と楽しいものなんだな」
「これにアイシングをしたりするのも楽しいぞ。メッセージを入れることもできるし」

 アイシングは粉砂糖と卵白で出来る。そこにレモン汁をいれたり、アイシング用の食用色素を入れたりするようだ。

「さて、そろそろ焼き上がりそうだ」

 クッキーの準備をしている間に、マフィンが焼き上がる。中から取り出すと甘くて良い香りがする。

「うん、見た限りは良いな。次はクッキー。同じ温度で大丈夫だから」

 焼き上がりを待つ間、マフィンの味を見ることになった。

「食べてみないと解らないしな」

 そう言われ、江藤と半分ずつにする。

「紅茶で良い?」
「はい」

 マフィンと共にジャムと紅茶が運ばれてくる。

「ジャムは俺が作ったんだ。試してみてくれないか」
「え、こんなに何種類も?」
「あぁ。俺の恋人って甘党なもんでね」
「恋人さん、愛されてるな」

 江藤に愛されている恋人が羨ましい。

「波多さんだって、そうでしょう? 愛されているよね、彼に」

 と言われ、波多は違うとばかりに激しく首を横に振るう。

「アイツは犬で、会社でも飼い主の様な扱いをされているから、仕方なく世話をしているだけだ」
「でも、好きじゃなければ作ってあげようなんて思わないんじゃないか」

 言葉に詰まる。

 何も言えない波多に、更に江藤が語りかける。

「彼のこと、どう思っているんだ?」
「……わからない」

 あの日、確かに久世に恋心を持った。だが、それは告白するまもなく終わったことだ。

「わからないって、波多さんの気持ちをそうさせるようなことでもあったのかな」

 江藤は全て話してしまいたくなるような、そんな雰囲気を持っている。

「実は……」

 久世の研修担当になり彼の明るさに惹かれて恋をしてしまったこと、そして彼女を紹介されたことを全て話し聞かせた。

「俺は意地っ張りな性格をしているから、気持ちを素直に認めることができないんだ」
「そうか。でもね、俺から言わせてもらうとすごく損していると思う」

 そういうとニッコリと笑い、

「だって、心から想う相手と恋愛をするのはすごく幸せで楽しいぞ」

 だから意地っ張りな自分を変えないとね、と、言う。

「さてと、そろそろ焼き上がるからキッチンに行こうか」

 そういうとキッチンへと向かい、オーブンから天板を取り出し、出来立てのクッキーを波多に見せる。

「いい具合に焼けたよ」
「冷めたら味見をしてみて」

 とクッキーをマフィンを別々に紙の袋へと入れてくれた。

「喜んでくれるといいね」

 そう手渡されて、ふにゃっと笑いながら喜ぶ久世を想像してしまう。

 確かに江藤の言う通りだ。久世となら楽しい日々を送ることができるだろう。

 告白されているのだから、後は波多が素直になるだけだ。

「江藤さん、ありがとうございました」
「ほら、彼、待っているんだろう。はやく行ってあげなよ」
「あぁ。また、喫茶店に行くから」
「うん。待ってる」

 紙袋を手にし、波多は江藤の部屋を後にした。
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