甘える君は可愛い

希紫瑠音

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年下ワンコとご主人様

7・波多

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 二人きりで残され、波多は適当な席に腰を下ろす。

「八潮課長との事、三木本が怒るのも無理ないぞ。それでなくともあの人は仕事をし過ぎなんだから」

 昼休みなのだから久世が誰と過ごそうが構わない。だが、相手が八潮なら話は別で、過労で倒れて入院したことがあるからだ。

「心配なんだよ、八潮課長のこと」
「上司として、心配って事ですよね? それだけですよね!」

 何度も確認するように聞いてくる久世に、しつこいと頭を叩く。

「それよりも、八潮課長に、何、甘えてんだよ」

 と睨みつければ、何を思ったか「俺にやきもちですか?」と落ち込む。

 面倒なのでそれには答えずに、顎を動かして話を続けろという具合に促す。

「波多さんこと、どこもかしこも舐めたいんですって、言いました」
「な、なんだって!?」

 そんな事を素直に相談するなんて、自分まで恥をかいた気分になり、ムカついて背中を何度も引っ叩く。

「わぁ、やめてください。だって、俺、波多さんの全てが欲しいって、その気持ちがとまらないんですぅ~!!」

 と言われ、背中を叩く手が宙で止まる。

「な、なっ」

 躊躇う波多に、追い打ちをかけるように。

「波多さん、貴方の雄が垂らす蜜の味も知りたい」

 と、性的な意味合いも含めた言葉を口にされ、色々な感情が交じり頬が熱くなる。

 そうだ、きっと久世は自分の欲を満たすためだけに言っているに違いない。そう思ううちに、なんだか腹が立ってきた。

「お前にだけはやらんッ」
「波多さん」

 後ろから抱きしめられ、離せと肘で腹を突く。だが、強い力で抱きしめられて身動きが取れない。

「波多さん、欲しい」

 熱く息を吐き、そう懇願して耳を舐められた。

 ぞくぞくと芯が痺れる。その感覚から逃れるように、やめろと首を振るう。

「盛るんじゃねぇよ。お前は発情期の犬か!」

 と、腕が緩んだ隙に身を離し、その頬を平手打ちする。

「……お前は酷いよ」

 自分の欲を満たして満足したら波多から離れ、彼女と結婚し幸せな家庭を築くのだろう。

「波多さん」

 涙が滴り落ち、それを見た久世がおろおろとしはじめた。

「もういい、この馬鹿犬がぁッ!!」

 涙を拭い、おもいきり怒鳴りつけて乱暴にドアを閉め、周りの目が何事と自分を見ていたが、気にしないで席に座る。

 しょんぼりと見つめる久世を無視し、仕事をする。

「あらら、久世君のお耳と尻尾がたれちゃってるよ、波多君……、え、なに、目が真っ赤じゃない」

 八潮が何があったのというような目でこちらを見ており、

「何もありません。ちょっと顔を洗ってきます」

 とニッコリと微笑んで席を立つ。

 顔を洗った後、洗面所の鏡を眺め。おもわず泣いてしまった自分が情けない。






 仕事が終わり、ずっと無視されたことが相当こたえたか、いつもよりも控え目に声を掛けられる。

「波多さん……」

 反省しましたと顔に書いてあり、わざとため息をついてやれば、ビクッと大きな体が震えた。

「ほら、何時までしょぼくれてんだよ。帰るぞ」

 と言えば、ぱぁと表情が明るくなり、尻尾を振らん勢いだ。

「飯、奢らせてやる」

 これで許してやろうと、そんな意味も込めての誘いに、久世は二度、三度と頷いて波多の手を握りしめ、行きましょうと引っ張った。

「お前、お散歩に興奮する犬だな」

 そんな波多のツッコミに、同僚たちは笑い声をあげる。

 久世が波多に粗相をしてしまい、怒られてしまった事には気が付いていて、早く仲直りしてほしいと思っていたのだろう。

 同僚たちには心配をかけてしまったなと、無視なんて子供じみた真似をしたことを反省する。

「何、食べます?」
「そうだなぁ……」

 以前、女子達から得た情報を元に高級店の名前を上げていく。流石、高級店。うるさい久世も黙り込むほどだ。

 何か考え込むように腕を組むが、

「いきましょう!」

 それを解いて気合をいれるようにぐっと拳を握りしめると、ある高級店の名を告げる。

「本気か? 給料日はまだ先だぞ」
「波多さんが望むなら」

 波多が望むからと後先考えなしなのは困る。

 それに後々、あの日の食事がと、恨めしく思われたら嫌だ。

「冗談だし。全く、俺が望むからとか、やめてくれよ」
「何故です? 俺は本気で波多さんがそう望むなら、別にかまいませんよ」

 久世の表情は真剣そのもので、波多は顔を向ける事ができずにうつむく。

 そういう事を言わないでほしい。

 高鳴る鼓動を落ち着かせようと息を深くはきすて、手を伸ばして久世の額にデコピンを食らわす。

「痛い、え、なんでですか」
「うるさい。ほら、ラーメン食いに行くぞ!」

 と、リードのつもりでネクタイを掴み引っ張るが、

「わぁっ」

 不意に互いの顔が近づいて。ネクタイから手を離す。

「行くぞッ」

 思わず照れてしまった。それを見られたくなくて顔を背けて歩き出せば、その後を待ってくださいと久世が追いかけてきた。
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