カラメル

希紫瑠音

文字の大きさ
上 下
30 / 32
はじまりの場所

二人は幼馴染

しおりを挟む
 真一が企んだ通りに吾妻は俺の舎弟だという噂が広がり、いつの間にか俺はどこかの族の総長となったようだ。

 もともと俺は嫌われていたから周りにどう見られようが構わないけど、噂を信じていない一部のクラスメイトから「総長」とか言われて、それは流石にやめてほしいかな。

 報復を恐れて俺に対して陰口を叩く人は減ったけれど、怖がられてしまうので教室に居ずらいのは変わらない。

 昼休みになると吾妻が迎えに来てくれて一緒に屋上に行ったり保健室に行く。

 俺と一緒にいられることを素直に喜ぶ吾妻を見ていると、俺まで嬉しい気持ちになってくる。

 この頃の俺はそんな感じで、でも素直じゃないからそれは心の中へと閉まっていた。





 平塚君に会ってお礼を言いたい。そう川上君に頼んで保健室で待ち合わせることになった。

 今では俺は総長、吾妻は舎弟という噂になっているので会ってくれないかもと思っていたが、待ち合わせの場所に来てくれた。

「来てくれてありがとう」
「俺もまた先輩にお会いしたいと思っていたので、川上君から聞いてすごく嬉しかったです」

 と、いって貰えて安堵する。

「俺、今、総長とか言われているから、会ってもらえるかなって思っててさ」
「噂のことなら川上君からも聞いてます。それに俺は信じていませんでしたし」

 そう笑みを浮かべ、

「先輩は俺と一緒だから」

 とつぶやいた。

「え、それはどういう……?」

 言いにくそうな平塚君に、川上君がかわりにとばかりに口を開く。

「平塚の幼馴染って、笈川瞬おいかわしゅんなんですよ」

 彼のことはご存知でしょうかと聞かれて俺は頷く。

 一年に可愛い子が入ってきたと、クラスメイトが騒いでいた。なので彼のことは知っている。

 しかも、久遠のことを天使ちゃん、笈川君のことを小悪魔ちゃんと呼んでアイドル扱いしているのだ。

 俺も何度か笈川君を見かけたことがあり、つり目の美少年だなって思った。

「そう、なんだ」

 もしかしたら陰口とか言われているのかもしれないな。だから俺と同じだと言う訳か。

 それから俯いて黙り込む平塚君に、どうしたんだろうと思いながら肩に触れようとしたら、顔を上げて真っ直ぐと俺を見る。その表情は今にも泣き出しそうだ。

「ごめんなさい。木邑先輩が狙われたのは、多分、俺のせいなんです」

 と頭を下げる。

「どういうこと?」
「俺は笈川君の所有物なんです。だから笈川君以外の人に興味を持ってはいけないんです」

 なんだそれは。

 所有物だとか、自分以外の誰かに興味を持ってはいけないとか、どれだけ自分勝手なのだろうか。

「平塚君、君は笈川君と幼馴染なんだよね?」
「はい。小さな頃から笈川君の我儘を許していた俺が悪いんです」

 だから俺はこのままで良いと言う平塚君に、俺は彼の手をとりぎゅっと掴む。

「駄目だよ、そんな風に思っては」

 いいえと、平塚君は首を横に振り。

「俺が笈川君と幼馴染だからと傍に居るだけで陰口とかすごくて。下の名前で呼ぶだけでもすごい目で睨まれたりしました。それが嫌になって。笈川君を避けるようになってしまったんです。その時に所有物の癖にって言われて」 

 笈川君と彼の取り巻き達の言葉が平塚君を苦しめている。

 俺は許せなくて怒りで肩を震わせる。

「なんなの、笈川君って!」
「先輩、落ち着いて下さい」

 川上君が俺を宥める様に背中をさすり、平塚君はますます申し訳なさそうに頭をたれる。

「俺が木邑先輩のことをもっと知りたいって、そう思ったばかりに」

 それがいけなかったんですけどね、と、申し訳なさそうに俺を見る平塚君に、君のせいじゃないと肩を叩く。

「俺は何をされても大丈夫だから。平塚君、俺とお友達になろう」
「え、ですが、俺はっ」

 躊躇う平塚君に、俺は押しのもう一手を口にする。

「俺のことを守ってくれる舎弟がいるから大丈夫だよ」

 噂で聞いているでしょうと、微笑んで見せる。

「ふ、あはは、木邑先輩、貴方って人は」

 最強な舎弟ですねと、平塚君は笑い。そして俺の手を握りしめて宜しくお願いしますと頭を下げた。  



 平塚君か言う通りなら黒幕は笈川君だろう。だけど証拠はない。

 俺を連れて行った奴らは真一の情報網によって既に割り出されており、話を聞くと言っていたのでそちらは任せるとして、俺は笈川君の口から話を聞きたいと思った。

 実は皆に内緒で平塚君に笈川君と会いたいということを告げ、会う約束をつけたのだ。

 ただ、吾妻には黙っておけないので話をしたが、心配はするが俺を止めることは無かった。

「優、何かあったら叫べよ」
「うん、解ってる。それ、もう何回も聞いた」

 心配性だなと笑えば、

「しょうがねぇだろう」

 と俺の頬を手の甲で撫で心配そうに俺を見る吾妻。

 あぁ、今、すごくキスしてほしいな。そう思っていたら額に吾妻の唇が触れた。

「勇気の出るおまじない?」

 ふふっと俺は笑みを浮かべて額を指させば、吾妻が口角を上げて、

「そう。で、こっちは好きな奴にするキス」

 と唇を重ねた。

 素直にそのキスを受け入れる俺に、吾妻は目を細めて舌をからめる。

「ふ、あ」

 そう、自分の心に正直になった俺に、吾妻のキスは気持ち良いだけでなく幸せを与えてくれる。

 息が上がるほど深く口づけて、唇が離れる時には透明な糸がつなぎ合う。

 それがプツリときれた時に、寂しい顔を思わず浮かべてしまって。吾妻がやけに嬉しそうに目を細めてかるく触れるだけのキスをした。

「全部カタがついたら、もっとすげぇことをしようぜ」

 と、そう耳元で囁いて尻を意味ありげに揉まれた。

「ひゃっ! こら、調子にのるな」

 吾妻の手の甲をおもいきりつねってやれば、痛ぇと言って手が離れた。

「……吾妻、ここで待っていてね。俺、行ってくるから」
「おう」
「すげぇこと、楽しみにしてる」

 そう呟いて吾妻から離れようとした時。腕を掴まれて強く抱きしめられる。

「優、愛してる」

 そういうと吾妻の身体が離れ、俺は息を深くはき出すと待ち合わせをしている場所へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

身の程なら死ぬ程弁えてますのでどうぞご心配なく

かかし
BL
イジメが原因で卑屈になり過ぎて逆に失礼な平凡顔男子が、そんな平凡顔男子を好き過ぎて溺愛している美形とイチャイチャしたり、幼馴染の執着美形にストーカー(見守り)されたりしながら前向きになっていく話 ※イジメや暴力の描写があります ※主人公の性格が、人によっては不快に思われるかもしれません ※少しでも嫌だなと思われましたら直ぐに画面をもどり見なかったことにしてください pixivにて連載し完結した作品です 2022/08/20よりBOOTHにて加筆修正したものをDL販売行います。 お気に入りや感想、本当にありがとうございます! 感謝してもし尽くせません………!

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

こいつの思いは重すぎる!!

ちろこ
BL
俺が少し誰かと話すだけであいつはキレる…。 いつか監禁されそうで本当に怖いからやめてほしい。

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

君が好き過ぎてレイプした

眠りん
BL
 ぼくは大柄で力は強いけれど、かなりの小心者です。好きな人に告白なんて絶対出来ません。  放課後の教室で……ぼくの好きな湊也君が一人、席に座って眠っていました。  これはチャンスです。  目隠しをして、体を押え付ければ小柄な湊也君は抵抗出来ません。  どうせ恋人同士になんてなれません。  この先の長い人生、君の隣にいられないのなら、たった一度少しの時間でいい。君とセックスがしたいのです。  それで君への恋心は忘れます。  でも、翌日湊也君がぼくを呼び出しました。犯人がぼくだとバレてしまったのでしょうか?  不安に思いましたが、そんな事はありませんでした。 「犯人が誰か分からないんだ。ねぇ、柚月。しばらく俺と一緒にいて。俺の事守ってよ」  ぼくはガタイが良いだけで弱い人間です。小心者だし、人を守るなんて出来ません。  その時、湊也君が衝撃発言をしました。 「柚月の事……本当はずっと好きだったから」  なんと告白されたのです。  ぼくと湊也君は両思いだったのです。  このままレイプ事件の事はなかった事にしたいと思います。 ※誤字脱字があったらすみません

天然くんはエリート彼氏にメロメロに溺愛されています

氷魚(ひお)
BL
<現代BL小説/全年齢BL> 恋愛・結婚に性別は関係ない世界で エリート彼氏×天然くんが紡いでいく 💖ピュアラブ💖ハッピーストーリー! Kindle配信中の『エリート彼氏と天然くん』の大学生時のエピソードになります! こちらの作品のみでもお楽しみ頂けます(^^) ♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡ 進学で田舎から上京してきた五十鈴は、羊のキャラクター「プティクロシェット」が大のお気に入り。 バイト先で知り合った将が、同じキャンパスの先輩で、プティクロシェットが好きと分かり、すぐ仲良くなる。 夏前に将に告白され、付き合うことになった。 今日は将と、初めてアイスを食べに行くことになり…!? ♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡ ラブラブで甘々な二人のお話です💕

処理中です...