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希紫瑠音

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試験勉強(2)

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 意外な事に吾妻は無理やりでなく真面目に勉強している。

 それも眼鏡をかけていていつもと違った雰囲気に見える。尖った視線をレンズが覆い隠すかのようだ。

「なぁナオ、これなんて意味だ?」

 問題集を川上君の方へ向けてシャープペンシルで何か所か指示しそれについて川上君が丁寧に教えていた。

「優。お前、問題集に意識がいってないぞ」

 真一が俺を睨んだ後に問題集へと視線を向ける。俺の意識が吾妻にいっていることに気が付いての事だ。

「解らない所があるのか?」
「え、あ……」

 何も言えないでいる俺に、

「先輩、ちょっといいすか?」

 と、吾妻が俺たちの方に顔を向け話しかける。

「え?」
「あぁ?」

 俺と真一、両方同時に返事をすれば、

「あ、えっと澤木先輩」

 俺の方をちらっと見た後に真一へと視線を向ける。

 一体、真一に何の様なのだろうかと、その成り行きを見ていたら、

「この問題なんすけど」

 問題集を真一の方へと向けてわからない問題を指さす。

「俺もこの問題、解らなくて」

 と、川上君が吾妻と一緒に問題集を見る。

 その指の先の問題を見た瞬間、俺は眩暈を起こしそうになる。

 こんな問題、一年生の時やったっけ?

 まぁ、俺の場合、難しすぎて覚えていないだけなんだろうが。

「ああ、これか。これは……」

 質問された問題を丁寧に教えていく真一。

 もう、何の話だかサッパリで、ついていけない。

 久遠も同じらしく、俺を見て苦笑いをする。

「ありがとうございました」

 礼儀正しくお礼を言う吾妻。

 その後もペンを貸してあげた久遠に対しても丁寧に礼を言っていたし、川上君にも教えてもらえばお礼をちゃんと言っていた。

 俺の対しては先輩扱いも、礼儀正しい態度をとったことなどない。先輩と思われていないのかなとちょっと悲しい気持ちになりかけたぞ。 

「成程な」

 と、真一がいきなり呟いて、何か納得するように頷いた後に川上君を見る。

 そんな真一に、川上君は微笑みを浮かべただけ。それで互いに言いたいことが通じ合っているかのようだ。

 でも俺には何が成程なのかがわからない。久遠も解らない様で、俺と目を合わせて首をかしげた。





 吾妻が本棚にいった後、俺も辞書が必要になって本棚へと向かおうと席を立つ。

 二人のどちらかが一緒についてくるのかと思いきや、真一が行って来いと手を払う。どうやら吾妻を警戒するのをやめたようだ。

 それにここには自分たち以外にも生徒が居る。何かをしようなんて事は出来ない。

 辞書の置かれているコーナーで目的の物はすぐに見つかりそれを持って席に戻ろうとしたら本棚を睨みつける吾妻の姿が目に入る。

 一体なにを探しているのだろうと思い俺は吾妻の傍へとそっと近寄った。

「見つからないの?」

 吾妻の背後からそう尋ねれば、

「んぁ?」

 と俺の方へと視線を向けて、あれっといった表情を作る。

「なんだよ、アンタ一人?」
「え、あ……、うん」
「てっきりどちらかがついてくるかと思った」

 と、にぃっと唇をゆがめる。

 いつも通りの怖い顔。でも、このごろはその顔も怖さをあまり感じなくなってきた。

 なれってすごいと自分でも思う。

「実はさ、俺も驚いてる。もしかしたら吾妻が意外だったからかもよ」
「俺が意外だったって、何が?」
「礼儀正しい所」
「なんだよ、それじゃ俺があまりに礼儀知らずっぽいじゃねぇか」

 俺の顔を覗き込むように近づけて見る吾妻の、その鼻をつまんでやった。

「だって俺に対しては礼儀正しくない」

 そういってふにふにと何度か動かせば、ぎゅっと手首を吾妻に掴まれて引き離された。

 思わず無意識に自分の弟にするような事をしてしまい、まずいと吾妻の顔を見れば その頬は赤く染まっており、怒らせてしまったかと思い謝ろうとすれば、

「可愛い事すんじゃねぇよ」

 と唇を尖らせるその姿はどうやら照れているらしく、俺もまるで吾妻のが伝染したかのように真っ赤になる。

 それを誤魔化そうと話題をかえる。

「え、あ、そ、そうだ。 この前はごめんね。噂になっちゃったね」

 そういって自分の頬を指さす。その仕草で頬を張った事を思いだしたか「あぁ、あれね」と自分の頬をなでる。

 キスをされておもわず叩いてしまった吾妻の頬に、くっきりと残る手形のせいでいらぬ噂までたってしまった。

「まぁ、あれは自業自得だから別に良いって」

 噂自体は気にしてねぇよと、俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。

 暖かい大きな手。

 どこまでも優しい態度で俺に接してくれる吾妻に、胸がきゅっとなる。

「お、俺、席に戻るね」

 と、辞書を吾妻に見せれば、こくっと頷いて掴んでいた手首を離す。

「優……、今日は怖がらないでくれてありがとう」

 去り際にそんな事を言われ、胸がものすごい勢いで高鳴った。

 優しい話し方で、心底嬉しそうに俺を見つめる吾妻。

「じゃ、じゃぁね」

 言葉を返すことができなかった。

 俺は辞書を手に席へと戻る。真一が何か言いたげだったけれど、それ所じゃない。頭の中は吾妻の声で一杯になっていたから。

 それからの勉強はと言えば、全く身が入らなくて真一に何度もデコピンを食らった。その度に、優しいまなざしを吾妻から感じたけれど、俺は顔を上げられずにうつむいたままだった。
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