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友達になろう
試験勉強
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試験が近づくにつれ憂鬱になってくる。
俺の成績は毎回赤点をぎりぎり、久遠は俺より少しマシといった程度で。試験前には成績トップである真一が俺と久遠に勉強を教えてくれるのだが、何故だろう教わっても右から左に耳を通り過ぎてしまう。
「不思議だよね、勉強って」
「うん。教わったことをすぐに忘れられる」
参考書を開きながら俺は久遠とそんな会話をヒソヒソとしていた。
「お前ら、やる気あるのか?」
机を指でトントンと叩き、勉強が進んでいないと目で訴える真一だ。
「う~ん」
やる気があったのならば、今頃ノートは埋め尽くされているはずで、俺と久遠のノートには数行書き込まれている程度だった。
「お前、今回はマジでやばいって言っていたよな?」
顔を近づけて俺を見る真一の眼がすごく怖い。
「やるよ! そうだよな、赤点はとっちゃダメだよな。久遠、頑張ろう」
「う、うん!!」
真一に睨まれた状態で、それを無視して何もしないでいることなど俺には到底無理だ。
久遠も同じように思っていた様で、俺たちは真面目に勉強に取り掛かった。
図書室はとても広く勉強をするのに向いている。参考書の種類は豊富だしインターネットで調べ物をすることもできる。
しばらくの間は真面目に勉強をしていたのだが、静かな環境は次第に眠りの中へと誘っていく。
ウトウトとしはじめた俺だったが、突如起こったざわめきにハッと目を覚ます。
そちらの方へと視線を向ければ、凛とした表情を浮かべた下級生と不機嫌そうに顔を顰める吾妻の姿があり、まさか図書室にと驚いていた。
「なんだ、川上に無理やり図書室に連れてこられたって感じだな」
不機嫌な表情の吾妻を見て真一が言う。
「真一、あの子のことを知ってるの?」
吾妻と一緒にいるだけでも目立つがどうやらそれだけではなさそうで。彼も学校では名の知れた子なのだろうか。
「知っているもなにも、新入生代表で挨拶をしてた奴だぞ?」
覚えていないのかと真一に言われて首を横に振る。
「お前なぁ……」
どうせ寝ていたのだろうと言われて、その通りだったので笑ってごまかす。
「気持ちよさそうだったよ」
と久遠の言葉に真一が呆れたと肩を落とした。
「さて、勉強を再開するぞ」
未だざわつく図書室。真一は相手にすることなく勉強を再開し始める。
俺も参考書へと視線を向けるものの、意識は吾妻へと向いている。腕が止まったままなのに気が付いた真一に、
「こら、集中しろ」
と額にデコピンをくらい、その痛さに声をあげる。額をさすりながら俺は参考書に再び目を落とした。
吾妻が図書室に来てからずっと真一がピリピリしている。
しかも、吾妻を恐れて図書室から生徒が大分減ってしまった。
残った生徒は彼から遠い所に席を移動したりで、吾妻達は余計に目立っていた。
「あの、すみません」
そんな俺たちに吾妻と一緒に居た子が話しかけてくる。確か川上君って言ったっけ。
彼の声は落ち着いていて、とっても良い声をしている。
そんなことをぼんやりと思っていれば、
「そんなに警戒しないで貰えませんか?」
とすぐに声音が冷たいものへと変わり、おもわず川上君へと目を向ける。
川上君の視線は鋭く真一へと向けられていており、それを真正面から受け止めていた。
なんか、二人の間で冷たい空気が漂っている気がする。
俺は自身を包み込むように腕を回して二人のやり取りをこっそりと眺める。だって真っ直ぐ二人を見るのが怖いんだもの。
「川上、吾妻がコイツを呼び出したことは知っているよな?」
真一の、怒りを含んだ声。
「ええ、知ってます。でも、あの件につきましては当人達の問題ですから」
それにも平然とした態度の川上君。俺をちらりと見た後、直ぐに真一へと視線を戻した。
「へぇ……、そういうことを言うんだ」
吾妻は穂高先生と川上君にあの日のことを話したと言っていた。
俺は知っていますと、意味ありげな言葉を言う川上君。俺はまだあの日のことを二人に話せていない。
真一が怒るのも無理はないよな。友達なのに俺に起きたことを知らない。でも川上君は知っているのだから。
このままでは図書室で冷戦が行われそうな勢いで、遠巻き成り行きを見守っている生徒たちも気が気じゃないだろう。
「……先輩。これ以上俺たちが睨みあっていると周りに迷惑がかかってしまいそうですね。後にしませんか?」
「そうだな。皆、勉強しにきているのに迷惑になるな」
というと二人が纏う空気が軽くなる。
ホッとしたのもつかの間。
「ねぇ、一緒に勉強したらいいんじゃないの?」
なんて、久遠がとんでもないことを口にして。
「あぁ、それは良いですね」
と、川上君が久遠の意見に同意する。
久遠が俺たちの方を見ながら「ナイスなアイデアでしょ」とばかりに笑みを浮かべる。
「そうだな。その方が都合がいいか」
真一がそう呟いて、
「川上、吾妻を連れてこっちにこい」
と開いているスペースを指さす。
「はい、わかりました」
川上君は吾妻を連れにいったん席に戻り、すぐに吾妻と共に戻ってくる。
まさか、一緒に勉強をするなんて展開になるなんて思わなかった。
「よう」
嬉しそうに俺の元に近寄る吾妻に、その腕をつかみ引き離す。
そして何やら耳打ちをし、それになにやらしょんぼりとし始める。
「えっと、邪魔はしねぇから」
そう言うと、川上君が指定した場所に腰を下ろした。
真一の隣に川上君が座り、久遠の隣に吾妻が居る。吾妻から俺は一番遠い位置だ。
それにしても俺達、相当目立っているだろうなぁ。学校のアイドルに一目おかれる存在が二人にヤンキー……、そして平凡な俺。
すぐに噂になるのだろうなと、何を言われることやらと気が重い。
だが、そんなことを気にしているのは俺一人のようだ。
俺の成績は毎回赤点をぎりぎり、久遠は俺より少しマシといった程度で。試験前には成績トップである真一が俺と久遠に勉強を教えてくれるのだが、何故だろう教わっても右から左に耳を通り過ぎてしまう。
「不思議だよね、勉強って」
「うん。教わったことをすぐに忘れられる」
参考書を開きながら俺は久遠とそんな会話をヒソヒソとしていた。
「お前ら、やる気あるのか?」
机を指でトントンと叩き、勉強が進んでいないと目で訴える真一だ。
「う~ん」
やる気があったのならば、今頃ノートは埋め尽くされているはずで、俺と久遠のノートには数行書き込まれている程度だった。
「お前、今回はマジでやばいって言っていたよな?」
顔を近づけて俺を見る真一の眼がすごく怖い。
「やるよ! そうだよな、赤点はとっちゃダメだよな。久遠、頑張ろう」
「う、うん!!」
真一に睨まれた状態で、それを無視して何もしないでいることなど俺には到底無理だ。
久遠も同じように思っていた様で、俺たちは真面目に勉強に取り掛かった。
図書室はとても広く勉強をするのに向いている。参考書の種類は豊富だしインターネットで調べ物をすることもできる。
しばらくの間は真面目に勉強をしていたのだが、静かな環境は次第に眠りの中へと誘っていく。
ウトウトとしはじめた俺だったが、突如起こったざわめきにハッと目を覚ます。
そちらの方へと視線を向ければ、凛とした表情を浮かべた下級生と不機嫌そうに顔を顰める吾妻の姿があり、まさか図書室にと驚いていた。
「なんだ、川上に無理やり図書室に連れてこられたって感じだな」
不機嫌な表情の吾妻を見て真一が言う。
「真一、あの子のことを知ってるの?」
吾妻と一緒にいるだけでも目立つがどうやらそれだけではなさそうで。彼も学校では名の知れた子なのだろうか。
「知っているもなにも、新入生代表で挨拶をしてた奴だぞ?」
覚えていないのかと真一に言われて首を横に振る。
「お前なぁ……」
どうせ寝ていたのだろうと言われて、その通りだったので笑ってごまかす。
「気持ちよさそうだったよ」
と久遠の言葉に真一が呆れたと肩を落とした。
「さて、勉強を再開するぞ」
未だざわつく図書室。真一は相手にすることなく勉強を再開し始める。
俺も参考書へと視線を向けるものの、意識は吾妻へと向いている。腕が止まったままなのに気が付いた真一に、
「こら、集中しろ」
と額にデコピンをくらい、その痛さに声をあげる。額をさすりながら俺は参考書に再び目を落とした。
吾妻が図書室に来てからずっと真一がピリピリしている。
しかも、吾妻を恐れて図書室から生徒が大分減ってしまった。
残った生徒は彼から遠い所に席を移動したりで、吾妻達は余計に目立っていた。
「あの、すみません」
そんな俺たちに吾妻と一緒に居た子が話しかけてくる。確か川上君って言ったっけ。
彼の声は落ち着いていて、とっても良い声をしている。
そんなことをぼんやりと思っていれば、
「そんなに警戒しないで貰えませんか?」
とすぐに声音が冷たいものへと変わり、おもわず川上君へと目を向ける。
川上君の視線は鋭く真一へと向けられていており、それを真正面から受け止めていた。
なんか、二人の間で冷たい空気が漂っている気がする。
俺は自身を包み込むように腕を回して二人のやり取りをこっそりと眺める。だって真っ直ぐ二人を見るのが怖いんだもの。
「川上、吾妻がコイツを呼び出したことは知っているよな?」
真一の、怒りを含んだ声。
「ええ、知ってます。でも、あの件につきましては当人達の問題ですから」
それにも平然とした態度の川上君。俺をちらりと見た後、直ぐに真一へと視線を戻した。
「へぇ……、そういうことを言うんだ」
吾妻は穂高先生と川上君にあの日のことを話したと言っていた。
俺は知っていますと、意味ありげな言葉を言う川上君。俺はまだあの日のことを二人に話せていない。
真一が怒るのも無理はないよな。友達なのに俺に起きたことを知らない。でも川上君は知っているのだから。
このままでは図書室で冷戦が行われそうな勢いで、遠巻き成り行きを見守っている生徒たちも気が気じゃないだろう。
「……先輩。これ以上俺たちが睨みあっていると周りに迷惑がかかってしまいそうですね。後にしませんか?」
「そうだな。皆、勉強しにきているのに迷惑になるな」
というと二人が纏う空気が軽くなる。
ホッとしたのもつかの間。
「ねぇ、一緒に勉強したらいいんじゃないの?」
なんて、久遠がとんでもないことを口にして。
「あぁ、それは良いですね」
と、川上君が久遠の意見に同意する。
久遠が俺たちの方を見ながら「ナイスなアイデアでしょ」とばかりに笑みを浮かべる。
「そうだな。その方が都合がいいか」
真一がそう呟いて、
「川上、吾妻を連れてこっちにこい」
と開いているスペースを指さす。
「はい、わかりました」
川上君は吾妻を連れにいったん席に戻り、すぐに吾妻と共に戻ってくる。
まさか、一緒に勉強をするなんて展開になるなんて思わなかった。
「よう」
嬉しそうに俺の元に近寄る吾妻に、その腕をつかみ引き離す。
そして何やら耳打ちをし、それになにやらしょんぼりとし始める。
「えっと、邪魔はしねぇから」
そう言うと、川上君が指定した場所に腰を下ろした。
真一の隣に川上君が座り、久遠の隣に吾妻が居る。吾妻から俺は一番遠い位置だ。
それにしても俺達、相当目立っているだろうなぁ。学校のアイドルに一目おかれる存在が二人にヤンキー……、そして平凡な俺。
すぐに噂になるのだろうなと、何を言われることやらと気が重い。
だが、そんなことを気にしているのは俺一人のようだ。
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