14 / 32
後輩の彼
加瀬(4)
しおりを挟む
授業の内容で調べたい事があるから三十分だけ図書室を使わせてくださいと先生に許可を貰い、俺と真一は二人きりで図書室にいる。
調べ物があるといっていた癖に本棚に向かう素振りはない。
「真一、調べ事があるんでしょう。はやくやって帰ろうよ」
俺に手伝えることはないと聞くが、彼の口から出たのは別の言葉だった。
「樹、俺が前に言った事を覚えているか?」
その言葉に、すぐにある言葉が浮かんだが、口にしないでいると、
「有言実行」
と真一が言い、口角を上げる。
「俺、覚えているなんて言ってないよっ」
「でも、思い当たることがあるんだろう?」
と首筋を撫でられて、顔が熱くなる。
「……知らない」
少し間があいて、真一がニヤッと笑う。
「へぇ、本当に?」
顔が近づいてきて、
「学校でなんてダメだよ」
と思わす口に出てしまい、あわてて口元を手で覆い隠すが後の祭りだ。
「なんだ、やっぱり思い当たっているじゃねぇの」
身体がほわほわとして芯まで蕩けてしまいそうなキスだ。
頭がぼっとして、気持ちよくて、もっと欲しいと強請ってしまいそうになる。
「ふぁっ」
舌が、歯列をなぞり舌を絡め取る。
うまく唾液を嚥下できずに口の端から流れ落ちるが、それすら気にならないほどキスにおぼれる。
このまま流れに身を任せてしまいそうになる。だが、唇は離れ、透明な糸をつなぐ。
「んぁ、しんいち?」
「エロイ顔して」
濡れた俺の唇を、真一の親指で拭い、
「今はキスだけ」
と俺の身体を抱きしめた。
「そう、なの?」
丁度胸のあたりに俺の顔があり、顔をあげると真一の顔を覗き込むようなかたちとなる。
ホッとしたような残念なような、そんな複雑な気分。
だが、すぐに良かったんだと思いなおす。だって、真一の強引さに毒されちゃったら大変なことになりそうだ。甘い痺れをもたらす毒は病み付きになりそうな、そんな危険性を孕んでいるから。
「調べ物してくるから」
真一が身を離し、そのまま椅子に座らせられる。さりげない優しさを感じつつ、真一が戻るのを待つ。
本を数冊手に、戻ってきた真一は俺の目の前の席に腰を下ろした。
ずっと心の中に引っかかっていたことを、今なら聞けそうな気がする。
「ねぇ、真一は俺の何処に惚れたの?」
「確かになんでだろうな。あんなに嫌いだったのにな」
肘をついて俺を眺める。
「俺が無防備になれるのって、優達の前だけだったんだよ」
それじゃ答えにならないかといわれて、真一の言いたいことは解った。けれど……。
「無防備に慣れる相手なら、俺じゃなくたっていいって事でしょう?」
それこそ真一の事をよく理解している木邑君の方がお似合いじゃないか。
「駄目だ。樹じゃなければ駄目なんだ」
あの真一が必死だ。どうしよう、すごく嬉しい。喜びに身を震わせながらそのまま机に突っ伏せる。
「だからお前は俺の傍に居ろ。わかったな」
強引な物言いだが、俺の心は射抜かれた。
そっと顔をあげれば、真一の手が頬に触れる。そこに自分の手を重ねて、はいと頷いた。
「よし」
俺が真一の名を呼んだ時に見せた満足そうな笑み。また見ることが出来て嬉しい。
そうか、とっくに俺は毒されていたんだ。
これからも強引で俺様な彼に振り回される事になるだろう。だが、少し楽しみだと思える自分が居る。
「好き」
とつぶやいた俺の言葉に、当然だと真一が乱暴に髪を撫でた。
調べ物があるといっていた癖に本棚に向かう素振りはない。
「真一、調べ事があるんでしょう。はやくやって帰ろうよ」
俺に手伝えることはないと聞くが、彼の口から出たのは別の言葉だった。
「樹、俺が前に言った事を覚えているか?」
その言葉に、すぐにある言葉が浮かんだが、口にしないでいると、
「有言実行」
と真一が言い、口角を上げる。
「俺、覚えているなんて言ってないよっ」
「でも、思い当たることがあるんだろう?」
と首筋を撫でられて、顔が熱くなる。
「……知らない」
少し間があいて、真一がニヤッと笑う。
「へぇ、本当に?」
顔が近づいてきて、
「学校でなんてダメだよ」
と思わす口に出てしまい、あわてて口元を手で覆い隠すが後の祭りだ。
「なんだ、やっぱり思い当たっているじゃねぇの」
身体がほわほわとして芯まで蕩けてしまいそうなキスだ。
頭がぼっとして、気持ちよくて、もっと欲しいと強請ってしまいそうになる。
「ふぁっ」
舌が、歯列をなぞり舌を絡め取る。
うまく唾液を嚥下できずに口の端から流れ落ちるが、それすら気にならないほどキスにおぼれる。
このまま流れに身を任せてしまいそうになる。だが、唇は離れ、透明な糸をつなぐ。
「んぁ、しんいち?」
「エロイ顔して」
濡れた俺の唇を、真一の親指で拭い、
「今はキスだけ」
と俺の身体を抱きしめた。
「そう、なの?」
丁度胸のあたりに俺の顔があり、顔をあげると真一の顔を覗き込むようなかたちとなる。
ホッとしたような残念なような、そんな複雑な気分。
だが、すぐに良かったんだと思いなおす。だって、真一の強引さに毒されちゃったら大変なことになりそうだ。甘い痺れをもたらす毒は病み付きになりそうな、そんな危険性を孕んでいるから。
「調べ物してくるから」
真一が身を離し、そのまま椅子に座らせられる。さりげない優しさを感じつつ、真一が戻るのを待つ。
本を数冊手に、戻ってきた真一は俺の目の前の席に腰を下ろした。
ずっと心の中に引っかかっていたことを、今なら聞けそうな気がする。
「ねぇ、真一は俺の何処に惚れたの?」
「確かになんでだろうな。あんなに嫌いだったのにな」
肘をついて俺を眺める。
「俺が無防備になれるのって、優達の前だけだったんだよ」
それじゃ答えにならないかといわれて、真一の言いたいことは解った。けれど……。
「無防備に慣れる相手なら、俺じゃなくたっていいって事でしょう?」
それこそ真一の事をよく理解している木邑君の方がお似合いじゃないか。
「駄目だ。樹じゃなければ駄目なんだ」
あの真一が必死だ。どうしよう、すごく嬉しい。喜びに身を震わせながらそのまま机に突っ伏せる。
「だからお前は俺の傍に居ろ。わかったな」
強引な物言いだが、俺の心は射抜かれた。
そっと顔をあげれば、真一の手が頬に触れる。そこに自分の手を重ねて、はいと頷いた。
「よし」
俺が真一の名を呼んだ時に見せた満足そうな笑み。また見ることが出来て嬉しい。
そうか、とっくに俺は毒されていたんだ。
これからも強引で俺様な彼に振り回される事になるだろう。だが、少し楽しみだと思える自分が居る。
「好き」
とつぶやいた俺の言葉に、当然だと真一が乱暴に髪を撫でた。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
【doll】僕らの記念日に本命と浮気なんてしないでよ
月夜の晩に
BL
平凡な主人公には、不釣り合いなカッコいい彼氏がいた。
しかしある時、彼氏が過去に付き合えなかった地元の本命の身代わりとして、自分は選ばれただけだったと知る。
それでも良いと言い聞かせていたのに、本命の子が浪人を経て上京・彼氏を頼る様になって…
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
身の程なら死ぬ程弁えてますのでどうぞご心配なく
かかし
BL
イジメが原因で卑屈になり過ぎて逆に失礼な平凡顔男子が、そんな平凡顔男子を好き過ぎて溺愛している美形とイチャイチャしたり、幼馴染の執着美形にストーカー(見守り)されたりしながら前向きになっていく話
※イジメや暴力の描写があります
※主人公の性格が、人によっては不快に思われるかもしれません
※少しでも嫌だなと思われましたら直ぐに画面をもどり見なかったことにしてください
pixivにて連載し完結した作品です
2022/08/20よりBOOTHにて加筆修正したものをDL販売行います。
お気に入りや感想、本当にありがとうございます!
感謝してもし尽くせません………!
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる