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後輩の彼
加瀬(4)
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授業の内容で調べたい事があるから三十分だけ図書室を使わせてくださいと先生に許可を貰い、俺と真一は二人きりで図書室にいる。
調べ物があるといっていた癖に本棚に向かう素振りはない。
「真一、調べ事があるんでしょう。はやくやって帰ろうよ」
俺に手伝えることはないと聞くが、彼の口から出たのは別の言葉だった。
「樹、俺が前に言った事を覚えているか?」
その言葉に、すぐにある言葉が浮かんだが、口にしないでいると、
「有言実行」
と真一が言い、口角を上げる。
「俺、覚えているなんて言ってないよっ」
「でも、思い当たることがあるんだろう?」
と首筋を撫でられて、顔が熱くなる。
「……知らない」
少し間があいて、真一がニヤッと笑う。
「へぇ、本当に?」
顔が近づいてきて、
「学校でなんてダメだよ」
と思わす口に出てしまい、あわてて口元を手で覆い隠すが後の祭りだ。
「なんだ、やっぱり思い当たっているじゃねぇの」
身体がほわほわとして芯まで蕩けてしまいそうなキスだ。
頭がぼっとして、気持ちよくて、もっと欲しいと強請ってしまいそうになる。
「ふぁっ」
舌が、歯列をなぞり舌を絡め取る。
うまく唾液を嚥下できずに口の端から流れ落ちるが、それすら気にならないほどキスにおぼれる。
このまま流れに身を任せてしまいそうになる。だが、唇は離れ、透明な糸をつなぐ。
「んぁ、しんいち?」
「エロイ顔して」
濡れた俺の唇を、真一の親指で拭い、
「今はキスだけ」
と俺の身体を抱きしめた。
「そう、なの?」
丁度胸のあたりに俺の顔があり、顔をあげると真一の顔を覗き込むようなかたちとなる。
ホッとしたような残念なような、そんな複雑な気分。
だが、すぐに良かったんだと思いなおす。だって、真一の強引さに毒されちゃったら大変なことになりそうだ。甘い痺れをもたらす毒は病み付きになりそうな、そんな危険性を孕んでいるから。
「調べ物してくるから」
真一が身を離し、そのまま椅子に座らせられる。さりげない優しさを感じつつ、真一が戻るのを待つ。
本を数冊手に、戻ってきた真一は俺の目の前の席に腰を下ろした。
ずっと心の中に引っかかっていたことを、今なら聞けそうな気がする。
「ねぇ、真一は俺の何処に惚れたの?」
「確かになんでだろうな。あんなに嫌いだったのにな」
肘をついて俺を眺める。
「俺が無防備になれるのって、優達の前だけだったんだよ」
それじゃ答えにならないかといわれて、真一の言いたいことは解った。けれど……。
「無防備に慣れる相手なら、俺じゃなくたっていいって事でしょう?」
それこそ真一の事をよく理解している木邑君の方がお似合いじゃないか。
「駄目だ。樹じゃなければ駄目なんだ」
あの真一が必死だ。どうしよう、すごく嬉しい。喜びに身を震わせながらそのまま机に突っ伏せる。
「だからお前は俺の傍に居ろ。わかったな」
強引な物言いだが、俺の心は射抜かれた。
そっと顔をあげれば、真一の手が頬に触れる。そこに自分の手を重ねて、はいと頷いた。
「よし」
俺が真一の名を呼んだ時に見せた満足そうな笑み。また見ることが出来て嬉しい。
そうか、とっくに俺は毒されていたんだ。
これからも強引で俺様な彼に振り回される事になるだろう。だが、少し楽しみだと思える自分が居る。
「好き」
とつぶやいた俺の言葉に、当然だと真一が乱暴に髪を撫でた。
調べ物があるといっていた癖に本棚に向かう素振りはない。
「真一、調べ事があるんでしょう。はやくやって帰ろうよ」
俺に手伝えることはないと聞くが、彼の口から出たのは別の言葉だった。
「樹、俺が前に言った事を覚えているか?」
その言葉に、すぐにある言葉が浮かんだが、口にしないでいると、
「有言実行」
と真一が言い、口角を上げる。
「俺、覚えているなんて言ってないよっ」
「でも、思い当たることがあるんだろう?」
と首筋を撫でられて、顔が熱くなる。
「……知らない」
少し間があいて、真一がニヤッと笑う。
「へぇ、本当に?」
顔が近づいてきて、
「学校でなんてダメだよ」
と思わす口に出てしまい、あわてて口元を手で覆い隠すが後の祭りだ。
「なんだ、やっぱり思い当たっているじゃねぇの」
身体がほわほわとして芯まで蕩けてしまいそうなキスだ。
頭がぼっとして、気持ちよくて、もっと欲しいと強請ってしまいそうになる。
「ふぁっ」
舌が、歯列をなぞり舌を絡め取る。
うまく唾液を嚥下できずに口の端から流れ落ちるが、それすら気にならないほどキスにおぼれる。
このまま流れに身を任せてしまいそうになる。だが、唇は離れ、透明な糸をつなぐ。
「んぁ、しんいち?」
「エロイ顔して」
濡れた俺の唇を、真一の親指で拭い、
「今はキスだけ」
と俺の身体を抱きしめた。
「そう、なの?」
丁度胸のあたりに俺の顔があり、顔をあげると真一の顔を覗き込むようなかたちとなる。
ホッとしたような残念なような、そんな複雑な気分。
だが、すぐに良かったんだと思いなおす。だって、真一の強引さに毒されちゃったら大変なことになりそうだ。甘い痺れをもたらす毒は病み付きになりそうな、そんな危険性を孕んでいるから。
「調べ物してくるから」
真一が身を離し、そのまま椅子に座らせられる。さりげない優しさを感じつつ、真一が戻るのを待つ。
本を数冊手に、戻ってきた真一は俺の目の前の席に腰を下ろした。
ずっと心の中に引っかかっていたことを、今なら聞けそうな気がする。
「ねぇ、真一は俺の何処に惚れたの?」
「確かになんでだろうな。あんなに嫌いだったのにな」
肘をついて俺を眺める。
「俺が無防備になれるのって、優達の前だけだったんだよ」
それじゃ答えにならないかといわれて、真一の言いたいことは解った。けれど……。
「無防備に慣れる相手なら、俺じゃなくたっていいって事でしょう?」
それこそ真一の事をよく理解している木邑君の方がお似合いじゃないか。
「駄目だ。樹じゃなければ駄目なんだ」
あの真一が必死だ。どうしよう、すごく嬉しい。喜びに身を震わせながらそのまま机に突っ伏せる。
「だからお前は俺の傍に居ろ。わかったな」
強引な物言いだが、俺の心は射抜かれた。
そっと顔をあげれば、真一の手が頬に触れる。そこに自分の手を重ねて、はいと頷いた。
「よし」
俺が真一の名を呼んだ時に見せた満足そうな笑み。また見ることが出来て嬉しい。
そうか、とっくに俺は毒されていたんだ。
これからも強引で俺様な彼に振り回される事になるだろう。だが、少し楽しみだと思える自分が居る。
「好き」
とつぶやいた俺の言葉に、当然だと真一が乱暴に髪を撫でた。
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