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偶然の出来事/噂
噂(1)
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保健室で吾妻と偶然に出会った。
だが、それから数日が過ぎたが吾妻と顔を合わせることは無く、たまに見かけても不機嫌な顔をしていたり、後ろ姿だったり。
吾妻から渡された携帯電話とメールアドレスの書かれたメモは未だ部屋の机の引き出しの中に入ったままで、時折、穂高先生の言葉が頭をよぎり、その度に引き出しに手をかけるのだが結局やめてしまう。
何を話せというのだろうか。相手は噂の絶えないあの「吾妻」なのだ。
昼休み。
今日は真一と久遠も外せない用事があり教室にはいない。
桂司兄ちゃんの所に行こうと思ったが、真一から教室の中に居ろと釘を刺されており、俺は仕方なく教室で本を読んでいた。
本当は教室なんかに居たくない。
俺は何も取り柄のない生徒で、勉強の出来は良くないしスポーツも得意な方ではない。
そんな俺が成績優秀な真一と学校のアイドルである久遠の傍にいて、仲良くしている姿を見るのが面白くないと思うクラスメイトもいたりする。
二人が居ないとあからさまに嫉妬の視線を浴びせられたり、悪意を持った言葉を投げかけられたりして俺の胸を容赦なくえぐるのだ。
胃がキリキリと痛む。
俺は弱くて情けない男だ。言い返すこともできずに耳を塞いでしまう。
結局、真一に言われたことは守れなかった。耐えることができなかった俺は逃げるように教室を出て屋上へと向かった。
昼休みの間だけの居るつもりだったのだが、あと少しだけと思っていたら予鈴が鳴ってしまい、結局そのまま五時間目をサボることにした。
教室に居ない俺を心配して探さないように、真一と久遠には「お昼を食べすぎて気持ちが悪いので外の風に当たってます」とメールを送信する。
きっと後で真一に怒られるだろうな。言いつけを守らなかったのだから。
だが、ここには吾妻の姿はないし、予鈴が鳴った時点で俺以外の生徒は教室に戻った。だから今は一人きりだ。
きっと吾妻も俺の気持ちを解ってくれたんだろう。携帯の電話番号とメールアドレスを俺に渡したのに連絡もしないのだから。
だから吾妻も俺を追い回すような真似をしないでいるのだろう。
一人きりの満喫するように、空を眺めながらゆっくりと伸びをしてフェンスに寄りかかっていれば、出入り口のドアが開く音がして俺はギクッとする。
授業が始まっていることを考えると、生徒の誰かがここにサボりに来たのかもしれない。
どうしよう。
ドキドキする胸に手を当て、どこかに隠れようかと周りを見渡す俺に、相手はお構いなしに近づいてきてくる。
だが、その相手の顔を見た瞬間、俺は血の気を失った。
「……吾妻」
「よう、優」
吾妻が口角を上げていつもの様に極悪面を見せる。
なぜここに? と、そう尋ねる前に吾妻がここに来た理由を話しはじめる。
「実さ、アンタが屋上に向かっているのを見かけてな。まさかまだ居るとは思わなかった」
ラッキーだぜ、と俺の傍へ近寄り同じようにフェンスに寄りかかった。
姿が見えないからと油断していた。
でも、俺を見かけたというのにすぐにこなかったのはどうしてだろう。
俺は吾妻を盗み見るように見つめれば、じっと俺を見つめる吾妻の視線がぶつかりあう。
「な、何見ているんだよ」
吾妻を見ていたこと、そして吾妻が俺を見ていたことが妙に恥ずかしくて視線を外す。
「好きな奴を見ていたいって、フツー思うもんじゃねぇの?」
と恥ずかしいことをさらりと口にした後。
「本当はさ、すぐにでも追いかけようって思ったんだけど、アンタ以外に誰かいたらまた変な噂がたっちまうかなって」
俺を追いかけなかった理由は、俺に気遣ってのことだったのか。
前に吾妻に呼び出しされた時にも噂がたった。
大抵は「調子にのっているから」だとか「いつかシメられると思った」とか「ザマアミロ」とか、酷いもので。
心配をしてくれたのは真一たちとごく一部のクラスメイトだけだった。
「そっか」
傍に真一や久遠が居る時は悪口を言う奴はあまりいないのだが、居なくなった途端に遠慮のない言葉や視線を向けられる。
「優の噂ってさ、一人歩きしている所があるからな」
そう言って吾妻はその場に腰を下ろした。
俺も隣に腰を下ろして吾妻の言葉の続きを待つ。
「俺が優に興味を持ったのは、たまたま陰口を耳にしてさ」
「そう、なんだ」
自分の全てを否定するような罵詈雑言。幼馴染というだけの特権で真一と久遠の傍にいるのが許せないと。
二人に相応しくないと言いたいことは解っている。平凡な自分が学校で目立つ存在である二人のすぐ近くにいるのだから。
気持ちが沈んでいく。
膝をぎゅっと抱きかかえるように丸くなる俺に、ふわりと大きな手が髪に触れる。視線をあげて吾妻を見れば、優しい目をしていた。
「どんな奴なのか見てやろうって、初めはそんな軽い気持ちだった。でも噂は噂でしかなかった。優のことをよく見ていればちゃんとわかるのにな」
優が二人を惹きつけているのになとぽんと頭の上に手を置く。
自分のことをちゃんと見てくれてそう言ってくれたのは幼馴染たち以外ではじめてだった。
それ故に恥ずかしくなってきて頬が熱くなる。
「な、何を、言って……」
あたふたとする俺に、
「なぁ、俺のことを好きになれよ」
そう、真っ直ぐと見つめながら言われて。俺は困ってしまって俯いた。
だが、それから数日が過ぎたが吾妻と顔を合わせることは無く、たまに見かけても不機嫌な顔をしていたり、後ろ姿だったり。
吾妻から渡された携帯電話とメールアドレスの書かれたメモは未だ部屋の机の引き出しの中に入ったままで、時折、穂高先生の言葉が頭をよぎり、その度に引き出しに手をかけるのだが結局やめてしまう。
何を話せというのだろうか。相手は噂の絶えないあの「吾妻」なのだ。
昼休み。
今日は真一と久遠も外せない用事があり教室にはいない。
桂司兄ちゃんの所に行こうと思ったが、真一から教室の中に居ろと釘を刺されており、俺は仕方なく教室で本を読んでいた。
本当は教室なんかに居たくない。
俺は何も取り柄のない生徒で、勉強の出来は良くないしスポーツも得意な方ではない。
そんな俺が成績優秀な真一と学校のアイドルである久遠の傍にいて、仲良くしている姿を見るのが面白くないと思うクラスメイトもいたりする。
二人が居ないとあからさまに嫉妬の視線を浴びせられたり、悪意を持った言葉を投げかけられたりして俺の胸を容赦なくえぐるのだ。
胃がキリキリと痛む。
俺は弱くて情けない男だ。言い返すこともできずに耳を塞いでしまう。
結局、真一に言われたことは守れなかった。耐えることができなかった俺は逃げるように教室を出て屋上へと向かった。
昼休みの間だけの居るつもりだったのだが、あと少しだけと思っていたら予鈴が鳴ってしまい、結局そのまま五時間目をサボることにした。
教室に居ない俺を心配して探さないように、真一と久遠には「お昼を食べすぎて気持ちが悪いので外の風に当たってます」とメールを送信する。
きっと後で真一に怒られるだろうな。言いつけを守らなかったのだから。
だが、ここには吾妻の姿はないし、予鈴が鳴った時点で俺以外の生徒は教室に戻った。だから今は一人きりだ。
きっと吾妻も俺の気持ちを解ってくれたんだろう。携帯の電話番号とメールアドレスを俺に渡したのに連絡もしないのだから。
だから吾妻も俺を追い回すような真似をしないでいるのだろう。
一人きりの満喫するように、空を眺めながらゆっくりと伸びをしてフェンスに寄りかかっていれば、出入り口のドアが開く音がして俺はギクッとする。
授業が始まっていることを考えると、生徒の誰かがここにサボりに来たのかもしれない。
どうしよう。
ドキドキする胸に手を当て、どこかに隠れようかと周りを見渡す俺に、相手はお構いなしに近づいてきてくる。
だが、その相手の顔を見た瞬間、俺は血の気を失った。
「……吾妻」
「よう、優」
吾妻が口角を上げていつもの様に極悪面を見せる。
なぜここに? と、そう尋ねる前に吾妻がここに来た理由を話しはじめる。
「実さ、アンタが屋上に向かっているのを見かけてな。まさかまだ居るとは思わなかった」
ラッキーだぜ、と俺の傍へ近寄り同じようにフェンスに寄りかかった。
姿が見えないからと油断していた。
でも、俺を見かけたというのにすぐにこなかったのはどうしてだろう。
俺は吾妻を盗み見るように見つめれば、じっと俺を見つめる吾妻の視線がぶつかりあう。
「な、何見ているんだよ」
吾妻を見ていたこと、そして吾妻が俺を見ていたことが妙に恥ずかしくて視線を外す。
「好きな奴を見ていたいって、フツー思うもんじゃねぇの?」
と恥ずかしいことをさらりと口にした後。
「本当はさ、すぐにでも追いかけようって思ったんだけど、アンタ以外に誰かいたらまた変な噂がたっちまうかなって」
俺を追いかけなかった理由は、俺に気遣ってのことだったのか。
前に吾妻に呼び出しされた時にも噂がたった。
大抵は「調子にのっているから」だとか「いつかシメられると思った」とか「ザマアミロ」とか、酷いもので。
心配をしてくれたのは真一たちとごく一部のクラスメイトだけだった。
「そっか」
傍に真一や久遠が居る時は悪口を言う奴はあまりいないのだが、居なくなった途端に遠慮のない言葉や視線を向けられる。
「優の噂ってさ、一人歩きしている所があるからな」
そう言って吾妻はその場に腰を下ろした。
俺も隣に腰を下ろして吾妻の言葉の続きを待つ。
「俺が優に興味を持ったのは、たまたま陰口を耳にしてさ」
「そう、なんだ」
自分の全てを否定するような罵詈雑言。幼馴染というだけの特権で真一と久遠の傍にいるのが許せないと。
二人に相応しくないと言いたいことは解っている。平凡な自分が学校で目立つ存在である二人のすぐ近くにいるのだから。
気持ちが沈んでいく。
膝をぎゅっと抱きかかえるように丸くなる俺に、ふわりと大きな手が髪に触れる。視線をあげて吾妻を見れば、優しい目をしていた。
「どんな奴なのか見てやろうって、初めはそんな軽い気持ちだった。でも噂は噂でしかなかった。優のことをよく見ていればちゃんとわかるのにな」
優が二人を惹きつけているのになとぽんと頭の上に手を置く。
自分のことをちゃんと見てくれてそう言ってくれたのは幼馴染たち以外ではじめてだった。
それ故に恥ずかしくなってきて頬が熱くなる。
「な、何を、言って……」
あたふたとする俺に、
「なぁ、俺のことを好きになれよ」
そう、真っ直ぐと見つめながら言われて。俺は困ってしまって俯いた。
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