6 / 32
偶然の出来事/噂
偶然の出来事
しおりを挟む
告白されて下駄箱で待ち伏せされたあの日から、運よく吾妻に会うことなく一週間過ごせた。
吾妻と追いかけっこをする生活を送る羽目になるかもしれない。そう恐れていたが、俺が出来るだけ一人にならぬようにと幼馴染達が傍にいてくれた。
皆にすごく迷惑をかけてしまっている。申し訳ないとは思っているが、情けない事に俺一人じゃ吾妻に立ち向かうのは無理なので好意に素直に甘える事にした。
だが、時に予想もしない出来事が起こる事もある。
体育の時間に軽く足をひねってしまい、俺は保健室で治療を受けていた。
まさかこのタイミングで吾妻が保健室にくるなんて思わず、偶然とはいえ出会えたことに、怖い顔で微笑んだ。
「会いたかったぜ、優」
傍へと近寄ってくる吾妻に対して、俺は逃げる事で頭がいっぱいで、怪我をした方の足に力を入れて立ち上がってしまい激痛に襲われる。
「くっ」
「おい、大丈夫か木邑」
穂高先生が背中に手を回して椅子に座らせてくれる。
その様子を見ていた吾妻が心配そうな表情を浮かべ、その脚に触れようと手を伸ばしてくるが、触れる前に穂高先生が制してくれた。
「お前がそんな面で迫って来るから、木邑が怖がっているだろう」
この馬鹿者がと、穂高先生は言うと吾妻の後頭部をおもいきり叩いた。
「え、先生!?」
さすがにそれはやばいのではと、ハラハラしながら二人の様子を眺めていれば、吾妻は叩かれた箇所をさすりながら穂高先生の隣に立った。
「痛えんだよ、この暴力教諭」
と、口調こそは乱暴だが、その声音に怒気は含んでおらず、俺は目を瞬かせながら二人を見る。
「お前が悪いんだよ。木邑の怪我が悪化したらどうするんだ」
なぁ、と同意を求められて「はぁ」と曖昧な返事をしてしまう。
「悪かったな。まさかここで優と会えるなんて思わなくてさ、テンション上がっちまった」
そう言うと俺の頬に吾妻の手が触れて、反省している様子の彼に何も言えないまま見つめていた。
「はぁ。やっぱ、怖えか俺は」
そうため息交じりに行った後、頬に触れていた吾妻の手が離れた。
「あ、いや」
傷つけてしまったかと、謝ろうと口を開きかけたが、結局はそのまま押し黙る。
だが、吾妻はまるで何事もなかったかのように俺の顔に顔を近づけて、
「メルアドとケーバン、教えろ」
なんて言いだす。
「え、どうして?」
と躊躇えば、
「メルアドとケーバン!」
さらに念を押すように言われてしまう。
「こら、勇人。そのくらいにしておけよ。困っているだろう」
穂高先生が横やりを入れて助けてくれる。
正直、助かった。いつ送られてくるかわからないメールや、着信音が鳴るたびに怯える日々なんて嫌だ。
だが、吾妻はそう簡単にあきらてはくれない。
「じゃぁいいよ。おい、優、これ俺のメルアドとケーバン。電話して来い」
机の上のメモ帳に書いた電話番号とメールアドレスを強引に手渡され、
「じゃぁ、俺は教室に戻るから。またな、優」
今にも鼻歌を歌いだしそうな足取りで吾妻が保健室を出ていった。
そんな姿を呆気にとられながら眺める俺と、優しげに見つめる穂高先生だ。
「勇人、あんなに浮かれて。余程、木邑に会えたのが嬉しかったんだな」
そう、クスクスと笑いだす。
「そんな」
会えたのが嬉しいとか、そんなの困る。
メモを握りしめる俺に、穂高先生は俺の肩に手を置き、
「アイツさ、手はかかるし顔は怖いけれど、可愛い奴だよ」
そう優しい表情を浮かべる。
それが手のかかる弟を見守る兄のようにみえた。
「先生って、お兄さんみたいですね」
「え、やだよ、あんな手のかかる奴が弟なんて」
なんていいながらも、嬉しそうな表情を浮かべた。
穂高先生といる時の吾妻は怖くなかった。きっと良い関係を結べているのだろう。
「なぁ、あいつに電話してやってよ」
「え……?」
「噂で聞くような男じゃないって事、話をしてみればわかるから」
木邑には特に知ってもらいたいんだ、と、そう言われて、正直、困惑するだけだ。
俺が吾妻の事を知ってどうしろというのだろう。キスをされた事はまだ許すことができない。
「まぁ、電話してもいいなってそう思えた時で良いから。さて、そろそろあいつ等来るんじゃないか?」
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、それからほどなくして真一と久遠が保健室にとやってくる。
「先生、ありがとうございました。失礼します」
「うん。今日は安静にするんだぞ」
「はい」
頭を下げ、真一の肩をかり保健室を出る。
二人には保健室で吾妻と会った事、メールアドレスと携帯の番号の事も内緒にしておこう。これ以上、心配をかけたくないという思いと、吾妻の意外な一面を見たから。
家に帰った後、自室のベッドの上に腰をかけ、吾妻から受け取ったメモと携帯を交互にずっと眺めている。
何度がアドレスに登録しようか、しまいかと指を動かすが、何もせずに携帯をテーブルに置くが、再びそれをまた手にとり、どうしようかと悩んで結局やめる。
「出来ないよ、電話なんて」
穂高先生に言われたとしても、吾妻と電話で喋るとかメールのやり取りをするなんて、やはり考えられない。
俺は吾妻から手渡された紙を机の引き出しにしまい、携帯を机の上に置いた。
吾妻と追いかけっこをする生活を送る羽目になるかもしれない。そう恐れていたが、俺が出来るだけ一人にならぬようにと幼馴染達が傍にいてくれた。
皆にすごく迷惑をかけてしまっている。申し訳ないとは思っているが、情けない事に俺一人じゃ吾妻に立ち向かうのは無理なので好意に素直に甘える事にした。
だが、時に予想もしない出来事が起こる事もある。
体育の時間に軽く足をひねってしまい、俺は保健室で治療を受けていた。
まさかこのタイミングで吾妻が保健室にくるなんて思わず、偶然とはいえ出会えたことに、怖い顔で微笑んだ。
「会いたかったぜ、優」
傍へと近寄ってくる吾妻に対して、俺は逃げる事で頭がいっぱいで、怪我をした方の足に力を入れて立ち上がってしまい激痛に襲われる。
「くっ」
「おい、大丈夫か木邑」
穂高先生が背中に手を回して椅子に座らせてくれる。
その様子を見ていた吾妻が心配そうな表情を浮かべ、その脚に触れようと手を伸ばしてくるが、触れる前に穂高先生が制してくれた。
「お前がそんな面で迫って来るから、木邑が怖がっているだろう」
この馬鹿者がと、穂高先生は言うと吾妻の後頭部をおもいきり叩いた。
「え、先生!?」
さすがにそれはやばいのではと、ハラハラしながら二人の様子を眺めていれば、吾妻は叩かれた箇所をさすりながら穂高先生の隣に立った。
「痛えんだよ、この暴力教諭」
と、口調こそは乱暴だが、その声音に怒気は含んでおらず、俺は目を瞬かせながら二人を見る。
「お前が悪いんだよ。木邑の怪我が悪化したらどうするんだ」
なぁ、と同意を求められて「はぁ」と曖昧な返事をしてしまう。
「悪かったな。まさかここで優と会えるなんて思わなくてさ、テンション上がっちまった」
そう言うと俺の頬に吾妻の手が触れて、反省している様子の彼に何も言えないまま見つめていた。
「はぁ。やっぱ、怖えか俺は」
そうため息交じりに行った後、頬に触れていた吾妻の手が離れた。
「あ、いや」
傷つけてしまったかと、謝ろうと口を開きかけたが、結局はそのまま押し黙る。
だが、吾妻はまるで何事もなかったかのように俺の顔に顔を近づけて、
「メルアドとケーバン、教えろ」
なんて言いだす。
「え、どうして?」
と躊躇えば、
「メルアドとケーバン!」
さらに念を押すように言われてしまう。
「こら、勇人。そのくらいにしておけよ。困っているだろう」
穂高先生が横やりを入れて助けてくれる。
正直、助かった。いつ送られてくるかわからないメールや、着信音が鳴るたびに怯える日々なんて嫌だ。
だが、吾妻はそう簡単にあきらてはくれない。
「じゃぁいいよ。おい、優、これ俺のメルアドとケーバン。電話して来い」
机の上のメモ帳に書いた電話番号とメールアドレスを強引に手渡され、
「じゃぁ、俺は教室に戻るから。またな、優」
今にも鼻歌を歌いだしそうな足取りで吾妻が保健室を出ていった。
そんな姿を呆気にとられながら眺める俺と、優しげに見つめる穂高先生だ。
「勇人、あんなに浮かれて。余程、木邑に会えたのが嬉しかったんだな」
そう、クスクスと笑いだす。
「そんな」
会えたのが嬉しいとか、そんなの困る。
メモを握りしめる俺に、穂高先生は俺の肩に手を置き、
「アイツさ、手はかかるし顔は怖いけれど、可愛い奴だよ」
そう優しい表情を浮かべる。
それが手のかかる弟を見守る兄のようにみえた。
「先生って、お兄さんみたいですね」
「え、やだよ、あんな手のかかる奴が弟なんて」
なんていいながらも、嬉しそうな表情を浮かべた。
穂高先生といる時の吾妻は怖くなかった。きっと良い関係を結べているのだろう。
「なぁ、あいつに電話してやってよ」
「え……?」
「噂で聞くような男じゃないって事、話をしてみればわかるから」
木邑には特に知ってもらいたいんだ、と、そう言われて、正直、困惑するだけだ。
俺が吾妻の事を知ってどうしろというのだろう。キスをされた事はまだ許すことができない。
「まぁ、電話してもいいなってそう思えた時で良いから。さて、そろそろあいつ等来るんじゃないか?」
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、それからほどなくして真一と久遠が保健室にとやってくる。
「先生、ありがとうございました。失礼します」
「うん。今日は安静にするんだぞ」
「はい」
頭を下げ、真一の肩をかり保健室を出る。
二人には保健室で吾妻と会った事、メールアドレスと携帯の番号の事も内緒にしておこう。これ以上、心配をかけたくないという思いと、吾妻の意外な一面を見たから。
家に帰った後、自室のベッドの上に腰をかけ、吾妻から受け取ったメモと携帯を交互にずっと眺めている。
何度がアドレスに登録しようか、しまいかと指を動かすが、何もせずに携帯をテーブルに置くが、再びそれをまた手にとり、どうしようかと悩んで結局やめる。
「出来ないよ、電話なんて」
穂高先生に言われたとしても、吾妻と電話で喋るとかメールのやり取りをするなんて、やはり考えられない。
俺は吾妻から手渡された紙を机の引き出しにしまい、携帯を机の上に置いた。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
【doll】僕らの記念日に本命と浮気なんてしないでよ
月夜の晩に
BL
平凡な主人公には、不釣り合いなカッコいい彼氏がいた。
しかしある時、彼氏が過去に付き合えなかった地元の本命の身代わりとして、自分は選ばれただけだったと知る。
それでも良いと言い聞かせていたのに、本命の子が浪人を経て上京・彼氏を頼る様になって…
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
身の程なら死ぬ程弁えてますのでどうぞご心配なく
かかし
BL
イジメが原因で卑屈になり過ぎて逆に失礼な平凡顔男子が、そんな平凡顔男子を好き過ぎて溺愛している美形とイチャイチャしたり、幼馴染の執着美形にストーカー(見守り)されたりしながら前向きになっていく話
※イジメや暴力の描写があります
※主人公の性格が、人によっては不快に思われるかもしれません
※少しでも嫌だなと思われましたら直ぐに画面をもどり見なかったことにしてください
pixivにて連載し完結した作品です
2022/08/20よりBOOTHにて加筆修正したものをDL販売行います。
お気に入りや感想、本当にありがとうございます!
感謝してもし尽くせません………!
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる