獣人ハ恋シ家族ニナル

希紫瑠音

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リュンの主張

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※※※


 ミヒルと仲間たちを捕まえたという知らせを受けたのはあれから三日後のことだった。

 内偵で得た情報をもとに、下水道を使い子供を連れて行こうとしていたのを取り押さえ、アジトとして使用していた部屋に残っていた子供の保護と一味の身柄をおさえた。その中にミヒルの姿もあったという。

「ミヒル、みつかったの?」
「見つけた。子供たちも保護したぞ」

 それを聞いてホッとした。ミヒルを止めることができたのだから。

「よかった」
「またあえるといいな」

 リュンにとってはバードとの思い出はよいものだったのだろう。悪いことをしていたとしてもだ。

 複雑な気持ちになりブレーズはしゃがんでリュンを抱きしめた。

「ブレーズ、どうしたの」
「リュン、ミヒルとは……」

 口にしようとした言葉をさえぎるようにセドリックがふたりを抱きしめた。

「リュン、ミヒルとは会えない」
「え、なんでっ、ミヒルとあいたい!!」
「ミヒルは罪を償うために遠くに行くことになるだろう」
「そんな、いや」

 体をよじらせてふたりから抜け出ると外へと飛び出していった。

「リュン!」

 すぐに後を追いかけると木に登っているところだった。

「リュン、危ないから」

 やめさせようと木へ向かおうとするが、セドリックに止められた。

「セド」
「大丈夫だ。もしものときは受け止める」

 太い幹までたどり着きそこに座るリュンに、

「リュン、悪いことをしたらどうなるかわかるよな」
「うん。でもミヒルはやさしかった」
「あぁ。リュンを俺に引き合わせてくれたのだからな」
「せめてボクだけはって、ミヒルのちで、ボクをびょうきにみせたの。これでたすかるからって、いいじゅうじんにみつけてもらえって」

 そしてセドリックとあえたの、そうリュンはいい、そして大きな声をあげて泣き始めた。

「リュンをあそこで見つけた時、病気だからと放置したのだと思っていた。だが、ライナー先生から命に別状はないと聞き、あれは助けるための偽装だったのだと知った。自分たちのしていることが間違いだとわかっている獣人がひとりでもいるとわかり少しだけ救われた」

 いったん言葉を切り、

「それがパン屋で子供たちに優しかったバードでそれが本当はそうして生きていきたかったのだと思っている。だがミヒルはやってはいけないことをした。だから罪を償わなければいけない」
「だけどあいたいの」

 本当はリュンもわかっている。だけど認めたくないのだろう。

 その理由はなんだろうと考えた時、ある答えにたどり着いた。

「リュンは、ミヒルにどうして会いたいの?」
「おれい、いいたい」

 やはりそうだった。リュンは助けてもらったお礼を言いたかったのだ。

「そうか、それは気が付かなかった」

 リュンの気持ちを知り、セドリックも納得したようだ。

「わかった。どうにか会えるように掛け合ってみよう」
「ほんとう」

 嬉しさから木の上であることを忘れてしまったか立ち上がろうとして足を踏み出した。

 そこは何もない。リュンの体は真っ逆さまに落ちていく。

「リュン!!」

 悲鳴をあげるブレーズに、

「大丈夫だ」

 と肩をたたき、高く飛び上がっって腕の中へと見事にキャッチをする。

「セド、すごい」
「だろう?」

 落ちた本人は楽しそうだし、セドはいつもの通りだ。腰を抜かして座り込んでいるのはブレーズだけだった。

「よかった、無事で……」

 それを見たふたりが慌てて側へとやってくる。

「大丈夫か」
「ブレーズ、へいき?」
「獣人の君たちは大丈夫だと思っていても、人の子である僕は思っていることが違うんだよ」

 自分だけ平気でないことに怒りがこみあげて顔をそむけた。

「ごめん、驚かせたよな」
「ブレーズ、ごめんね」

 もふんと両頬に頭をくっつけてぐりぐりとしはじめた。反省をしているといいたいのだろう。

「ずるいよそれ」

 大好きな獣人にそれをされたら怒っていても許してしまう。 

 耳をたらしてキューン、ぐるぐると鳴き声をあげる。

 怒ったふりをしてもすでに頭の中は可愛いで埋め尽くされている。

 口元がふよふよと動き、目じりが下がっているに違いない。

「セド、ブレーズ、もうおこってないよ」

 顔をしたから覗き込みそうセドに伝える。

「本当だ。よかった」

 同じように顔をのぞかせるセドリックに、ブレーズは笑みを浮かべてふたりに腕を回した。
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<獣人、恋慕ノ情ヲ抱ク>シリーズ

獣人ハ恋ヲスル
・獣人剣士(家事が得意)×少年剣士(火傷があり、コンプレックスに)【R18】

獣人ハ恋焦ガレル
・人の子と獣人の友情。互いに好きな人ができて恋をする。
・獣人(騎士・料理上手)×人の子(獣人ラブな薬師)【R18】

獣人ハ甘ヤカシ、甘ヤカサレル
・人の子(年上・医者)×獣人(パン屋)/歳の差【R18】

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